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兄:ミジェ編 〜魔術室長の魔術セクハラが酷いんですけど!?〜
どうしてここに?
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うわぁ、さすがにこの状況でチェイス室長を呼ぶ勇気はないな。
しばらくはライールが担当してくれるって言ってたし、ライールを呼んでもいいだろうか。
「あら、ミジェ。どうしたの? 修理か何かあったかしら」
「ローラさん! いや今日はちょっと届け物なんだ。ライールいるかな?」
「ええ、もちろん」
「オレ仕事の邪魔したくないから、休憩室にいるよ。悪いけどライール呼んでもらってもいいかな」
「いいけど……」
「あ、それも邪魔かな」
「いえ、大丈夫よ。休憩室で待ってて」
ぱちんとひとつウインクして、ローラさんは奥へと入っていく。ありがたく休憩室で待ってたら、ほどなくライールが走ってきてくれた。
「どーしたの、ミジェ」
「あ、ライール、呼び出してごめんな。この前、皆めちゃくちゃ忙しいって言ってたからさ、なんか役に立つ魔道具作れないかと思ってさ」
「うっわ、ナニコレ! え、まさかこれ全部魔道具?」
紙袋の中から次々出てくる大量の耳栓型の魔道具を見て、ライールは目を丸くしてくれる。チェイス室長もだけど、ライールも魔道具見せた時の反応が良くて嬉しくなるんだよな。
簡単に機能を説明したら、ライールは早速手に取って「つけてみていい?」と聞いてきた。
「うん。耳に装着して、設定したい音量の回数分、指先で軽く耳栓をタップしてみて」
「こんな感じ?」
一回タップしてみて「わっ! 音が消えた!?」と驚いてからタップを増やしてはいちいち驚いてくれる。十一回までタップしたら、自動でゼロに戻るから、多分使い方はそんなに難しくない筈。
「へー消音機能便利だな。耳につけたままで音量調節できるのも便利だわ」
「使ってみて改良するのもできるからさ、困ったことあったら言ってよ」
「おう、皆喜ぶぜ、きっと。えーと、七以上はむしろ集音になるんだよな。面白いなぁ」
軽快にライールの指が耳栓型魔道具をタップした。多分最大音量にしたな、と思ったら、なぜかライールは「あ、やべ」と呟いて、慌てて耳栓を外す。
「どうかした……」
そう言いかけたオレの耳にも、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
バタン! と扉が結構な勢いで開いて、誰かが飛び込んでくる。オレは目をむいた。
「チェイス室長!?」
「ほ、ホントに居る……!」
まるで幽霊でも見たみたいに信じられない様子で、ゆっくりと休憩室に入ってくるチェイス室長と入れ替わりに、ライールは耳栓型魔道具をさっとかき集めて紙袋に入れて小脇に抱えると、ニカッと笑った。
「じゃー俺は仕事に戻る! ありがとな、ミジェ!」
「あ! みんなによろしく!」
「おう! あ、チェイス室長! 防音と結界張っときますんでごゆっくりー!」
え、なんで? と問いたくなるような言葉を残して、ライールは脱兎のごとく駆けていった。
「ミジェ、どうしてここに?」
「あ、えっと、魔術室の皆がめちゃくちゃ忙しいって言ってたから、差し入れに魔道具作って持ってきたんだ。さっきライールに渡したんだけど」
「へえ、どんな?」
「10段階で消音から集音まで調節できる、耳栓型の魔道具。集中できたりするといいかな、と思って」
「それはまたすごいものを開発したんだな、きっと役に立つだろう。ありがとう、ミジェ」
「いや、オレがチェイス室長に無茶なこと言ったせいで、チェイス室長も魔術室の皆も余計に大変になっちゃったみたいだから、なんか代わりに役に立つことしたかったんだ」
