これで異世界なんて、どうかしてるっ!

ひむべーれ

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(外伝)異世界の外側で

おさななじみマーチ

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 私の幼馴染みは唐変木だ。
 朴念仁と言ってもいい。

 いや、別に気が利かずに偏屈なわけではないし、無口で愛想が無いわけではない。
 むしろ真逆のタイプだ。

 では、何でそんなことを言ったのかって?
 特に良い悪口が思い浮かばなかったから適当に言ってみただけだっ。
 でも、気が利かなくて偏屈ってのは合っている。

 今、私の隣を歩いている幼馴染みはついさっき、私の親友で今年の文化祭でミス三年生にも選ばれた麻紘まひろの告白を断ってきたのだ。
 しかも「姉達より先に恋人を作るつもりはない」とはっきりと言って。

 なんという偏屈、なんというシスコン!
 まあ、幼馴染みがそんな風に言う理由はわかってるから、私は何も言えないんだけど。

 さっきから「女心がわかってない」とか「シスコン」とかはっきり言ってやってはいるが。

 しかしまさか「そんな風に想ってるとは思わなくて」なんて言い出すとは。

 あからさまだったでしょうよ!
 あんたの目は節穴か!

 私の幼馴染みは相当モテる。そこそこイケメンだし、背は高いし、頭は良いし、運動神経抜群だし、誰にでも優しいし、頼み事はごり押ししたら何でも聞いてくれるし。
 さっきまでサッカー部に混じって引退試合をしていたのだが、他の部員を押し退けての大活躍。しかも、自分があまり目立つとまずいだろうと加減しててそれなのだ。
 そんな男がモテないわけがない。

 麻紘以外にも、クラスメイトどころか三年生、いや後輩からも告白ラッシュを受けていた。
 もうすぐ卒業だから、と。

「麻紘で何人目?」

「えっと、三年だと十四人目かな。後輩入れるとちょっと覚えてないけど……」

 照れるように苦笑する。
 ちゃんと覚えてるあたりが本当に律儀な男だ。

「全部断っちゃって、勿体無いんじゃない?」

「うん、でも彼女作る気ないし」

 当然のことのようにさらりと言う。
 幼馴染みはちょっと複雑な家庭の事情で二人の姉と暮らしている。ご両親はいない。

 小さい頃から苦労して育ててくれた恩に報いるため、姉達に彼氏が出来るまで自分は彼女を作らない。

 高校に入って最初に告白された時にきっぱりとそう言ったそうだ。
 たしかゴールデンウィーク明けとかにそんな噂が流れてた。

 高校入学当時は事情を知らない人が多かったので、最初は気持ち悪がられていたが色々とあって(主に私が頑張って)、すぐに重度のシスコンということで落ち着いた。
 幼馴染み本人があまり気にしてなかったというのと、人当たりが良いところも大きいだろう。

 それから何人かアタックしていたが、皆に同じ文句で断っていたので、徐々に落ち着いていった。

 しかし、文化祭や体育祭で中心に立つ幼馴染みはやはり目立つ。
 そう言った折りには雰囲気で押せるんじゃね? とでも考えた不埒者がアタックしたが、見事に玉砕していた。
 一年の終わりには難攻不落の男として学校中の有名人になっていた。

 女子とは仲は良いが一線を弁えている幼馴染み。
 しかし、その一線を微妙に越えている人物がいる。
 それが私だ。

 私達は家が真向かいにあるという幼馴染みで、小さい頃からずっと一緒だった。
 こいつが辛かった時も知ってるし、やさぐれていた時も知っている。
 私はずっとそばで見ていた。時には手を差し伸べたりもした。

 私達は幼馴染みなんだし、お互いのことをよく知っているし、わかっている。そういう普通の幼馴染みだと思う。
 しかし周りはそうは思ってくれなかった。
 本当は付き合ってるのではないか? だから皆を断っているのではないか?
 そんな邪推が生まれるのはある意味当然だった。

 一年の二学期に入ったくらいから、私は一部から陰湿ないじめを受けていた。
 幼馴染みが仲裁に入ったけども、あんたのせいで私はいじめられてるというのをわかっていなかったので、いじめはしばらく続いた。
 幼馴染みは心配してくれたが、それが原因なんだとはわかってくれない。私も特には言わなかったのが悪いのだが。

 いじめがなくなったのは、私が部活に入って練習に明け暮れ、幼馴染みとの距離が開いていったから。

 当時、私は部活に所属していなかったのだが、そのストレスをどうにかしないも身体が持たないと思って、薙刀部に入部した。

 運動部も考えたのだが、精神統一的なものを手に入れたかったので武道系の部にした。女子が入れる武道系の部活は剣道部と薙刀部しかなかったのだが、剣道部は汗臭いイメージがあるし、高校の薙刀部はなかなか良い成績を収めていたので薙刀部にした。
 剣道部だと男女一緒に練習することもあるというのも気にした。薙刀部は女子しかいないので、必然的に幼馴染みとの距離ができると思ったのだ。

