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第9話

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 誰かに探されたのは、店長以外薫ははじめてだった。店長は家政夫紹介所の店長だ。あの人も探しているからな。薫にとって頼れた人はあの人だけで。

「泣いてるのか」

ジキルに顔を覗き込まれた。泣いてる。わたしが。頬に触れてみる。確かにわたしは泣いていた。言われて気付くなんて。鈍すぎる。

「どうして、泣いているのか分かりますか?」

「俺に聞くな。分かるわけねぇだろ。
 ほら、これでふけ」

ふけと言われて差し出されたハンカチはぐしゃぐしゃでシワだらけ。でも、団長の優しさが感じられた。

「ふっ、はは。何これ。ありがとう」

表情には変化はないけれど、微かな薫の笑い声にジキルは驚いた。

「人間らしい所があるんじゃねぇか」

「何か言いましたか?」

「言ってねぇよ。帰るぞ」

「はい。わたしも言いたいことあります」

「帰ってからで良いだろ」

「いえ。行きましょう。こっちです」

ジキルの右手を引っ張り、薫は歩き出す。戻ってジェリーに会ったなんて言えば、ジキルは絶対に会いに行かない。今、無理矢理にでも会わせてみるしかない。わたしは誰かを仲直りさせたことがない。

「あら、帰ってくるのが早かっジキル」

「ジェリー。なんで。てめぇが」

2人は同時に薫を見た。居心地が悪い。でも、とりあえず会わせてみるしかない。考えつかなかった。

「話し合ってください。わたしも言葉足りないですけど、美味しいもの作ってきますから」

言葉が足りないなら、今からでも話し合え。生きているんだから。店長に昔言われた。

わたしは美味しいものを作って手助けをしてあげよう。
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