25 / 54
兄:ミジェ編 〜魔術室長の魔術セクハラが酷いんですけど!?〜
幸せなような、寂しいような……?
しおりを挟む
それでもとりあえずは頑張って良かった。
魔道具はすごく喜んで貰えたし、思いがけなくチェイス室長とも会えて元気そうな姿を見ることが出来たのもすごく嬉しい。
それに……それに、チェイス室長は帰り際、緊張した面持ちで「少しだけ抱きしめてもいいだろうか」なんて聞いてきてくれて、オレたちは本当に僅かな時間だけど抱きしめ合う事が出来た。
初めてこんな風に穏やかに抱きしめられて、包んでくれる腕が、胸が、思いの外暖かくてなんだかすごく幸せな気分になる。濃厚な魔力に包まれていると、クラクラするみたいに多幸感が襲ってきて、気を抜くと足の力が抜けてしまいそう。
縋り付くようにチェイス室長の背に腕を回したら、きゅ、とチェイス室長の腕の力が強くなった。
うわ……心臓の音が聞こえる。チェイス室長の魔力が忙しない鼓動の音と共に体の中にまで浸透してくるみたいだ。耳も、体も、頭の中まで、全てが満たされていくみたいなこの感じ……オレ、やっぱりチェイス室長が好きなんだなぁ……。
「幸せだ」
上からそんな声が降ってきて、なんだかジーンとしてしまった。このまま天国みたいな心地よさに浸っていたいのはやまやまだけど、忙しいチェイス室長をいつまでも拘束してもいられない。
「ミジェ、今後もしまた魔術室を訪ねることがあったら、必ず顔を見せてくれよ」
切ない顔でそんな嬉しい事を言ってくれるチェイス室長に別れを告げ、なんだかすごく満ち足りた気持ちになったオレは、その日スキップしたいような気持ちで家に帰った。
祭りが終わったら、チェイス室長とあんな風に幸せな時間を過ごせるのかな。そう思うと気持ちまで晴れやかになる思いだった。
とは言え。
数日経つとやっぱりちょっと寂しくなってくる。
前は魔道具造りに集中してたら一週間過ぎるのなんてあっという間だったのに、今はチェイス室長の顔をずっと見られないのが寂しいと感じるようになってしまった。特にあの、抱きしめられた時に感じた圧倒的な多幸感。あんなのもう、麻薬に近いと思う。
癒しの力が凝縮したみたいな、あのあったかい魔力に触れないとなんだか元気が出ない気がするんだよね。
でも、いよいよ明日は祭りだ。
祭りったって一週間も経てば終わる。祭りが終わったらきっとまた前みたいに美味しいご飯と甘い酒を持って訪ねて来てくれるんだろう。
それまでは寂しくたって我慢しなきゃな。
気を紛らわすかのようにがむしゃらに魔道具を作り続け、疲れきったところで味気ない飯を食って、風呂に入って冷たいベッドにゴソゴソと体を横たえた。
その時だ。
なんか違和感を感じて、オレは一旦閉じた目を開けて、空間を凝視した。
なんか、今、ほっぺたに触った?
自分のほっぺたを触ってみたけど、特に異変はない。暗闇の中でじっと目を凝らしてみても何も見えなくて、オレは仕方なく布団の中で身じろぎしつつ眠気が来るのを待つ。
すると、急にふわっと全身があったかい何かで包まれた。
全身包まれて「ああ」と納得する。だってめちゃくちゃ覚えがある魔力だ。心地いい、チェイス室長の穏やかで癒されるような魔力。
ふわっと包まれてうとうとと微睡みたくなる……
いや!ゆったりしてる場合じゃねーだろ、オレ!
もちろん飛び起きた。だって、この魔力があるって事は、チェイス室長が近くに居るって事だろ!? せっかく来てくれたのにオレが寝てると思って扉の前でがっかりしてるチェイス室長の姿が容易に想像できる。オレは慌てて玄関の扉を押し開けた。
「……あれ?」
誰もいない。
え? そんな事ある?
