上 下
8 / 44

第8話

しおりを挟む
 薫を追い出した団長は、追い出してすぐに我に返り大人気ない自分の行動に嫌悪していた。薫を早く追いかけなければ。体が動かなかった。どうせ、俺と居たら面倒事に巻き込んじまう。でも、戸籍を作る金ぐらいは渡してやれば良かった。

「あいつは異世界人。あいつから見たら俺が異世界人になるわけだが、ああくそ。それにあいつは貴方は馬鹿ですか。そう言っただけじゃねぇか。なのに俺は馬鹿にするのかなんて逆上して。
 あいつの話。聞いてやれば良かった」

 頼れる奴いねぇのに。探さねぇと。せめてあいつに常識を教えて自立出来るように。

 ようやく外に飛び出したが、雪が降っている事に初めて気付いた。自分が戻って来た時は雪なんてまったく降っていなかった。コートを着て、コートをもう1枚持ち街へ走った。寒さでもし街でうずくまっていたら凍死する。死んでいたら全面的に俺のせいだ。

「カオル」

 必死に名前を呼んだ。街には人っ子1人見当たらない。この雪だ。誰も外には出ないだろう。家の陰になる場所や、屋根のある店。くまなく探したが見つからない。まさか奴隷商に売られた。あの容姿だ。珍しがって連れて行かれたのかもしれねぇ。

 もう1度大声で薫の名を呼んだ。

「カオル」

「はい」

 返事が聞こえた。淡々としたなんの感情もこもっていない声。

「あの大丈夫ですか?」

「心配するなら、心配してる声出せよ。
 こんなことを言いたかったわけじゃねぇ」

 何処から現れたとか、今は全部どうでもいい。

 薫をおもいっきり抱きしめた。暖かい。生きている。本当に良かった。死んでなくて。

「悪かった」

「はい。許します。聞いてもらいたい話。あるんですけど、良いでしょうか」

「聞いてやるなんでも。俺のことはジキルでいい」

「分かりました。ジキル。苦しいので離しください」

「悪りぃ、コート着ろ」

「ポンチョにコート着られますか?」

「着てみりゃ分かるだろ」

「そうですね」

 ぶかぶかのコートを着て、必死に腕まくりをするカオル。カオルを見て今度は間違ったりしない。ジキルは心に誓っていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

白い結婚の契約ですね? 喜んで務めさせていただきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,153pt お気に入り:62

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:3,129

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:839pt お気に入り:945

妹の妊娠と未来への絆

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,739pt お気に入り:28

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,788pt お気に入り:4,130

処理中です...