総務部特命係 頓宮はるみが通ります ~ちょっとその件、私に預けてもらえます?~

一条風花

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きっちりカタはつけるから 5

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 それから三ヵ月後のこと。

 満天堂は上から下まで大変な騒ぎとなった。
 
 唯ちゃんは一瞬で時の人となったのだった。

「信じられないっ!!あの本橋さんが大手商社、菱沼物産の時期社長と婚約ですってっ!」
「お相手の方、経済紙で見たことあるけれど超イケメンっ!」
「どこで出会ったわけ?悔しすぎるんですけどっ」

 社食でもそんな会話があちこちで聞こえてくる。

 畑山壮真さんは唯ちゃんをとても気に入り、すぐにでも結婚したいと周りを説得し異例のスピード婚約となったのだった。

 私はほくそ笑みながら、今日もご飯をよそる。

「トンちゃん知ってる?うちの社員が菱沼物産の御曹司と婚約したこと」
「ええ、朝からそんな話をチラホラ社員さんたちがしてましたから」

 経理部の大倉部長は相変わらず噂話に敏感だ。

「玉の輿だよねぇ。羨ましい限りだよ。俺の娘もどっかの御曹司がもらってくれないかね」
「娘さん、いらしたんですね」
「俺に似ず、中々の美人。親としては早くいい男を見つけて欲しいんだけどさ」
 
 それよりも。私をチラッと見るなり意味深な視線を送ってくる部長。

「どんどん先越されちゃうね」

 一言余計だっての。

 私はおしゃもじをギュッと握る。

「だから、いい人いたら紹介してくださいよ」
「また今度ね~」

 お調子者の部長との漫才も慣れたもの。
 いつもの癖でため息を漏らしても、自然と笑顔になる。

 おめでとう、唯ちゃん。

 所で例の二人は?

 私は食堂内に視線を走らせる。

 いたいた。

 何やら言い争ってる。

 あっ、山下さんが席を立って……あー、清水君が追いかけてる。

 こちらも、お幸せにねっ。

 


 仕事を終えた私は、いつものように頓宮はるみのロッカールームへ向かっていた。

「はるみさんっ」

 唯ちゃんだった。

「社内はあなたの話題で持ち切りじゃない。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」

 頬を染めて恥じ入る彼女はなんと可愛らしいことか。
 しかも左手の薬指には存在感を放つ、大きな大きなダイヤがキラリと光っている。

 唯ちゃんは今月いっぱいで満天堂を寿退社する。
 
 いつから誰が始めたかは分からないけれど、満天堂を寿退社する女子社員は婚約してから退社するその日まで婚約指輪をつけて出社する習慣があった。

「あの、私、はるみさんに感謝してるんです」
「何故?」
「だって、あの日はるみさんと飲みに行かなかったら、壮真さんに会えなかったじゃないですか」
「あ~、それもそうね。うふふ、きっと二人は出会う運命だったのよ。赤い糸で結ばれていたんじゃないの?」 

 えへっ。ゆいちゃんは恥ずかしそうに笑う。

「唯ちゃんがいい子だから、神様が素敵な出会いを用意してくれたんじゃない。SNSのデマも、清水君と別れたのも、壮真さんに出会うためだったのよ」
「まさかぁ~、でも本当にすごい偶然でした。あの時、壮真さんが酔った私を心配して声を掛けてくれなかったらと思うと……」
「待ってて。って言ったのにさぁ、戻ってきたら唯ちゃんの影も形もないんだから。心配したんだよ。あちこち探したし」

 言いながら私は胸の内で舌を出す。

「すみません。あの後、はるみさんにLINEしたんですけど、既読ついたのだいぶ後でしたよね。探してくれてたんですね」
「まー結果的に私が居なくて良かったよね。アラサーのおばちゃんが一緒だったら、壮真さんだって声かけなかったと思うよ。スマホを居酒屋に忘れたこと、感謝してね」
「はいっ!」
「まったく調子いいんだから。今度何かおごりなさいよっ」
 
 そう言うと、唯ちゃんは是非是非と頷いた。

「私たちの結婚式には絶対来てくださいね」
「えー、セレブが集まる結婚式にダサダサアラサー社食のおばちゃんがぁ?」
「自分に自信を持てって言ったのは、はるみさんですよ。もし良かったら今度一緒に洋服買いに行きましょうよ」
「結婚式に着ていくワンピースでも選んでくれる?」
「任せてください。私、こう見えてセンスいいんですから」

 本当に唯ちゃんは自信を持ち直していたし、とても幸せそうだった。
 めでたし、めでたし。

「正式に日取りが決まったら、また会いに来ますね。今度は壮真さんと一緒に」
「市田常務が、がっかりしてたわよ。結局唯ちゃん辞めちゃうから」
「常務には私から他の子を推薦しておきました。彼女は私よりしっかりしていて仕事も出来るいい子ですよ。今度はるみさんにも紹介しますね」
「よろしく。社食の常連さんになってもらわなくちゃ。商売繁盛、商売繁盛」
「やだ~、はるみさんたら」

 ちまたでは、唯ちゃんに壮真さんを紹介したのは市田常務だと囁かれていた。
 
 そして新たな都市伝説も誕生したらしい。満天堂の重役秘書を務めると、玉の輿に乗れると。
 こんな噂なら大歓迎。

 来年は可愛い子がたくさん入社面接に来てくれること間違いなし。
 満天堂には可愛い子が多い→優秀な理系男が集まる→会社はますます発展する。

 これぞ人気企業の三段論法。
 
 


 話をしている私たちの横を、山下さんが偶然通りかかり、エレベーターのボタンを押した。

 これくらいの仕返しはいいよね。と、私は彼女に声をかけた。

「ねえ、山下さんっ」

 私が声を掛けると、山下さんはえっ?とこちらを振り返る。

「唯ちゃんのダイヤ見た?こんな大きいダイヤ、私初めて見たよ」

 バツの悪そうな山下さんを無視して、ゆいちゃんに向き直ると、「何カラット?」と訊ねる。

「えっと、その……三カラットです」

 あくまでも唯ちゃんは控えめだ。
 山下さんにされた仕打ちを考えれば、もっと言ってやってもいいのに。

「ひゃー、凄い。さ、三カラット!」

 おおげさにのけぞる私。

「しかもそれ、銀座にある有名なハイブランドのデザインだよね」
「……はい」

 恥ずかしそうにダイヤを隠す仕草も、唯ちゃんらしくて可愛い。

「確か、山下さんも結婚するのよね。婚約指輪もらった?」

 山下さんは、サッと自分の左手を隠す。

 ちょっと可哀想だったかな。でも人の幸せを壊したのだから、それなりの代償は払わないと。
 
 唯ちゃんには要らないかな?そんなちっぽけな代償。

「唯ちゃんは結婚式どこでするの?」
「えっと、帝都ホテルの予定です」
「すっごーい、やっぱりセレブは違うわねっ。山下さんもどこかのホテル?」

「ええ」彼女は言葉を濁す。

「ねぇねぇ、ドレスはやっぱりオーダーメイドでしょ?唯ちゃんスタイルいいから、どのハイブランドでも似合いそう」
「私はレンタルで良いって言ったんですけど、彼はハワイでも二人だけでもう一度お式を挙げたいから、ブランドのドレスをオーダーしろって言うんです」
「ひゃー、数回しか着ないドレスに何百万も!」

 エレベーターが来るまでの間、私は山下さんに唯ちゃんの幸せ話を聞かせてあげたのだった。
 
 ちゃんと聞いてた?山下さんっ!
 
 ざ・ま・あっ!!


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