「そういえば、聞きたいことがあったんだけど」

 幼馴染みが思い出したかのようにたずねてくる。

「結局、何で勇気が必要だったの?」

「はい?」

 一体何のことだ?
 話の脈絡が無さすぎて意味がわからない。

「ほら、最後の試合の時」

「ああ……」

 どうやら、私の引退試合のことを言っているらしい。

 全国大会の二回戦目、私が負けた試合。それが私の引退試合だ。

 恥ずかしい思い出が鮮明に甦ってくる。
 負けた後に大泣きしてしまったのだ。勝てなかったと。

 勝たなければいけない理由があった。それも、全国優勝しなければならない理由が。

 私の成績はそれなりだ。中の上、上の下くらい。悪いというわけではない。
 しかし幼馴染みと同じ大学に行くには足りない。

 幼馴染みは頭が良い。それもかなり。国立の大学だって狙えるくらい。
 しかし私はそこまででない。幼馴染みと同じ大学に行くならば、それなりの努力をしなければならない。
 
 全国優勝もその努力の一つ。部活で全国優勝なんてしたら、内申にかなりの箔が付くわ
 推薦だって取れるだろう。

 だから。
 幼馴染みの隣にいるために、私は努力した。
 部活に入ったのは幼馴染みと距離を取るためだったのに、その目標は真逆のものになっていた。

 私は幼馴染みをじっと睨む。

「な、なに?」

 だがそんなことはもちろん幼馴染みには言えない。言ったら、きっと幼馴染みではいられなくなってしまう。それは辛すぎる。

 全国優勝したら見直してくれて、少しは素直になってもいいのかもしれない。素直になる勇気がもらえるかもしれない。
 そんなことを考えてもいた。

 だが二回戦で負けてしまったのだ。あっさりと負けてしまった。おそらく実力の半分も出せずに負けてしまった。
 なぜなら、私は気付いてしまったのだ。
 緒戦を圧倒し、二回戦に向けて集中を高めていた頃、会場に幼馴染みが応援に来ていたことに。
 
 まさか来るとは思わなかった。来るだなんて言ってなかったのに。今まで来たことなんて一度もなかったのに。

 私は動揺した。激しく動揺した。
 嬉しかったのもある。でもそれ以上に気恥ずかしかったのもある。
 優勝したらどうしようなんて考えいた時に当の本人が目の前に現れたのだ。動揺しないわけがない。

 結局、私は動揺を隠せぬままあっさりと負けた。
 こんなことで動揺して試合に挑むなど、武人失格である。
 まあ所詮、私もただの女の子だったというわけだ。

 動揺して負けて、大泣きして幼馴染みに慰められて。
 それはそれで良かったんだけど、やっぱり私は優勝したかった。
 それで何か変わったのかと聞かれたら、結局なにも変わらなかったかも知れないけど。

 幼馴染みはきょとんとした顔で私を見ている。

 私は幼馴染みの隣にいるために色んな努力をしてきたし、毎日顔を思い出している。
 だけど幼馴染みは絶対に何にも考えずに私の隣にいる。

 それはそれで嬉しいことなのだが、なんか腹立たしい。

 私はわざとらしくため息を吐いてから、今日何度目かわからない台詞を吐く。

「本当にあんたは愚鈍なやつなんだから」

「ええっ! また?」

 なんでそんなことを言われたのかわからないのか、ただ傷付いているだけの幼馴染み。
 散々私を傷付けたんだから、せいぜい傷付くといいわ。

 まあ、同じ大学に行けるんだから、どうせこの先もこの帰り道は変わらないんだろうし。

 このちっぽけな幸せがいつまで続くのだろうか。
 きっと、お姉さんに彼氏が出来るまでだ、うけど……。
 早く作ってほしいやら、ほしくないやら。

 家の前に辿り着いた。ここでもう別れるだけである。
 私は何の未練もなく幼馴染みの隣から離れた。

「じゃあ、また明日」

 特に明日会う予定があるわけではない。
 でも、どうせなんやかんやあって顔を会わせるのだ。

 今日も明日も明後日も。
 卒業しても、大学に行っても、就職しても。
 きっと私はこう言うだろう。
 そして。

「うん、じゃあまた明日」

 幼馴染みもそう返す。何の屈託もなく。

 少しは含みを持たせてくれたっていいんじゃないかと思うんだが。

 とにかく、今日の帰り道はこれで終わりだ。
 こんな日がずっと続く。
 今日も、明日も、明後日も。

 そう、思っていた。
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