元夫婦のきずなはゲームの運命を超えるのか~ファミリーリインカーネーション~

前野羊子

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33【ビール工場見学】

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 太一が小学校の時にPTAの社会見学でビール工場に行ったの。
 PTAの行事とは言え、平日に真昼間に出来立てのビールを頂いて、それに合うお料理も食べたわ。そして健一にお土産のビールを沢山買った記憶があるわ。
 買った缶ビールは段ボールケースで宅配してもらったんだけどね。ふふふ。

 パートの看護士として勤めていたクリニックが水曜日に休みだったから行けたのよね。

 そして、今日生まれ変わって再びビール工場の見学なのよ!

 前世で行ったビール工場は手術室のように清潔でピカピカだったけど、こっちはそうでもないわね。
 年季の入った大きな樽の中で、麦芽がぶくぶくしていたわ。
 元気なビール酵母がぶくぶくしているのが楽しいわね。

 「ビール飲みてぇ」
 「本当ね」

 ビールの味を知っている私たち。でもまだ子供だから飲めないの。
 これは結構残酷な授業だわ。

 「では、質問のある人はいますか?」
 工場の人の隣で、引率の先生が声をかけてきた。よし、聞きたいことが沢山あるわ!

 「はい!ビール酵母をパン作りに使うことはありますか?」
 「いいえ?」
 えーやわらかくておいしいパンが出来るのに。
 「では、ビール粕は全部捨てますか?飼料には?」
 「家畜の餌に回すのは三割ほどで、あとは廃棄です」
 勿体無い!

 「健一ぃ」
 「わかったわかった。もらおうな。粕の方はゴミなのだし、くれるだろ」
 「今日の搾りたてのにしてね」
 「わかった」

 その日の夜からお屋敷のキッチンでビール工場から持ってきたものでごそごそしていた。

 二日後の朝、
 「おはようマリー」
 「おはようお兄様」
 「今日も朝ごはんはマリーが作ったのかい?」
 「ええ、私はキッチンメイドなんですもの」
 「聖女様がメイドをする必要はないんだよ」
 「でも大事なことなの。このパンを食べてみて」
 「パンを焼いたの?へえふっくらしているね」
 「ふふふ」
 「うわ、なんだこれやわらかい!」
 「でしょ!これはね、ビール酵母の力で膨らますのよ」
 「前の天然酵母と同じなんだ?」
 「そう。こっちの方が結構激しく膨らんだわ」
 「へえ」

 「それからこれ。生徒会のおやつに持って行って」
 「わ、クッキーじゃないか。今一つ食べていい?」
 「もちろん!」
 「サクサクして軽くておいしい。甘すぎないのが男の私でも食べやすい」
 「よかった!」

 まだ、餌とかゴミとか言わないでおくわね。

 お昼休み、クラスの皆にもビール粕のクッキーをお披露目した。
 「えーこれがビール工場でもらってきたゴミだったの?」
 「ほんと、餌にするのにも勿体無いぐらいうまい」
 ブリックとグリーにも高評価で良かった。

 「でしょー確かこれは高たんぱくで低脂肪で・・・」
 「それは冒険者として鍛えるのに向いているな」
 さすが元医者の健一!まあたんぱく質がなにになるかは日本人じゃ知らない人はいないけどね。
 「筋肉になるのか?」
 「そうだぜ」
 「ゴミで筋肉、最高じゃねえか」
 「だな!とくに貧乏人とか・・・ってまさか豊子これ」
 「そ!聖女としての活動第一号ね」コソッ
 「さすが!」
 「でも私のオリジナルじゃないわよ」
 「貧しい奴が助かれば何でもいいさ」
 「そうね」

 次のお休みの日、私はハルキアの王宮の厨房にお邪魔した。
 王宮には厨房が沢山あるの。もちろん我がディアナ王宮でもそうよ。

 王宮で働く職員のための食堂があって、そのための厨房とか。兵士や軍のための厨房とか、王や王族、王宮に住み込みで働いている上級貴族職員のための普段の食事を作っている厨房、そして、晩餐会やパーティなどのための大がかりな料理を作るための厨房とかね。で、その行事用の厨房は普段は使わないの。
 そして。今日はこの厨房を借りるためにお邪魔した。
 先日訪れた、カタゴヤ帝国に届けるクッキーを大量に作るためにね。
 私のわがままで、まだ聖女活動を大きくしたくないって言ったんだもの。でもそれまでにあの死にそうになっていた人たちを助けられないのも困るわ。だからビール粕でクッキーをつくって届けてもらうことにしたの。

 クッキーなら日持ちするしね。
 
 ディアナ王国で、お母さまが用意してくださった聖女っぽい衣装の中から、そでをめくりあげることが出来て、スカートの広がりも少なめのドレスを選んで。髪を纏め。エプロンをする。もちろんミミもいっしょよ。

