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兄:ミジェ編 〜魔術室長の魔術セクハラが酷いんですけど!?〜
【チェイス視点】すごいいい夢見た……!
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すごいいい夢見た……!
ミジェを抱きしめて眠る、なんとも幸せな夢だった。この世の天国とはああいう事を言うんだろう。ミジェに会いたいという心の叫びを押し殺し、心身を削ってがむしゃらに祭りの準備に勤しんだ私への、神からの褒美に違いない。
抱きしめたミジェの体があまりにも心地よくて一瞬不埒な考えが過ったが、大人しく腕の中に居てくれるだけでもこの上ない僥倖だ。魔力のコントロール即ち自身の妄想のコントロールを行うと固く約束したあの日を思い出し、ただただその細い体を抱きしめた。
最高。
寝ていてもミジェとの約束を守ろうとしている自分も全力で褒めたい。これなら、ミジェに無意識にセクハラしまくって怖い思いをさせることもないかも知れない。今後の自分に期待大だ。
夢でミジェに会えて、自分にも自信が持てた目覚めはもちろん素晴らしいものだった。
力がみなぎる。三日分の仕事でも片付けられるかも知れない。
こんな日はデスクで大量の仕事を鬼のように片付けたいものだが、残念ながら室長としての外せない、けれど「要らないだろ」と思っている重要案件がある。
せっかく気持ちいい目覚めだったというのに、私は少しだけため息をついてベッドから出る。そして、クローゼットの中から仰々しいローブと髪飾りを引っ張り出した。
美形が身につければさぞや華やかになるだろう技術の粋を集めた逸品だが、残念ながら私は凡庸な顔でかつオーラもない。完全に服と飾りの方が勝っていると自分でも理解しているだけに憂鬱だ。今日は午前中いっぱい、この衣装を身につけて終始笑顔で王室主催のパレードに参加するのが私の役目だった。
面倒くさい。
煌びやかな王室とイケメン揃いの騎士団だけでいいんじゃないかと思うんだが。
籠って魔術開発している方が楽しいと言い切る魔術師ばっかりで構成された王宮魔術室はもちろんパレードに参加する人数は最小限だ。だからこそ私は逃げられない、悲しいスケープゴートなのだ。
***
「笑って! っていってるっしょ」
ゴスっと鈍い音を立てて、脇腹にライールの肘鉄が入る。
「暴力反対……!」
「目が死んでますよー。騎士団の連中の輝くような笑顔を見習ってください。歯ぁキラキラしてますよ」
「あんなん何か塗ってるだろう……」
うう、腕がだるい。手をふり続けるの地味に疲れる。誰も私達など見ていないだろうに、こんな事してる暇があったら仕事をバンバン片付けて、愛しのミジェの元に馳せ参じたい。ああ、昨夜夢で見たミジェ、可愛かったな……。
「もー……って、チェイス室長」
「うん? なんだ?」
「右! 前方右のアマリスの店の向こう、見てください!」
言われるがまま前方右のアマリスの店の向こうを見てみたら、見慣れたオレンジのふわふわ髪が見える。
あの髪は……ミジェ!!!!
