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きっちりカタはつけるから 4
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居酒屋の看板の陰から唯ちゃんを見守る私に声がかけられた。
「うまく行きそうか?」
周一郎さんだ。
私は唯ちゃんから視線を離さないでいる。
電柱に持たれながら私を待つ唯ちゃんは、手持ち無沙汰のせいか鞄をぶらぶらさせながら、時々キョロキョロと辺りの様子をうかがっている。
「それにしても、今日のお前の服装……すごいな」
「これですか?とげぬき地蔵商店街で見つけたんです」
オーバーの下に隠れていたベージュ地に大柄な白い花がプリントされたカットソーをひらひらさせる。
言葉を失った周一郎さんに、
「冗談です」と呟いた。
じゃあどこで見つけたんだ。ってなりそうだったから、
「原宿です」と付け加えた。
「原宿にこんな服売ってるのか。最近の流行は理解できないな」
しげしげと私の服を眺めている。
変なところで感心しているようだ。
本当は地元の商店街で見つけたのだけれど、黙っていよう。
くだらない話をしていたら、背の高い男性が唯ちゃんに近づいていく。
「あっ、唯ちゃんに声を掛けてる。あの人が畑山壮真さんですね」
違ったら一大事だ。唯ちゃんは可愛いからナンパされる心配もあったけれど、周一郎さんの「ああ」のひと声に胸を撫でおろす。
私と周一郎さんがそっと二人を影から見守ること数分。
何事か話していたけれど、二人は夜の街へと消えて行った。
「唯ちゃん少し酔っていたけれど、あのままホテルに直行とか無いですよね?」
「心配ない。壮真はそんな男じゃない」
畑山壮真。
周一郎さんと同じ三十二歳。一部上場、菱沼物産の時期社長。周一郎さんとは大学時代の同級生とのこと。
遠目ではあったけれど、背は高く、かなりのイケメンのように見受けられた。
あの二人、うまくいくといいのだけれど。
ほっとした私は、寒いしさっさと帰ろうと駅の方へ歩き出そうとした。その腕を周一郎さんが掴む。
「お前たちが出てくるまで、ずいぶん外で待ったぞ」
周一郎さんとの約束の時間を四十五分もオーバーして、私たちは居酒屋を出たのだった。
「すみません。おしゃべりが楽しくてついつい時間オーバーしちゃいました。ごめんなさい」
彼は腕を組んでため息をつく。
「壮真はどこか温かいところで、冷えた体を温めるだろうからいいが……」
「そうですね。お茶とかだったら唯ちゃんの酔いもさめるだろうし。私たちもどこかでお茶しますか。お詫びにおごりますよ」
周一郎さんの冷たい視線が私に注がれた。
「俺たちは大人だ」
「……?」
「壮真たちはまだ子供だ」
「……!?」
そう言うことでしたか。気づかなくてすみません。
「赤坂の行きつけのバーにしましょうか。この時間だと少し混んでるかもしれないけど、お酒のほうが体が温まりますよね」
そのバーは隠れ家的存在で、赤坂の住宅街にひっそりとたたずんでいた。
ここからはタクシーでしか行けない。
私はタクシーを拾うために大通りに出た。
時間は二十二時を少し過ぎたところ。
タクシーは何台も通るのだけれど、どれも賃走や迎車ばかりだ。
「なかなか空車来ないですね。アプリで呼びましょか」
鞄からスマホを取り出そうとする私の手を、周一郎さんが制した。
「ドレスコードがあるわけじゃないが、お前の恰好でバーは無理だろ。俺たちこそホテル直行ってのも、ありだと思うんだが。今日は寒いしお互いの体を暖め合うのも……」
涼しい顔で、しれっと大それたことを平気で言う。
これはきっと周一郎さんだから許されるのだと思う。
だけど、しし座流星群の夜以来、周一郎さんの様子が変だ。今だって壊れたおもちゃのように突拍子も無いことを言い出すのだから。
だから私も突拍子の無い言葉で答えた。
「ねぇ、周一郎さん。私のこと処女だと思います?」
「なっ、いきなり何だ」
「答えて下さい。どっちだと思います。以前周一郎さんは処女性を気にしないって言いましたよね。やっぱり処女の子とそうでない子を抱くときって、やりやすさとかあるんですか?」
「お前まさかっ」
彼の両手が私の肩を痛いほど掴む。
真っすぐに私を見つめる周一郎さんの瞳に、私はドキっとして息を飲む。
私に対してこんな真剣な彼の顔を見るのは初めてだった。
通りを流れる車の波は、私たちを置き去りにするように、近づいては去って行く。
「お前まさか他の男と……」
「私だって二十七です」
「まさか、あいつじゃないだろうなっ!?」
……あいつ……ね。
「周一郎さんには関係ないですよね」
さんざん私を放ったらかしておいて、今さら何よ。
「そう……だな」
「離してください」
彼の手を振り払った。
と、その手を乗車希望と勘違いしたのかタクシーが止まった。
そしてゆっくりと自動ドアが開く。
とっさに私はタクシーに乗り込んだ。
「おじさん、赤坂見附まで」
「おいっ。俺の質問に答えろっ」
周一郎さんはタクシーの屋根に手をかけて、座席に座る私の顔をのぞき込んで来た。
運転手さんは扉を閉めようかどうしようか戸惑っている。
私はおじさんに「すいません」と声を掛けて少しだけ待ってもらった。
「ずるいですよ。私の質問には答えないで、自分ばっかり」
「それは……」
「今度会うときまでに考えておいてくださいね」
そしてタクシーは周一郎さんを残して夜の街を走り出す。
