異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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第一章 手に入れた能力

金色の宝石・トロンシロン

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 城へと戻る馬車の中でトルデンとオレは向かい合って座った。

「なぁ、さっきジアルは何をしてたんだ?」
「ジアルが使える火の攻撃魔術を薄く伸ばしてたんです。ジアルにはあまり魔力がなくて……。でも、彼は綿密に魔術を施すことができるんです。それでどうにかして使えるようにしてあげたくて……」

 トルデンはジアルの魔力について気にかけているようだった。トルデンも魔術が使いこなせないと言っていたのに他の人を気に掛けるところはトルデンの良い所なのだと思う。

「トモヤ、今、ムヒアス神官の行方を調べています。オークスのこの前のことを考えるときっと彼はトモヤを利用しようとこの後も近づくはずです……。もちろん近づかせるつもりはないんですが……」

 オークスがオレに無理やり騎士に触れさせて、その後の言った言葉を思い出すと何か企んでいるのは分かる。

「トモヤ、この前テヒシタ神官が言っていたことを覚えてますか?元の世界に戻るにはムヒアス神官がいないといけないみたいなんです。ムヒアス神官が見つかったら……トモヤは……元の世界に戻った方がいいと思います……」

 トルデンが静かにそう言った。オレもその方がいいのかなと思いつつもなんて答えたらいいのか分からず、馬車の窓から見える外の景色を2人でずっと無言で眺めた。


 ルウファに行った翌日、朝起きるとトルデンはすでに身支度していてどこかへと行こうとしていた。

「あ、トモヤ起きてくれて良かったです」
「どこか、行くのか?」

 寝ぼけた頭でベッドから起き上がり、トルデンに問いかけた。

「あ、はい……これからちょっとまた日中いなくなると思います……。……トモヤ、これを渡しておいてもいいですか?」
 
 トルデンが拳を握ってオレに何か渡そうとしたので、オレは手を広げてその拳の中にある何かを受け取った。トルデンが差し出したのはとても小さな金色に輝く宝石だ。その小さな宝石は落とすと何処かに行ってすぐに失くしてしまいそうだ。そして、小さいとは言え、こんな宝石を渡される覚えはない。

「いや、こんなの困る……」
「……トモヤに持っていて欲しいんです。その宝石はトロンシロンと言ってルゥ国で採れる宝石です。母が私に託してくれたものです」
「いや、それなら尚更困る……」

 オレは手のひらに乗せられた小さな宝石を突き返そうとしたが、トルデンは手を引っ込めて返すのは無駄だというような仕草をした。

「何か困った時にその宝石に呼びかけると渡した人の元へ帰ってくることができます。母が小さい頃、私にそう言ってそれを渡しました。母はもういないので、私が持っていても意味はありません。……私の命を救ってくれたトモヤに持っていて欲しいんです」
「でも、こんなに小さいとすぐに失くすだろうし……」
「結界をかけているので大丈夫ですよ。ポケットにでも入れておいてください」

 トルデンは使える魔術の1つの結界をこのトロンシロンという宝石にかけていてオレのポケットに入れていてもなくさないようにしてくれているらしい。

「本当は身につけれるようにしたいんですが、その宝石を狙う人もいるので……」
「そうなのか……呼びかけるってどういうことだ?魔術が発動するのか?」
「ふふっ、トモヤが信じるか分からないですが、トロンシロンには精霊の加護がついているという言い伝えがあります。母がこのグルファン王国に嫁いだ時、母の父上、私からするとおじい様ですね。そのおじい様がこっそり持たせてくれたみたいです」

(……精霊の加護?)
 
 トルデンの母親の出身の国は精霊の加護があり自然豊かで穏やかな国らしい。トルデンが言うように精霊なんてあんまり信じてはなかったけど、目の前にいるトルデンの綺麗な顔に輝く金色の髪、そして優しい小麦畑のような金色の瞳も精霊の加護がついてる国に由来していると言われたら何となくしっくりくる。

 トルデンから受け取ったその小さな宝石をポケットに入れるのを見届けた後、トルデンは部屋を出て行った。
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