「ミジェは優しいな」
フ、と笑った室長はなぜか寂しそうな顔をした。
「……? なんかあったのか?」
「なぜ?」
「なんか落ち込んでる感じするから」
そう伝えたら、チェイス室長は赤くなったあと、「情けない」と呟いて、自分の目を覆ったまま天を仰いだ。
「……いや、単純に寂しかっただけだ。ミジェはせっかく魔術室を訪ねてくれたというのに、私ではなくライールを呼んだだろう? 大人気なくて申し訳ない」
「あんなに忙しそうなチェイス室長を呼び出す勇気はねえよ。皆の仕事が止まったらオレ、来た意味ないじゃん。むしろ邪魔になっちゃうし」
「そこは気にしないでくれ。ミジェの顔を見たら私のやる気がアップする。少々の時間話した分などあっという間に取り戻せるから、むしろお釣りが来るくらいだ」
「あ、そう……」
恥ずかしい事言うなぁと思ったけど、あえてそれに触れる方が恥ずかしいから、とりあえず流す。
どんな顔でそんなセリフを吐くんだよ、と思って見上げたらいつもの穏やかな微笑みで拍子抜けしたくらいだ。でも、その顔を見て、オレは「あっ」っと声を上げた。
「顔色いいな! 目の下のクマもだいぶ薄くなってる」
「このところ体調もいいよ。実は睡眠時間などはさほど変わっていないんだけどね、ミジェがくれた魔道具のおかげで眠りの質が上がったのと、手軽に疲労回復できるのが効いているみたいだ」
「ホントに!?」
こんなに顕著に魔道具の効果が確認できると、めちゃくちゃ嬉しい。しかも、チェイス室長が本当に体調が良さそうなのが素直に嬉しかった。
「さっきミジェが迷惑をかけたと心配していたようだけれど、むしろ私の稼働時間が確保できて皆感謝しているくらいだよ。ありがとう、ミジェ」
「おいおい、疲労回復があるからって余計に無茶したりしないでくれよ?」
「気をつけるよ」
穏やかに笑うチェイス室長は、さすがに職場ということもあってか、怪しい魔力どころかオレが大好きな穏やかな魔力ですら触ってこない。
恥ずかしいことに、それが少し寂しいと思ってしまった自分がいた。
しばらくはライールが担当してくれるって言ってたし、ライールを呼んでもいいだろうか。
「あら、ミジェ。どうしたの? 修理か何かあったかしら」
「ローラさん! いや今日はちょっと届け物なんだ。ライールいるかな?」
「ええ、もちろん」
「オレ仕事の邪魔したくないから、休憩室にいるよ。悪いけどライール呼んでもらってもいいかな」
「いいけど……」
「あ、それも邪魔かな」
「いえ、大丈夫よ。休憩室で待ってて」
ぱちんとひとつウインクして、ローラさんは奥へと入っていく。ありがたく休憩室で待ってたら、ほどなくライールが走ってきてくれた。
「どーしたの、ミジェ」
「あ、ライール、呼び出してごめんな。この前、皆めちゃくちゃ忙しいって言ってたからさ、なんか役に立つ魔道具作れないかと思ってさ」
「うっわ、ナニコレ! え、まさかこれ全部魔道具?」
紙袋の中から次々出てくる大量の耳栓型の魔道具を見て、ライールは目を丸くしてくれる。チェイス室長もだけど、ライールも魔道具見せた時の反応が良くて嬉しくなるんだよな。
簡単に機能を説明したら、ライールは早速手に取って「つけてみていい?」と聞いてきた。
「うん。耳に装着して、設定したい音量の回数分、指先で軽く耳栓をタップしてみて」
「こんな感じ?」
一回タップしてみて「わっ! 音が消えた!?」と驚いてからタップを増やしてはいちいち驚いてくれる。十一回までタップしたら、自動でゼロに戻るから、多分使い方はそんなに難しくない筈。
「へー消音機能便利だな。耳につけたままで音量調節できるのも便利だわ」
「使ってみて改良するのもできるからさ、困ったことあったら言ってよ」
「おう、皆喜ぶぜ、きっと。えーと、七以上はむしろ集音になるんだよな。面白いなぁ」