 厨房にはフェルゼン殿下のお母さまで、ピソーラ王の奥さんの、アザレ王后陛下もいらっしゃる。そして彼女の親しいお友達も。
 アザレ陛下は私の母と同じで民衆よりのとっても良い人。お友達もそうなの。
 そのうえ、健一が沿道で見かけたボロボロの民衆や子供の話を聞いて、涙されたそう。だから今回の私の活動にも快く協力してくださったの。

 「マリー殿下、この茶色い粉がビール粕なんですね」
 「はい、このためにローリー先生に、粉末にする魔道具を作ってもらったのよ」
 粉末にするための原理や仕組みを伝えればすぐに用意してくれたわ。魔法陣の張り付いた箱だったけどね。

 バターより手に入りやすいラードを使い、高価なお砂糖は少なめで、仕上げに振りかけるようにするの、その方が舌に直接触れるから甘味を感じるわ。

 そんなことを話しながらクッキーを成型する。
 隣にはレシピを記録するために、王族の厨房の料理長が秘書と共にいらっしゃる。この厨房の責任者でもあるものね。

 「後は焼けるのを待つだけですわ」
 一度目の鉄板をオーブンに入れ終わった。もちろん大量に料理ができる設備だから、一度に焼ける鉄板も十枚は入れれるの。すごいわね。

 「それにしても、マリー殿下の手際の良さにはびっくりしましたわ。ねえ料理長」
 「はい王后陛下。五年前に入ったものとは段違いですよ」

 そりゃあね、前世では結婚する前から、太一が二十歳になる寸前までキッチンに立っていたもの。
 今は子供だけど、キャリアはあるのよ。

 「でも、お屋敷の厨房と違って広くてかえって失敗しそうでしたわ」
 「ははは、女の子一人で使うには広すぎますな。たしかに」
 「では、焼きあがって冷めるまで、お茶にいたしましょう」
 「あとは我々がオーブンを見ております」
 「お願いいたします。では皆様此方へ」

 パーティー用の厨房には、客が連れてきた侍従や侍女の控えるための部屋があって、ここもテーブルや椅子が揃っている。そこにお茶をひろげてお菓子も出す。
 「今焼いているものと同じレシピのクッキーですわ」
 「まあ素朴な形ね」

 「まずそのまま食べてみてください」
 
 「味がしないわ」
 「お砂糖が見えているのに」
 「私は甘味を感じます。
 普段貴族たちの食べるものは味が濃いですから。いつも陛下にも注意されているわ」
 「あら、陛下が?」
 「濃い味は体に悪いと」
 「さすがですわ。陛下は健康に造詣が深いと聞きますもの」
 「だから貴族たちが食べるお菓子は甘すぎでお茶が必要なのよ」
 「むしろ王宮で出されるお菓子は甘さ控えめな方ね」

 「皆様、甘いものを沢山召し上がる人はどうなっていらっしゃるかご存知ですよね」
 王様をしても医者もする太一が誇らしいわ。つい言っちゃう。
 「!」
 思い当たることがあるのでしょうね。
 「そうね、贅沢というより健康のためにすこし薄味にしていこうかしら」
 「そうですね、特に陛下はお子さんが多いですから、健康に気を付けるのは良いことですわよ」
 「あなた達だって、健康に気を付けなければいけないわよ」
 「そうですわね」
 「ほほほほ」

 「このお菓子は、食事代わりに配るものですし、平民用ですから形や味より量ですわ。だから、すこし味が薄いですから、貴族のお茶請けには、お好みでバターやクリーム、ジャムなども付けてください」
 ここでトッピングの文化も広めようかしら。

 「これはこれで楽しいわね」
 「そうですね。同じクッキーでも塗るものによって味わいが変わるのも良いわね」
 「でも平民はこれを付けないんでしょう?」
 「ええ、でも練りこむより付けた方が少しの量で満足するはずなのです」
 「まあ、マリー姫も国王陛下みたいなことを言うのね」
 だって、そうやって育てたもの。

 「私たち王族の普段の食事では、料理の味は薄くしてあるの。テーブルに塩や調味料が置いてあって、それを自分で振りかけながら食べるのよ」
 「まあ、そうなんですか?王后陛下」
 「輿入れしたときはその習慣にびっくりしたわ、シェフが手を抜いているのかと思ったんだけど、陛下が大きくなってからそうしたらしいわ。ほら、先代の陛下も肖像画ではこう・・・」
 たしかにふくよかだったわ。

 「国王陛下やフェルゼンは殊の外健康管理には詳しいからびっくりするわよマリー姫」
 「ふふふ、アザレ陛下。私も健康管理には詳しいですわよ」

 太一は私が死んでからその道に進んだらしいけど、お父さん大好きだったもんね。生まれ変わっても姿勢が変わらないのが誇らしいわ。
 
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