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第10話

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 ビーノを小さくしてポケットに戻し、心ここに在らずでぼーっとしているルダスにチカは、声の掛け方が分からなかった。誰とも関わらなければ、別れの痛みも苦しみも感じなくて済む。ここでわたしがあの精霊はすぐここを辞めさせられる。予知したから大丈夫だよ。言ってもルダスの心は晴れないだろ。

「言う。つもりか」

 怯えと悲しみ、多少の怒りを混ぜたルダスの問いかけ。言うつもり、さっきのローズが言った呪われている闇のドラゴン。その事だろうか。

「初日で知られるなんて、本性も種族も。教師はプライベートな情報を漏らしたらいけない。校則があるからここを選んだのにな。言いたければ言え。どうせ今日中に広まる」

 チカと繋いでいた右手を振り払うように解いた。ゆっくり歩き出したルダスの背中が酷く頼りなくて、遠くに見えた。また何故か姉の声が聞こえた。

 千景。人間は悲しんでいる人を抱きしめて、頭を撫でてあげるの。特に愛しい人に撫でて貰えるのは格別に嬉しいのよ。あの時、わたしは。愛しいって何って聞き返した。そしたら特別大好きな人。家族とはまた違う。千景にもいつか分かるわ。

「分からないよ。姉さん」

 頭を撫でるのは無理だけど、ルダスの方が大きい。裏表激しくて言いたい事を素直に言えない、圧が凄くて面倒くさい男。わたしには関係ない。関係ないのに。姉の声が響いて無視出来ない。

 千景に放っておくのは無理。ねぼすけで、極度の面倒くさがりだけど、千景は関わってしまったら物語が完結するまでは面倒を見るでしょ。彼のここでの物語はまだ終わらないわ。あなたが行かないと終わってしまうわよ。不完全な形でね。

「本当に面倒くさ。どこに行くのかも知らないくせに」

 チカは走って追いつき、ルダスの背中に抱き付いた。

「何するんだ。てめぇは」

「慌ててるのか。まぁ良いや。別に泣いてるより。
 呪われてようが、闇のドラゴンだろうが、君は君だ。
 わたしに言いふらす趣味はないし、第1面倒だ。
 親しい友人すらいないわたしが誰に言うんだ。馬鹿が。
 次は職員室だ。落ち着いたなら言え。この状態は小っ恥ずかしいからな」

 男同士でも家族でもない奴を背後から抱き締めるのは面倒くさいし、むず痒いから今すぐチカはやめたかった。

「てめぇ、親しい友人すらいないなんて言ってて恥ずかしくないのか」

「そこは事実なので、別に。大丈夫なんだな。離す「待ってくれ、5分だけ」5分だけだからな」

 5分だけ、ルダスの言葉が微かに震えていたから、チカは諦めて待つことにした。
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