軽快にライールの指が耳栓型魔道具をタップした。多分最大音量にしたな、と思ったら、なぜかライールは「あ、やべ」と呟いて、慌てて耳栓を外す。
「どうかした……」
そう言いかけたオレの耳にも、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
バタン! と扉が結構な勢いで開いて、誰かが飛び込んでくる。オレは目をむいた。
「チェイス室長!?」
「ほ、ホントに居る……!」
まるで幽霊でも見たみたいに信じられない様子で、ゆっくりと休憩室に入ってくるチェイス室長と入れ替わりに、ライールは耳栓型魔道具をさっとかき集めて紙袋に入れて小脇に抱えると、ニカッと笑った。
「じゃー俺は仕事に戻る! ありがとな、ミジェ!」
「あ! みんなによろしく!」
「おう! あ、チェイス室長! 防音と結界張っときますんでごゆっくりー!」
え、なんで? と問いたくなるような言葉を残して、ライールは脱兎のごとく駆けていった。
「ミジェ、どうしてここに?」
「あ、えっと、魔術室の皆がめちゃくちゃ忙しいって言ってたから、差し入れに魔道具作って持ってきたんだ。さっきライールに渡したんだけど」
「へえ、どんな?」
「10段階で消音から集音まで調節できる、耳栓型の魔道具。集中できたりするといいかな、と思って」
「それはまたすごいものを開発したんだな、きっと役に立つだろう。ありがとう、ミジェ」
「いや、オレがチェイス室長に無茶なこと言ったせいで、チェイス室長も魔術室の皆も余計に大変になっちゃったみたいだから、なんか代わりに役に立つことしたかったんだ」
「ミジェは優しいな」
フ、と笑った室長はなぜか寂しそうな顔をした。
「……? なんかあったのか?」
「なぜ?」
「なんか落ち込んでる感じするから」
そう伝えたら、チェイス室長は赤くなったあと、「情けない」と呟いて、自分の目を覆ったまま天を仰いだ。
「……いや、単純に寂しかっただけだ。ミジェはせっかく魔術室を訪ねてくれたというのに、私ではなくライールを呼んだだろう? 大人気なくて申し訳ない」
「あんなに忙しそうなチェイス室長を呼び出す勇気はねえよ。皆の仕事が止まったらオレ、来た意味ないじゃん。むしろ邪魔になっちゃうし」
「そこは気にしないでくれ。ミジェの顔を見たら私のやる気がアップする。少々の時間話した分などあっという間に取り戻せるから、むしろお釣りが来るくらいだ」
「あ、そう……」
恥ずかしい事言うなぁと思ったけど、あえてそれに触れる方が恥ずかしいから、とりあえず流す。
どんな顔でそんなセリフを吐くんだよ、と思って見上げたらいつもの穏やかな微笑みで拍子抜けしたくらいだ。でも、その顔を見て、オレは「あっ」っと声を上げた。
「顔色いいな! 目の下のクマもだいぶ薄くなってる」
「このところ体調もいいよ。実は睡眠時間などはさほど変わっていないんだけどね、ミジェがくれた魔道具のおかげで眠りの質が上がったのと、手軽に疲労回復できるのが効いているみたいだ」
「ホントに!?」
こんなに顕著に魔道具の効果が確認できると、めちゃくちゃ嬉しい。しかも、チェイス室長が本当に体調が良さそうなのが素直に嬉しかった。
「さっきミジェが迷惑をかけたと心配していたようだけれど、むしろ私の稼働時間が確保できて皆感謝しているくらいだよ。ありがとう、ミジェ」
「おいおい、疲労回復があるからって余計に無茶したりしないでくれよ?」
「気をつけるよ」
穏やかに笑うチェイス室長は、さすがに職場ということもあってか、怪しい魔力どころかオレが大好きな穏やかな魔力ですら触ってこない。
恥ずかしいことに、それが少し寂しいと思ってしまった自分がいた。
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