元夫婦のきずなはゲームの運命を超えるのか~ファミリーリインカーネーション~

前野羊子

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25【お話してみよう】

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 振り向くと、サクラは一人で立ち尽くしていた。

 考えたら、サクラ本人ときちんと話をしたことはない。もしかして一人ぼっちで転生して、このゲームのことは知ってるかもしれないけど、孤独を感じていたのではないかしら。
 私には健一や太一がいるし、転生した先の家族とも仲良くやれている。

 私は、サクラに近づいていく。
「おい、とよ・・いやマリー」
「彼女と、ちょっと話をしてくるわ。健一はそこにいて。」
「ああ、気をつけろよ」
「うん」

 私は近くの侍女に頼み事とハンドバッグから出した小さな包みを渡して、一人でサクラに近寄って行く。

「なによ」
「ねえ、あちらで私と二人でお話しませんか?サクラさん」
「・・・わかったわ」

 二人で話すには丁度良い、小さなテーブル。
 他には食べるものは置いていない。

「そちらにおかけになって」
「はい」
 侍従に椅子を弾いてもらって着席すると、侍女が一人声を掛けてくれる。
「姫様こちらでよろしいですか?」
「ええ、お願いします」

 真ん中に白いお皿。そこには私が作ったクッキーを入れてもらっている。
 これは本来、太一に渡そうと思って持ってきたものだった。

 そして、手元にもう二つの小さめのお皿。そこに私は大きなお皿からトングで六枚のクッキーを並べて、サクラの前に置く。

「サクラ様どうぞ」
「ありがとうマリー姫・・・てこれは?」
「私が作ったアルファベットクッキーですわ。クッキー型を特注で二十六個も作らせたのですよ。私はお料理やお菓子作りが好きで」

「これは、私の名前」

 ちょうどSAKURAが揃っててよかった。
「サクラ様はもともと、下の名前ですか?」
「いえ、苗字が佐倉で」
「まあ素敵な苗字ですね」
「っていう事はもしかして、マリー姫も?」
「私は、花沢豊子」
「豊子ってもしかして、冒険者ギルドで会った」
「ええ」
「では一緒にいた人も?」
「健一ですね」
「まさか、お二人も転生者」
「そうです。もう一人いるのですけど、他にもいるかもしれませんね」
「そんな」

「ねえ、サクラさん。私とお友達になりませんか?前世を共有する同志で」
「でも、でも、この世界は聖女のあたしが絶対的な存在で。マリー姫と一緒にいるのは怖いわ」
「そうですね、私も悪役令嬢として、断罪されるかもしれないという恐怖で生きてきました」
 ハッとしてこちらを見る。
 先ほどグラル殿下に連れてこられた時のような自信たっぷりの彼女とは違う表情を見せる。

「だから、貴方と接触しないように学園では振舞ってきました」

 私には健一や太一、そして新しい愛する家族もいる。でも、サクラさんはどうだろう。毅然と聖女としての道を示す親しい人はいるのだろうか。

「でも、やっぱり同郷同士仲良くしたいわ。どうかしら」

「そんなでも、あたしは今度こそ幸せを実感して生きたいの。貴女となんか仲良くなったら」
 私なんかと来ましたか。

 がちゃん。
 バリーン

 サクラが急に立ち上がると、テーブルの端に置いてあった飲み水用のグラスに手がぶつかり、グラスはティーカップの方に倒れて両方が割れた。

「わ、どうしよう」
「だめ!」
 慌てて触ろうとするのをつい右手で塞ぐ。
「痛っ。やっちゃったわ」
 さっき手袋を外したままでしたわ。

 掌を切ってしまった。
「結構ざっくり言ったわね」
「あ、あの」
「ねえ、聖女様、あれから数カ月たったし、貴族クラスなら魔法のお勉強も進んでいるのでしょう?これ治してくださらない?」
 そう言って血まみれの手を差し出す。

「わ、わかったわ」
 私の手の上に、サクラが手を当ててみる。
 ジワリ

 痛いわ、逆流してない?魔力。
「まだですか?」
「あ、あたしの聖女の魔法はこんなことには使えないの」
「こんな事?」
「悪役令嬢には効かないわ」
「なんだそれ。とんだポンコツ聖女ね」
「なんですって?ひどいわ」

 私はテーブルのベルを鳴らして、清潔なお手拭きを持ってきて貰う。

「治療魔法は、聖属性よりはポピュラーな光属性でも使えますわよ」
 自分で治療して、血を拭きとってしまう。

「私たち貴族は、責任の上に贅沢をさせていただいております。
 ある程度責任を果たす努力をしないとね。
 上に立つものは。民衆に痛い目に遭いますわよ。
 小学校の社会科で習ったでしょう?一揆とか。
 ああ、漫画にもありましたよね、革命で王妃が断罪されるのとか。
 ご存じない?私とは世代が違うのかしら」
「豊子さん」
 他人の金で贅沢したいなら仕事しろと、私は悪役令嬢の動きをイメージしてみる。

「私のことはマリー殿下と呼んでください。聖女の出来ないあなたに対等になっていただきたくないわ」
 後ろから、健一の気配を感じる。
「豊子、もういいだろう。手、大丈夫か?ちゃんと治せたか?」
 私の椅子を曳いて手を取って立ち上がるのを手伝ってくれる。
「健一、ありがとう。私、治療魔法は得意なのよ」
「知ってるよ、俺の聖女」
 そう言いながら肩を抱いてこめかみにキスをしてくる。
「ちょっと、聖女様の前なのよ、断罪されちゃうわ」
「そんなことあるか」

「健一って、フェルゼン?」
「呼び捨てんな。聖女の力が中々発動してなくても、普段の行いとか、努力とかちゃんとしていたら、皆がちやほやしてくれるはずなのに」

「ちゃんと、前例にのっとってちやほやしたさ」
 グラル皇子がやれやれってポーズで健一の横で話す。

「せっかく転生したのにもったいないわ。魔力もきちんとお持ちですのに」
「なあ、魔法って楽しいよな」
「ふふ、健一ったら、子供みたい」
「まだ子供だからな、日本人から見たら」

「そんな、そんな。うそよ」
 サクラはまだ呆然としていた。
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