これで異世界なんて、どうかしてるっ!

ひむべーれ

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そして、異世界へ

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 驚きと共に襲ってきたのは浮遊感だった。
 さっきまで確かに地面に足を着いていたのに、そこには何もなく、宙に浮いている。

 そして徐々に落下していく。

「ちょっ、うわっ、あー!」

 驚きと恐怖で、声を上げる。
 突然の出来事なので無理もない。

『大丈夫』

 再び声が聞こえた。
 周りを見回すと、すぐそばにその子馬はいた。

『無事に、送り届ける……』

「ちょっ、これ、一体どうなって!」

 あまりにも信じられない状況に、思わず怒鳴ってしまう。
 だがその声は優しく、そして弱々しかった。

『ごめんなさい、君を選んだ……』

「選んだ? 何に!」

 バタバタと手足を振ってみるが、何にもならない。落下速度が落ちるわけでもないし、何かに触れるわけでもない。
 でも、何かしないと怖くて怖くて堪らなかった。

『異世界、ヴァルデール……』

「は?」

 聞き慣れないことが言葉が飛び込んできた。

「異世界?」

『そして君の、世界……君の……どうか…………世界を…………』

 声はどんどん弱く、小さくなっていく。
 どうやらその子馬が直接しゃべっているわけではなく、頭の中から直接聞こえてくるようなのだが、後半は全然聞き取れなかった。

 ますますもって恐怖が身体を支配していく。
 もしこの現象をこの子馬が起こしているのだとしたら、子馬が力尽きた場合、どうなるのか。
 心なしか、落下速度が上がっている気がする。

 身体が震えていた。
 声も出せない。
 さっきまでジタバタと振り回していた手足も震えていて力が込められない。

 どれくらい落ちていたのだろうか。
 もしかして、ずっとこのままではないのだろうか。
 そんな気さえしてくる。

 だが、終わりはふいに訪れた。

 再びの浮遊感。
 さっきまでの落下が嘘かのように優しくふわりと浮いた。

 そして、足の先が何かに当たった。両足とも当たる。
 どうやら地面のようだ。
 しっかりと足を着けたつもりだったが、優弥はその場にへたり込んでしまう。

 ざあっと小気味良い音と共に風が吹きつけてきた。

 そこは草原だった。
 遠くに太陽が落ちていくのが見える。 
空の殆どが黒に染まっているが、その部分だけが赤く輝いていた。

 優弥はしばし呆然としていたが、はっと我に帰り、近くを探す。
 手にがさがさと当たるものがある。今時庵とプリントされてるビニール袋だった。きんつばが五個入っている。さっき落ちていた時は持っていなかったが、あの子馬に触った時は確かに持っていた。優弥と一緒にやって来たのか。

 しかし探し物はこれではない。
 近くを見渡すと、すぐに目的のものは見付かった。例の子馬だ。

 見るとぐったりしている。
 公園で見た時よりも発している光が弱々しい。
ぴくりとも動かず、死んでしまっているかのようだ。

「嘘だろっ……!」

 手を伸ばすが、触れる直前でビクリと止まる。
さっきは触れた途端にとんでもないことが起きたのだ。
 触れたら、また何かとんでもないことが起きるのではないだろうか。

 少し躊躇うが、しかしこれ以上何が起きるというのだろうか。
 それに、触れたらこの世界に来たのだ、もう一度触れたら元の世界に帰れるかもしれない。

 優弥は恐る恐る子馬に触れた。

 すると再び強い光が発せられた。

 しかし、先程のように優弥を包み込むようではなく、子馬が強く発光しているだけだった。

 最初、その光は塊であったが、徐々に細長く伸びていき、棒状になっていく。

 そして前触れもなく突如として光は収まり、後に残ったのは白くて美しい槍だけだった。

 光が収まると、辺りは夕闇に飲み込まれていった。
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