ミジェも一心にこちらを見ていて、すぐに目が合う。するとどうだ。ミジェは嬉しそうに破顔して、控えめに手を振ってくれたではないか。
「可愛い……! 天使がいる……!!」
「どんだけ可愛く見えてんですか!? アイツめっちゃフツメンでしょ? そりゃ褐色肌とかファイアバードの雛みたいなオレンジ髪とか可愛いっちゃ可愛いけ……ど……怖っ!!!!」
思わず漏れた心の声に、すかさずライールがツッコミを入れてくる。ものおじしないのがライールの長所ではあるが、少し私を雑に扱い過ぎではないだろうか。
「その顔ヤバいですよ。え、どっちに怒ってんですか? フツメンって評した方? 褒めた方?」
「どっちもイラッとした」
「ええ、面倒くさ……」
「放っといてくれ。大丈夫、今なら全力で笑える」
せっかくミジェの顔を拝めるんだ、ライールの戯れ言に付き合っている暇はない。私は表情筋を総動員して、満面の笑顔を浮かべた。ミジェに手を振ると、照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑って手を振りかえしてくれる。
心に元気の元を注入されている気分だ。
これならパレードが終わるまで、沿道の人々すべてに全力の笑顔を向けられるかも知れない。
***
ミジェにパワーを貰いその日のラスト各国要人との会食も無事に済ませた私は、明日の式典で使われる予定の魔道具と術式の確認のために魔術室に戻っていた。
遅くまで皆最終調整に従事してくれている。体力的にもかなり厳しいだろうが失敗は許されない。私が言わずとも重々承知しているからこそ、皆真剣な面持ちで自分の担当箇所を念入りにチェックしているのだろう。
集中しているところを邪魔しないよう、皆のために用意してもらったケーキをそっと各自の机に置いてから自席に戻った私は、ふと手に触れた魔道具を見て幸せな気持ちになった。
ミジェが私にために作ってくれた、疲労を回復してくれる魔道具だ。
ミジェの手のひらほどの小さなコロンとした見た目のまあるい球体に、足が3つとボタンが付いているだけなのだが、これがなかなかどうして優れもので、疲労回復の魔術を展開してくれるだけではなく、いい香りと暖かさに包まれるというリラックス効果抜群の品なのだ。
思わず口角が緩むのを自覚しながらボタンを押すと、じんわり体が暖かくなって体から疲れが抜けていくのが分かる。やっぱりミジェの魔道具は素晴らしい。
見渡すと皆の耳には耳栓型の魔道具がしっかり嵌っている。皆も重宝しているのだろう。
ひとり悦に入りながら、私はスッキリした頭で明日の式典の護衛用の術式のチェックに入った。人の生死に関わる最も重要な術式だ。私の責任において万全な状態にしておかねばならない。
今夜も先は長そうだが、まだまだ頑張れそうな気がした。
ミジェを抱きしめて眠る、なんとも幸せな夢だった。この世の天国とはああいう事を言うんだろう。ミジェに会いたいという心の叫びを押し殺し、心身を削ってがむしゃらに祭りの準備に勤しんだ私への、神からの褒美に違いない。
抱きしめたミジェの体があまりにも心地よくて一瞬不埒な考えが過ったが、大人しく腕の中に居てくれるだけでもこの上ない僥倖だ。魔力のコントロール即ち自身の妄想のコントロールを行うと固く約束したあの日を思い出し、ただただその細い体を抱きしめた。
最高。
寝ていてもミジェとの約束を守ろうとしている自分も全力で褒めたい。これなら、ミジェに無意識にセクハラしまくって怖い思いをさせることもないかも知れない。今後の自分に期待大だ。
夢でミジェに会えて、自分にも自信が持てた目覚めはもちろん素晴らしいものだった。
力がみなぎる。三日分の仕事でも片付けられるかも知れない。
こんな日はデスクで大量の仕事を鬼のように片付けたいものだが、残念ながら室長としての外せない、けれど「要らないだろ」と思っている重要案件がある。
せっかく気持ちいい目覚めだったというのに、私は少しだけため息をついてベッドから出る。そして、クローゼットの中から仰々しいローブと髪飾りを引っ張り出した。
美形が身につければさぞや華やかになるだろう技術の粋を集めた逸品だが、残念ながら私は凡庸な顔でかつオーラもない。完全に服と飾りの方が勝っていると自分でも理解しているだけに憂鬱だ。今日は午前中いっぱい、この衣装を身につけて終始笑顔で王室主催のパレードに参加するのが私の役目だった。
面倒くさい。
煌びやかな王室とイケメン揃いの騎士団だけでいいんじゃないかと思うんだが。
籠って魔術開発している方が楽しいと言い切る魔術師ばっかりで構成された王宮魔術室はもちろんパレードに参加する人数は最小限だ。だからこそ私は逃げられない、悲しいスケープゴートなのだ。
***
「笑って! っていってるっしょ」
ゴスっと鈍い音を立てて、脇腹にライールの肘鉄が入る。
「暴力反対……!」
「目が死んでますよー。騎士団の連中の輝くような笑顔を見習ってください。歯ぁキラキラしてますよ」
「あんなん何か塗ってるだろう……」
うう、腕がだるい。手をふり続けるの地味に疲れる。誰も私達など見ていないだろうに、こんな事してる暇があったら仕事をバンバン片付けて、愛しのミジェの元に馳せ参じたい。ああ、昨夜夢で見たミジェ、可愛かったな……。
「もー……って、チェイス室長」
「うん? なんだ?」
「右! 前方右のアマリスの店の向こう、見てください!」
言われるがまま前方右のアマリスの店の向こうを見てみたら、見慣れたオレンジのふわふわ髪が見える。
あの髪は……ミジェ!!!!