家の外周を一周してみて、念のために家の中もあちこち見てみたけど、やっぱりチェイス室長はもちろん猫の子一匹居なかった。
玄関の扉を閉めて、布団に戻って……オレは首を傾げた。
だってさっきからずっと、チェイス室長の陽だまりみたいな魔力はオレを優しく包んだままだ。本体が居ないのに魔力だけあるなんて、そんな事今まで一回たりともなかった。
「……チェイス室長?」
呼んでみるけど、当然部屋の中はシーンとしたままで、わりとでっかい独り言を言ったみたいになってしまった。ちょっと恥ずかしい。
仕方なくまた電気を消してモゾモゾと布団に潜り、暗闇の中ぼんやりと考える。もしかして魔力の制御を試行錯誤しているうちに遠隔で魔力を送れるようにでもなったんだろうか。
オレを包み込む魔力に触れてみる。
オレにも魔力が見えたなら、この包み込んでくれている魔力がチェイス室長の姿に見えたのかな。せっかくここに居てくれるなら、姿が見えたり会話できたりしたらもっと楽しいのに。
そう考えてプルプルと頭を振る。
それはさすがに贅沢だ。忙しいチェイス室長をこうしてちょっとだけ感じられるだけでも充分に嬉しい。オレをしっかりと抱きしめて添い寝してくれてるみたいだって思えば、すごくすごく幸せな事なんだし。
チェイス室長の魔力にこっそり頬擦りして目を閉じる。
このまま眠ってしまえば、きっととても幸福な夢を見ることが出来るんじゃないかな。
……そう思ったのに。
眠れない!!!!!
チェイス室長の魔力に抱きしめられてるんだと思えば思うほど、なんだか体が熱くなってくる。あれほどセクハラしてきてたチェイス室長の魔力なのに、今オレを包んでいる魔力はめちゃくちゃお行儀よくオレを労わるようにそこにあるだけだ。
ヌきたいけど、チェイス室長の魔力を纏ったままするのも憚られる。結局オレは、悶々としたまま朝を迎える羽目になってしまった。
魔道具はすごく喜んで貰えたし、思いがけなくチェイス室長とも会えて元気そうな姿を見ることが出来たのもすごく嬉しい。
それに……それに、チェイス室長は帰り際、緊張した面持ちで「少しだけ抱きしめてもいいだろうか」なんて聞いてきてくれて、オレたちは本当に僅かな時間だけど抱きしめ合う事が出来た。
初めてこんな風に穏やかに抱きしめられて、包んでくれる腕が、胸が、思いの外暖かくてなんだかすごく幸せな気分になる。濃厚な魔力に包まれていると、クラクラするみたいに多幸感が襲ってきて、気を抜くと足の力が抜けてしまいそう。
縋り付くようにチェイス室長の背に腕を回したら、きゅ、とチェイス室長の腕の力が強くなった。
うわ……心臓の音が聞こえる。チェイス室長の魔力が忙しない鼓動の音と共に体の中にまで浸透してくるみたいだ。耳も、体も、頭の中まで、全てが満たされていくみたいなこの感じ……オレ、やっぱりチェイス室長が好きなんだなぁ……。
「幸せだ」
上からそんな声が降ってきて、なんだかジーンとしてしまった。このまま天国みたいな心地よさに浸っていたいのはやまやまだけど、忙しいチェイス室長をいつまでも拘束してもいられない。
「ミジェ、今後もしまた魔術室を訪ねることがあったら、必ず顔を見せてくれよ」
切ない顔でそんな嬉しい事を言ってくれるチェイス室長に別れを告げ、なんだかすごく満ち足りた気持ちになったオレは、その日スキップしたいような気持ちで家に帰った。
祭りが終わったら、チェイス室長とあんな風に幸せな時間を過ごせるのかな。そう思うと気持ちまで晴れやかになる思いだった。
とは言え。
数日経つとやっぱりちょっと寂しくなってくる。
前は魔道具造りに集中してたら一週間過ぎるのなんてあっという間だったのに、今はチェイス室長の顔をずっと見られないのが寂しいと感じるようになってしまった。特にあの、抱きしめられた時に感じた圧倒的な多幸感。あんなのもう、麻薬に近いと思う。
癒しの力が凝縮したみたいな、あのあったかい魔力に触れないとなんだか元気が出ない気がするんだよね。
でも、いよいよ明日は祭りだ。
祭りったって一週間も経てば終わる。祭りが終わったらきっとまた前みたいに美味しいご飯と甘い酒を持って訪ねて来てくれるんだろう。
それまでは寂しくたって我慢しなきゃな。
気を紛らわすかのようにがむしゃらに魔道具を作り続け、疲れきったところで味気ない飯を食って、風呂に入って冷たいベッドにゴソゴソと体を横たえた。
その時だ。
なんか違和感を感じて、オレは一旦閉じた目を開けて、空間を凝視した。
なんか、今、ほっぺたに触った?
