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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはアリーに不意打ちをくらう

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表ミッションは、アリーとの仲睦まじいイチャイチャを楽しむ事。
ぼくの内心で密かに設定した裏ミッションは……アリーと一頻り交流する中で「それって、タチとしてどうなんですか?」に類する台詞を言わせない、だ。

……あれ? 表も裏もあんまり変わらない? いいや、気にしないでいよう。




「……あっ。」

アリーが声を洩らす。

別にエッチな事をしているんじゃないよ?
残念ながら此処は、パーティ会場と隣接したテラスだからね。幾ら何でも衣服を脱がなきゃならない行為には及べないよね。

アリーの頬を手で包むように撫でても嫌がられなかったのを良い事に、ぼくは指を伸ばして唇の端に触れてみたんだ。
小さな唇の膨らみスレスレを、悪戯するように指先で辿ったら。
困ったような、泣きそうなような……とにかく嗜虐心を擽られる表情に変わったアリーが、慌ててぼくの手首辺りを掴んだ。


「だっ……駄目っ。」
「ん? ……何が?」
「そん…なトコ、触っちゃ……駄目ぇ。」

いいなぁ、これ……。
虐めているみたいで、『格好良い』の奇跡ランクがする行動としては良くない事なんだが、これは止められない。これはもう仕方が無いよね。
だってアリーが自分からぼくに触ってくるなんて、ご褒美以外の何物でも無いじゃないか。しかもこんなに可愛い事を言いながら、だよ?

本格的に嫌がる前に止めるから、もう少しだけ続けてもいいかな。


「そんなトコ……って?」
「うぅ~……。」

ぼくが聞くと、言い難そうなアリー。
そんな恥ずかしがるような程の事じゃない気もするが、膝枕という体勢で、身体が触れているから余計に恥ずかしく感じるのかもね。

……でも、アリー? 逃がさないぞ?


「ぼくに触られるの、嫌じゃないんだよね? ……何処が、駄目。なの?」
「ぁ……っん。……く、くち…」

手首を掴まれる力は全然強くない。ぼくの指はまだ自由だ。
傷付けないように、痛くないように気を付けながら、爪先でツンツンして言葉を促した。


「…くち、びる……。駄目…」
「もぉ~。可愛いなぁ~。」

こんな程度で喜んじゃうぼくは、何てチョロいんだろうね。自分でも思うよ。
もしこの世界が恋愛シミュレーションゲームで、ぼくが攻略対象者だったとしたら。難易度は激アマ、何をしても喜んでくれる、初心者お奨めのキャラ。間違いないね。ゲームをやり始めた初日でスチールも隠しエピソードも全部入手されて、二周目以降は割とスルーされるんだ。それどころか、他キャラ狙いの時にも勝手に親しくなって来て「えー、また出て来るのー? カッコ棒読み」とか言われて迷惑がられるんだ。

別にそれで構わないがねっ!



「クスっ……。ねぇ、アリー、キスしていい?」
「………。」

……。

……ぼく、よ。

…………何故、言った。


うん、完全に舞い上がったとでも言おうか。
それとも、馬鹿な事を考えてしまった所為で、まるでゲームでもしているような感覚になってしまったか。


ほらぁ……。アリー、固まっちゃったじゃないか。
どうする? どうやってこの状況を打開する? まさかの最終奥義、「なぁ~んちゃって。てへぺろ。」を炸裂させるのか?
……駄目でしょ、それは。それが一番『格好良い』に相応しくないよ。

――― 嫌がられない内にしちゃうのもアリ……かな。

……いや、やっぱり無しだよ。世野悟が相手して来たような、あばず……げふんげふん。性的な事に開放的な方々じゃないんだから。


胸中では騒がしく、ぼくとボクの脳内会議を繰り広げていると。



「…ん……、……ぁむっ。」

アリーが……。

……ぼくの指を、……食べた。

唇で、挟んで。ぼくの指先を、ちろりと舐めた。



今のは完全に、完璧に不意打ちだ。……そんなの狡いよ。


顔を真っ赤にして。潤んだ瞳でぼくを見上げるアリー。
だが恐らく、顔が赤いのはぼくも同じだろう。今の一瞬で、自分が生きているのを実感出来るぐらい、心臓が脈打っているんだ。
自分から言い出しておいて赤面するなんて、『格好良い』でも『タチ』でも相応しくないように思うんだが。こればっかりは、アリーにも見逃して貰えると嬉しいな。


「……いい?」
「ぅん……。」

ぼくの指先を咥えたアリーが小さく顎を引く。頷いてくれたという事だ。
うっとりした表情を見ても、許してくれていると分かる。唇は殆ど閉じているが、嬉しそうな笑みに見えた。


アリーに微笑み返して。邪魔をする者がいないか、念の為に周囲へと視線を向けたぼくは。
ぼくは激しく、とても激しく後悔する。


そう、とても、激しく後悔する。



とっととキスしちゃえば良かった。




「こんな所でサボってる。……パーティの主役が、いいのかな~?」


明らかに邪魔して来るのは。

パーティ会場へと行けるドアの横に背中を預けた『エロエロしい』のアレックだった。
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