ガラス窓には夜の景色と重なって私の顔が映っている。
少しくらい苦しんで下さいね、周一郎さん。
「うまく行きそうか?」
周一郎さんだ。
私は唯ちゃんから視線を離さないでいる。
電柱に持たれながら私を待つ唯ちゃんは、手持ち無沙汰のせいか鞄をぶらぶらさせながら、時々キョロキョロと辺りの様子をうかがっている。
「それにしても、今日のお前の服装……すごいな」
「これですか?とげぬき地蔵商店街で見つけたんです」
オーバーの下に隠れていたベージュ地に大柄な白い花がプリントされたカットソーをひらひらさせる。
言葉を失った周一郎さんに、
「冗談です」と呟いた。
じゃあどこで見つけたんだ。ってなりそうだったから、
「原宿です」と付け加えた。
「原宿にこんな服売ってるのか。最近の流行は理解できないな」
しげしげと私の服を眺めている。
変なところで感心しているようだ。
本当は地元の商店街で見つけたのだけれど、黙っていよう。
くだらない話をしていたら、背の高い男性が唯ちゃんに近づいていく。
「あっ、唯ちゃんに声を掛けてる。あの人が畑山壮真さんですね」
違ったら一大事だ。唯ちゃんは可愛いからナンパされる心配もあったけれど、周一郎さんの「ああ」のひと声に胸を撫でおろす。
私と周一郎さんがそっと二人を影から見守ること数分。
何事か話していたけれど、二人は夜の街へと消えて行った。
「唯ちゃん少し酔っていたけれど、あのままホテルに直行とか無いですよね?」
「心配ない。壮真はそんな男じゃない」
畑山壮真。
周一郎さんと同じ三十二歳。一部上場、菱沼物産の時期社長。周一郎さんとは大学時代の同級生とのこと。
遠目ではあったけれど、背は高く、かなりのイケメンのように見受けられた。
あの二人、うまくいくといいのだけれど。
ほっとした私は、寒いしさっさと帰ろうと駅の方へ歩き出そうとした。その腕を周一郎さんが掴む。
「お前たちが出てくるまで、ずいぶん外で待ったぞ」
周一郎さんとの約束の時間を四十五分もオーバーして、私たちは居酒屋を出たのだった。
「すみません。おしゃべりが楽しくてついつい時間オーバーしちゃいました。ごめんなさい」
彼は腕を組んでため息をつく。
「壮真はどこか温かいところで、冷えた体を温めるだろうからいいが……」
「そうですね。お茶とかだったら唯ちゃんの酔いもさめるだろうし。私たちもどこかでお茶しますか。お詫びにおごりますよ」
周一郎さんの冷たい視線が私に注がれた。
「俺たちは大人だ」
「……?」
「壮真たちはまだ子供だ」
「……!?」
そう言うことでしたか。気づかなくてすみません。
「赤坂の行きつけのバーにしましょうか。この時間だと少し混んでるかもしれないけど、お酒のほうが体が温まりますよね」
そのバーは隠れ家的存在で、赤坂の住宅街にひっそりとたたずんでいた。
ここからはタクシーでしか行けない。
私はタクシーを拾うために大通りに出た。
時間は二十二時を少し過ぎたところ。
タクシーは何台も通るのだけれど、どれも賃走や迎車ばかりだ。
「なかなか空車来ないですね。アプリで呼びましょか」
鞄からスマホを取り出そうとする私の手を、周一郎さんが制した。
「ドレスコードがあるわけじゃないが、お前の恰好でバーは無理だろ。俺たちこそホテル直行ってのも、ありだと思うんだが。今日は寒いしお互いの体を暖め合うのも……」
涼しい顔で、しれっと大それたことを平気で言う。
これはきっと周一郎さんだから許されるのだと思う。
だけど、しし座流星群の夜以来、周一郎さんの様子が変だ。今だって壊れたおもちゃのように突拍子も無いことを言い出すのだから。
だから私も突拍子の無い言葉で答えた。
「ねぇ、周一郎さん。私のこと処女だと思います?」
「なっ、いきなり何だ」
「答えて下さい。どっちだと思います。以前周一郎さんは処女性を気にしないって言いましたよね。やっぱり処女の子とそうでない子を抱くときって、やりやすさとかあるんですか?」
「お前まさかっ」
彼の両手が私の肩を痛いほど掴む。
真っすぐに私を見つめる周一郎さんの瞳に、私はドキっとして息を飲む。
私に対してこんな真剣な彼の顔を見るのは初めてだった。
通りを流れる車の波は、私たちを置き去りにするように、近づいては去って行く。
「お前まさか他の男と……」
「私だって二十七です」
「まさか、あいつじゃないだろうなっ!?」
……あいつ……ね。
「周一郎さんには関係ないですよね」
さんざん私を放ったらかしておいて、今さら何よ。
「そう……だな」
「離してください」
彼の手を振り払った。
と、その手を乗車希望と勘違いしたのかタクシーが止まった。
そしてゆっくりと自動ドアが開く。
とっさに私はタクシーに乗り込んだ。
「おじさん、赤坂見附まで」
「おいっ。俺の質問に答えろっ」
周一郎さんはタクシーの屋根に手をかけて、座席に座る私の顔をのぞき込んで来た。
運転手さんは扉を閉めようかどうしようか戸惑っている。
私はおじさんに「すいません」と声を掛けて少しだけ待ってもらった。
「ずるいですよ。私の質問には答えないで、自分ばっかり」
「それは……」
「今度会うときまでに考えておいてくださいね」
そしてタクシーは周一郎さんを残して夜の街を走り出す。
ガラス窓には夜の景色と重なって私の顔が映っている。
少しくらい苦しんで下さいね、周一郎さん。
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