自分のほっぺたを触ってみたけど、特に異変はない。暗闇の中でじっと目を凝らしてみても何も見えなくて、オレは仕方なく布団の中で身じろぎしつつ眠気が来るのを待つ。
すると、急にふわっと全身があったかい何かで包まれた。
全身包まれて「ああ」と納得する。だってめちゃくちゃ覚えがある魔力だ。心地いい、チェイス室長の穏やかで癒されるような魔力。
ふわっと包まれてうとうとと微睡みたくなる……
いや!ゆったりしてる場合じゃねーだろ、オレ!
もちろん飛び起きた。だって、この魔力があるって事は、チェイス室長が近くに居るって事だろ!? せっかく来てくれたのにオレが寝てると思って扉の前でがっかりしてるチェイス室長の姿が容易に想像できる。オレは慌てて玄関の扉を押し開けた。
「……あれ?」
誰もいない。
え? そんな事ある?
家の外周を一周してみて、念のために家の中もあちこち見てみたけど、やっぱりチェイス室長はもちろん猫の子一匹居なかった。
玄関の扉を閉めて、布団に戻って……オレは首を傾げた。
だってさっきからずっと、チェイス室長の陽だまりみたいな魔力はオレを優しく包んだままだ。本体が居ないのに魔力だけあるなんて、そんな事今まで一回たりともなかった。
「……チェイス室長?」
呼んでみるけど、当然部屋の中はシーンとしたままで、わりとでっかい独り言を言ったみたいになってしまった。ちょっと恥ずかしい。
仕方なくまた電気を消してモゾモゾと布団に潜り、暗闇の中ぼんやりと考える。もしかして魔力の制御を試行錯誤しているうちに遠隔で魔力を送れるようにでもなったんだろうか。
オレを包み込む魔力に触れてみる。
オレにも魔力が見えたなら、この包み込んでくれている魔力がチェイス室長の姿に見えたのかな。せっかくここに居てくれるなら、姿が見えたり会話できたりしたらもっと楽しいのに。
そう考えてプルプルと頭を振る。
それはさすがに贅沢だ。忙しいチェイス室長をこうしてちょっとだけ感じられるだけでも充分に嬉しい。オレをしっかりと抱きしめて添い寝してくれてるみたいだって思えば、すごくすごく幸せな事なんだし。
チェイス室長の魔力にこっそり頬擦りして目を閉じる。
このまま眠ってしまえば、きっととても幸福な夢を見ることが出来るんじゃないかな。
……そう思ったのに。
眠れない!!!!!
チェイス室長の魔力に抱きしめられてるんだと思えば思うほど、なんだか体が熱くなってくる。あれほどセクハラしてきてたチェイス室長の魔力なのに、今オレを包んでいる魔力はめちゃくちゃお行儀よくオレを労わるようにそこにあるだけだ。
ヌきたいけど、チェイス室長の魔力を纏ったままするのも憚られる。結局オレは、悶々としたまま朝を迎える羽目になってしまった。
31
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる