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意外な展開 3
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東京の街が夕暮れに包まれる時刻。
今日は夜のシフトも入っていた。
朝から夜まで、長い一日だ。
ちょっと労働基準法違反じゃない?
残業代、きっちり周一郎さんに請求しよう。
社食の夜の営業時間は十八時から二十一時まで。
残業でお腹を空かせた社員さんや、徹夜組の社員さんが食べに来てくれる。この時間になると女子は少なくなり、ほとんどが男性社員だ。
「よー、トンちゃん」
「あっ北村さん、お久しぶりです。今日は残業ですか?」
「多分徹夜。新商品向けのポスターの直しがあってさ」
「大変ですね」
「ああ、結構なデザインの変更。発表まで時間もないし最悪だよ」
私はコーンスープをトレーに置く。
今日の夜のAメニューは、ローストビーフとバーニャカウダ、コーンスープとフルーツ。
これだけ豪華なのに、やはり四百円。
「今日、デートの約束してたんだけどドタキャンしたから、彼女怒っちゃってさぁ」
ため息をつく姿が哀愁に満ちている。
「三十九歳バツイチ、やっと出来た彼女なのになぁ。俺、振られるかも」
「大丈夫ですよ。北村さんイケオジですから」
「やっぱそう思う。だよな~」
ありがとよ~。北村さんは片手を上げてテーブルへと移動する。
人間模様とは良く言ったもの。百人百模様。ひとつとして同じものはない。
くっついたり、離れたり。
――男と女って、難しい。
因みにターゲットの清水君が、夕食をここで食べることはあまり無い。
夕方から外出することが多いからだ。出先から戻って、遅い夕食をここで食べることがたまにあるくらいだ。
唯ちゃんの情報によると、木曜の夜は仕事の後ジムに通っているらしい。
今日はその木曜日。
私はそのジムに行こうと思っている。
本当に、本当に長い一日になりそうだった。
深夜手当もちゃんと請求しなくちゃ。
「おばちゃん、俺のスープ早くしてよ」
はい!?
その声は……周一郎さん。
おばちゃんって……。せめて、おいとか言って欲しかった。
彼はたまに、社食に姿を現すことがある。その場合、大概夜の営業時間が多い。
「すみません、ただいまお注ぎします」
「新メニュー、社員には好評か?おばちゃん」
何故そこで、あえておばちゃんを繰り返す?
「おかげ様で、寒い日はおひとり様鍋が良く出ています」
満足そうに彼は頷く。
新メニューの何点かは周一郎さんの考案だ。社長がそこまでする必要はないと思うのだけれど、社員の健康を気にするのは社長として当然。と自らメニュー作成に関わったのだった。
私を雇ったことと言い、本当に社員の幸せをいつも考えている。
自分だってメチャメチャ忙しくて食事をまともに取れない時だってあるのに。
いい人なんだけどね。
「あっ!」
余計なことを考えていたから、うっかりスープを指にかけてしまった。
あまりの熱さにスープ皿を落としてしまった。
木製の皿がカランカランと音をたてて床に転がる。
「おい、大丈夫かっ」
白い指がみるみる赤くなる。
「すぐに冷やした方がいいぞ」
「は、はい……」
騒ぎを聞きつけて、夜の責任者である相沢さんが飛んできた。
「頓宮さん大丈夫ですかっ?ここは変わるから冷やしてきたら」
「すみません。お願いします」
相沢さんは社食を運営している会社の社員さんだ。
皆、私に敬語を使ってくれる。
年上だと思ってるみたい。
「失礼しました」そう言って相沢さんは周一郎さんにスープを盛る。
私は急いで水道に走ると、蛇口を開いた。
ザーっと音をたてて水が勢いよく流れる。指をつけると気持ちよかった。
周一郎さんの方を見ると、何やらムスっとしている。
周一郎さんは週のほとんどをお客様や外注さんとの会食で埋まっているはず。
今日は会食ないのかな。
なんてよそ見をしている私に声がかけられた。
夜の調理担当の内山さんだ。まだ三十二歳で社食では若手なほうだ。昼間はレストランチェーン店で働いているのだが、なんでも欲しい車があって、夜もバイトしているとか。
「はい、どうぞ」
私は差し出されたタオルを受け取る。
「ありがとう」
「気をつけないとね。スープ熱いから火傷しちゃいました?」
「多分平気だと思います。ちょっとジンジンしてるけど」
「火傷に付ける薬ないですからね。冷やすのが一番ですよ」
内山さんは氷の入ったビニールを作ってくれていた。
ひんやりした液体が指を包む。
「ちょっと休憩してきたら?今、お客さん減って落ち着いてるし。頓宮さん今日は朝からなんだって?」
「うん。そうなの疲れたぁ」
こんな展開、朝もあった。
私が唯ちゃんに氷袋作ってあげたっけ。
なんだか変な一日だ。
今日は夜のシフトも入っていた。
朝から夜まで、長い一日だ。
ちょっと労働基準法違反じゃない?
