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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
お揃いのイヤーカフ
しおりを挟むコンコン、と僕の部屋の扉を叩く音がする。ステンレスが心得たように、扉を開く。
「シャラン、ただいま。会いたかったよ。さあ、おいで。」
両手を広げ、ミカエル様が待っている。僕は迷わずその腕の中に飛び込み納まると、抱きしめ合う。
「おかえりなさい、ミカエル様。」
あの公爵令嬢のサピラに出会ってから、ミカエル様が、更に過保護になった。夕食は必ず一緒に食べるようになり、その日の事を聞いてくる。
一度、負担になっているのではないか? と、聞いてみたが、仕事も落ち着いてきているし、僕と食事したほうが、集中出来ると言った。
チラリとエイデンを見ると大きく頷くので、ありがたく甘えているのだ。
食後、いつも通りピッタリくっついて、ソファで過ごす。この時は、みんな二人きりにしてくれる。他愛のない話をしながらも、ミカエル様の様子が少しそわそわしているようにみえる。
「ミカエル様、どうかしたのですか? お仕事で気にかかることでもあったのでは?」
ハッ、とした様子のミカエル様は、ちょっと待ってて。と、席を外してすぐに帰ってきた。
「今日、ようやく届いたんだ。見てくれるかな?」
そう言って取り出したのは、宝飾品の入っている様な小箱だった。
「帝国での社交界デビューで、一緒に着けて欲しいんだ────さあ、開けてみて。」
そう促されて、そっと開けてみると、金地にブルーサファイアをあしらったイヤーカフが入っていた。
ミカエル様の色だ……嬉しい。
それに、モチーフは……。
「───夏椿だ。」
「そう。帝都に来る時も言ったけど、モチーフをどうするか聞かれて、もうこれ以外ない、って決めていたんだよ。やはり、シャランには夏椿だと思ったんだ。
最近は、特に気を付けないといけないからね。
これも言っておいたと思うけど、魔力制御用の装飾品にしたんだよ。ピアスだと万が一の時、全力で魔力を使いたいのに、外すのが間に合わないかもしれないから、イヤーカフにするのは決めていたんだ。
本当は一緒に考えれば良かったのかもしれないけど、私からのプレゼントだよ。」
ミカエル様が、僕の耳からピアスを外す。キラキラ舞う魔力で、僕の気持ちはバレているだろう。それを見たミカエル様に、嬉しそうに額に口付けされると擽ったくてクスクス笑ってしまう。小箱から取り出されたイヤーカフを、優しい手つきで右耳に着けてくれた。
「うん、とっても似合うよ。シャラン。」
満足気にミカエル様が言って、手鏡を渡してくれる。
「わあ! すごく素敵です。ありがとうございます。 ミカエル様。」
「ほら、お揃いだよ。」
そう言って、ミカエル様は、もう一つ小箱を取り出し、僕に見せた。
「プラチナに黄金色のトパーズのついた夏椿……。」
僕の色と、名前をつけてくれる……。
「シャラン、私にも着けてくれる?」
そう言って、ミカエル様はサラリとした金髪をかきあげて、僕に左耳を差し出す。普段着けられていたイヤーカフが外されていた。
ミカエル様がしてくれた様に、左耳に優しく着けた。手鏡で自分の左耳を見ながら満足そうに頷いて言った。
「これでシャランといつも一緒だ。」
「────ッ! ミカエル様っ!」
思い切り抱きついて、僕から口付けをした。重ねるだけの拙いものだったけど、いつもとは逆に僕がミカエル様にキスの雨を降らせる。
ミカエル様は喉で笑って、受け止めてくれる。
「可愛い……可愛い、私のシャラン。大好きだよ。」
「───っ! 僕も大好きです。ミカエル様っ!」
この後もミカエル様にお仕事があるのが残念でならない。唇に啄むような柔らかなキスを絶え間なく続ける。お互い今夜はこのままの勢いで触れ合えないとわかっているので、深い口付けは敢えてしていない。
それがとても、もどかしくてならなかった。
膝に乗せられてお互いの瞳を覗き込むと、惹き寄せられるように、また唇を触れ合わせる。
やがて、遠慮がちなミカエル様を呼ぶ声が、扉の向こうから聞こえた。ギュウッと抱きしめ合って、残念そうにため息を吐いて、そっと離れる。
「おやすみ。シャラン、良い夢を。」
王国で月の下で挨拶したあの言葉。
「おやすみなさい。ミカエル様も良い夢を。お仕事頑張って下さい。」
「ありがとう。シャランのおかげで頑張れるよ。」
触れた指先同士が離れるまで、見つめ合いながら、別れを惜しむ。
パタンと扉が閉じるまで視線は繋がったままだった。
シンッ、となった一人の部屋。
微かに残る、ミカエル様のレモンの香り。
胸がキュウ、っと切なく締め付けられる。
もう既に、ミカエル様に会いたい。
───本当は隣の部屋同士だけど、その距離すらも、もどかしかった。
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