ミジェも一心にこちらを見ていて、すぐに目が合う。するとどうだ。ミジェは嬉しそうに破顔して、控えめに手を振ってくれたではないか。
「可愛い……! 天使がいる……!!」
「どんだけ可愛く見えてんですか!? アイツめっちゃフツメンでしょ? そりゃ褐色肌とかファイアバードの雛みたいなオレンジ髪とか可愛いっちゃ可愛いけ……ど……怖っ!!!!」
思わず漏れた心の声に、すかさずライールがツッコミを入れてくる。ものおじしないのがライールの長所ではあるが、少し私を雑に扱い過ぎではないだろうか。
「その顔ヤバいですよ。え、どっちに怒ってんですか? フツメンって評した方? 褒めた方?」
「どっちもイラッとした」
「ええ、面倒くさ……」
「放っといてくれ。大丈夫、今なら全力で笑える」
せっかくミジェの顔を拝めるんだ、ライールの戯れ言に付き合っている暇はない。私は表情筋を総動員して、満面の笑顔を浮かべた。ミジェに手を振ると、照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑って手を振りかえしてくれる。
心に元気の元を注入されている気分だ。
これならパレードが終わるまで、沿道の人々すべてに全力の笑顔を向けられるかも知れない。
***
ミジェにパワーを貰いその日のラスト各国要人との会食も無事に済ませた私は、明日の式典で使われる予定の魔道具と術式の確認のために魔術室に戻っていた。
遅くまで皆最終調整に従事してくれている。体力的にもかなり厳しいだろうが失敗は許されない。私が言わずとも重々承知しているからこそ、皆真剣な面持ちで自分の担当箇所を念入りにチェックしているのだろう。
集中しているところを邪魔しないよう、皆のために用意してもらったケーキをそっと各自の机に置いてから自席に戻った私は、ふと手に触れた魔道具を見て幸せな気持ちになった。
ミジェが私にために作ってくれた、疲労を回復してくれる魔道具だ。
ミジェの手のひらほどの小さなコロンとした見た目のまあるい球体に、足が3つとボタンが付いているだけなのだが、これがなかなかどうして優れもので、疲労回復の魔術を展開してくれるだけではなく、いい香りと暖かさに包まれるというリラックス効果抜群の品なのだ。
思わず口角が緩むのを自覚しながらボタンを押すと、じんわり体が暖かくなって体から疲れが抜けていくのが分かる。やっぱりミジェの魔道具は素晴らしい。
見渡すと皆の耳には耳栓型の魔道具がしっかり嵌っている。皆も重宝しているのだろう。
ひとり悦に入りながら、私はスッキリした頭で明日の式典の護衛用の術式のチェックに入った。人の生死に関わる最も重要な術式だ。私の責任において万全な状態にしておかねばならない。
今夜も先は長そうだが、まだまだ頑張れそうな気がした。
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