異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

文字の大きさ
23 / 80
第一章 手に入れた能力

話し合う

しおりを挟む
 トルデンの母親の部屋で待っていると少ししてから扉が開く音がした。

「トモヤ……どうしてここに……?」
「どこ行ってたんだよ」

 オレが低い声でトルデンに問い詰めると顔を曇らせて困った表情をした。

「トモヤが気にすることじゃ……トモヤは部屋に戻ってください……」
「なんだよそれ……オレのために魔術の訓練を真剣に取り組んでオークスからオレを遠ざけたって聞いた。それでもオレが気にすることじゃないって言うのかよ?」
「どうして……それを……」
「お前が落ち込んでるかもしれないってラウリアが来た。お前に今日訓練がなかったことも聞いた。どこ行ってたんだよ」
「……座って話しましょう」

 トルデンはオレが聞くまで部屋を出て行かないと分かり、お茶とお菓子のボルを机に置いて向かい合って座る。少し前まではこうやって2人で過ごしていたのに大分前のようだ。

「何でオークスをオレから遠ざけるためにあれだけ嫌そうにしてた魔術の訓練してるんだよ」
「……トモヤを私の保護下に置き、オークスは一切トモヤに近づかないという条件で魔術の訓練を受けると約束しました。もしオークスが次、トモヤに近づけば処罰がおりるのでオークスも簡単には手を出さないはずです」
「それをどうしてオレに言わないんだよ。オレは知っておくべきだろ。だって、お前があれだけ訓練嫌がってたの知ってるんだから」

 ルウファに行ってホルアンやジアルに結界の魔術を教えていたトルデンは心穏やかだったし、まだ楽しそうにしていた。でも、訓練場で見た時のトルデンの必死に逃げる様、そしていつもぐったりして疲れて帰ってくる表情のトルデン。ルウファはともかく城での訓練がトルデンの負担であるのはオレでも分かる。

「……これ以上私のせいでトモヤを巻き込みたくなくて……」
「じゃぁ、どうして別の部屋で過ごすって言ったんだよ。別にあの時お前、怪我してなかっただろ?相手を怪我させたことを気にしてるなら、オレがその怪我を貰う。それでお前の気が晴れるなら別にそれくらいしてやる」
「なっ?!トモヤ、自分の言ってること分かってるんですか?誰かの怪我を貰うということはトモヤに苦痛が生じるんですよ?!」

 いつも穏やかなトルデンが声を荒げ、椅子から立ち上がった。その姿が意外でオレはトルデンを見上げた。オレが驚いていることに気付いたトルデンがハッと我に返る。

「す、すみません……」
「相手の怪我は大したことないって聞いた。かすり傷だって。この前の感じなら数日……いや、それくらいなら1日とかで終わると思う」

 相手の怪我が実際どんなものかオレは見てないし知らない。でも、何となくそれぐらいだと思って適当に言う。

「ダメです。そんなことしないでください。元はと言えば私が相手を怪我させたのが……悪いんです。それにもう相手の怪我は治ってます……」

 相手の怪我は本当にかすり傷だったらしく1日も経たずにその怪我は治ったらしい。

「じゃぁ、何でその後もこの部屋で過ごしてんだよ」
「……怖かったんです。……誰かを傷つけることが怖いんです。魔術を使った後、たまに興奮状態になって自分で制御できないこともあって……その状態でトモヤに会いたくなかったんです。それに魔術を使うと疲れるのでその姿もトモヤに見られたくなくて……」

 あぁ、だからトルデンを訓練場で見かけた時、必死に逃げてるだけだったのか……。確かに穏やかで心優しいトルデンは誰かを傷つけることを嫌いそうだ。

「じゃぁ、今日はどこ行ってたんだよ」
「……今日は図書館に行ってました。トモヤが元の世界へ戻れる方法ーー神託の降りた神官がいなくても戻る方法がないか調べてたんです」
「……どうしてオレなんかのためにそこまでするんだよ」

 前の世界でこんな風にオレのことを考えてくれる人間いなかった。、もしくは少しの優しさで見返りを要求するヤツ。そんな人間しかいなかった。

「私のせいでトモヤがこちらに呼び出されたので……トモヤが利用されてしまうことが、それでトモヤが苦痛を受けてしまうことが……嫌なんです」
「あぁ、お前はオレの為というよりも自分の罪滅ぼしの為にオレを前の世界に帰そうとしてるんだな……」

 オレは思ったことを口に出していた。オレの意志に関係なく前の世界に戻そうとしているのはこの際どうでもいい。でも、トルデンと少しの間、一緒に過ごしていて何故か楽しかった。パン粥を作ってくれたことも、一緒に食事をしたことも、ルウファに連れて行ってくれたことも、どれもオレにとっては初めての経験ばかりだ。でも、それがトルデンの罪滅ぼしのためだと分かって無性に腹が立った。

「そんなつもりじゃ……」
「別にいい。それで何か分かったのかよ?」
「いえ、それが何も分からなくて……」

 オレは先ほどのトルデンの発言でイライラしていたし、トルデンもオレを怒らせたと分かりシュンとうなだれている。部屋は静まり返り気まずい雰囲気が流れる。久しぶりにトルデンに会ったのにこんな空気にさせたかったんじゃない。

「……あれ、母親?」

 この部屋に入った時、本棚の上に置いてある写真たてが目に入った。ラウリアもその写真を懐かしそうに見ていた。
 
「えぇ、そうです」
「見てもいいか?」

 オレがそう聞くとトルデンが頷いたので、オレは近寄ってその写真たてを手に取った。その写真に写っている人は金色の髪を結い上げて金色の瞳で少し微笑んでいる。写真からでも優しそうな雰囲気だ。

「綺麗な人だな……。お前に似てる」
「ふふっ、ありがとうございます」

 その写真たてを元に戻そうとした時、本棚にもう1つ小さな写真たてがあることに気付いた。
 先ほどの写真の女性ーートルデンの母親と小さな子供3人が写っている写真だ。
 金色で少しくるっとした髪に青い瞳の少年、同じく金色なものの短い髪で金色の瞳をした少年、そして黒いまっすぐな髪が肩上まである黒い瞳の少年。

 その子供3人がラウリア、トルデン、エンフィルだと分かった。半分しか血が繋がっていないと言っていたからあんまり皆似てないけど。ラウリアは笑っていて、トルデンはぎこちなく笑っている。エンフィルは笑っていない。この写真からも何となくそれぞれの性格が想像できた。

「……懐かしいですね」

 いつの間にかトルデンも席を立ってこちらへとやって来ていた。オレには兄弟なんてものはいなかったからよく分からない。ラウリアはちょくちょくやって来るのでトルデンとまだ仲が良いのかもしれない。エンフィルの話はあまりしないので分からないけど。でも、トルデンの母親の前に3人並んでる姿は皆、どこか幸せそうだと感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...