残業代、きっちり周一郎さんに請求しよう。
社食の夜の営業時間は十八時から二十一時まで。
残業でお腹を空かせた社員さんや、徹夜組の社員さんが食べに来てくれる。この時間になると女子は少なくなり、ほとんどが男性社員だ。
「よー、トンちゃん」
「あっ北村さん、お久しぶりです。今日は残業ですか?」
「多分徹夜。新商品向けのポスターの直しがあってさ」
「大変ですね」
「ああ、結構なデザインの変更。発表まで時間もないし最悪だよ」
私はコーンスープをトレーに置く。
今日の夜のAメニューは、ローストビーフとバーニャカウダ、コーンスープとフルーツ。
これだけ豪華なのに、やはり四百円。
「今日、デートの約束してたんだけどドタキャンしたから、彼女怒っちゃってさぁ」
ため息をつく姿が哀愁に満ちている。
「三十九歳バツイチ、やっと出来た彼女なのになぁ。俺、振られるかも」
「大丈夫ですよ。北村さんイケオジですから」
「やっぱそう思う。だよな~」
ありがとよ~。北村さんは片手を上げてテーブルへと移動する。
人間模様とは良く言ったもの。百人百模様。ひとつとして同じものはない。
くっついたり、離れたり。
――男と女って、難しい。
因みにターゲットの清水君が、夕食をここで食べることはあまり無い。
夕方から外出することが多いからだ。出先から戻って、遅い夕食をここで食べることがたまにあるくらいだ。
唯ちゃんの情報によると、木曜の夜は仕事の後ジムに通っているらしい。
今日はその木曜日。
私はそのジムに行こうと思っている。
本当に、本当に長い一日になりそうだった。
深夜手当もちゃんと請求しなくちゃ。
「おばちゃん、俺のスープ早くしてよ」
はい!?
その声は……周一郎さん。
おばちゃんって……。せめて、おいとか言って欲しかった。
彼はたまに、社食に姿を現すことがある。その場合、大概夜の営業時間が多い。
「すみません、ただいまお注ぎします」
「新メニュー、社員には好評か?おばちゃん」
何故そこで、あえておばちゃんを繰り返す?
「おかげ様で、寒い日はおひとり様鍋が良く出ています」
満足そうに彼は頷く。
新メニューの何点かは周一郎さんの考案だ。社長がそこまでする必要はないと思うのだけれど、社員の健康を気にするのは社長として当然。と自らメニュー作成に関わったのだった。
私を雇ったことと言い、本当に社員の幸せをいつも考えている。
自分だってメチャメチャ忙しくて食事をまともに取れない時だってあるのに。
いい人なんだけどね。
「あっ!」
余計なことを考えていたから、うっかりスープを指にかけてしまった。
あまりの熱さにスープ皿を落としてしまった。
木製の皿がカランカランと音をたてて床に転がる。
「おい、大丈夫かっ」
白い指がみるみる赤くなる。
「すぐに冷やした方がいいぞ」
「は、はい……」
騒ぎを聞きつけて、夜の責任者である相沢さんが飛んできた。
「頓宮さん大丈夫ですかっ?ここは変わるから冷やしてきたら」
「すみません。お願いします」
相沢さんは社食を運営している会社の社員さんだ。
皆、私に敬語を使ってくれる。
年上だと思ってるみたい。
「失礼しました」そう言って相沢さんは周一郎さんにスープを盛る。
私は急いで水道に走ると、蛇口を開いた。
ザーっと音をたてて水が勢いよく流れる。指をつけると気持ちよかった。
周一郎さんの方を見ると、何やらムスっとしている。
周一郎さんは週のほとんどをお客様や外注さんとの会食で埋まっているはず。
今日は会食ないのかな。
なんてよそ見をしている私に声がかけられた。
夜の調理担当の内山さんだ。まだ三十二歳で社食では若手なほうだ。昼間はレストランチェーン店で働いているのだが、なんでも欲しい車があって、夜もバイトしているとか。
「はい、どうぞ」
私は差し出されたタオルを受け取る。
「ありがとう」
「気をつけないとね。スープ熱いから火傷しちゃいました?」
「多分平気だと思います。ちょっとジンジンしてるけど」
「火傷に付ける薬ないですからね。冷やすのが一番ですよ」
内山さんは氷の入ったビニールを作ってくれていた。
ひんやりした液体が指を包む。
「ちょっと休憩してきたら?今、お客さん減って落ち着いてるし。頓宮さん今日は朝からなんだって?」
「うん。そうなの疲れたぁ」
こんな展開、朝もあった。
私が唯ちゃんに氷袋作ってあげたっけ。
なんだか変な一日だ。
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