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犬、やめました。
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しおりを挟む「ほら、ボーッとするな。簡単でいいから自己紹介しろ。でも、俺の彼女なんだって自信を持って話せよ」
⋯⋯ん?
突然耳元に囁かれたその言葉のお陰で、真っ暗になった胸の中にぽっと光を差した。
今、彰が私の事を彼女って言った!?
言ったよね。絶対言った。
⋯⋯やっぱり『彼女』で合ってたんだ。
今まで聞きたいけど、なかなか怖くて聞けなかった関係性。
それがハッキリして、しかも『俺の彼女』呼ばわりした事に、嬉し過ぎてニヤけてしまいそうだ。
大勢の前でそんな顔を晒したくない私は、咄嗟に緩みまくってる口元を覆う。
でも、その手はすぐに彰に取られてしまう。
「……?」
「大丈夫。お前なら出来る」
そう言うと、彰は取った手を大きな手でギュっと包み込むように握ってくる。
やっぱ不思議。
彰は凄いな。
彰の温もりが自分の手に伝わって来て、どうしようもないくらいに全身を駆け巡っていた緊張が、驚くスピードで消えて行く。
ふと気づくと震えていた手も足も、ピタっと止まっている。
前を向くと、驚く程に沢山の人達がこちらを見ていた。
なのに、さっき感じた恐怖心はそこにはない。
繋いだ手に力を入れる。
するとギュっと握り返され、心がふわっと温かくなる。
チラりと見上げると彰の目が微かに優しく緩んだ。
その目は、私を応援してくれている目なんだと思う。そんな気がする。
もう、大丈夫。
もう怖くない。
私には、こんなにも頼もしい彰が付いているから。
そんな思いを抱きながら、大きく息を吸って吐いて、そして胸を張る。
「お初にお目にかかります。東十条彰さんとお付き合いさせて頂いております、白藤遥と申します。どうぞ、よろしくお願い致します」
緊張を解いてもらっても、彰みたいに沢山話す事は出来なかった。
本当に必要最低限の挨拶。
でも昔、家の教育係に教えられた綺麗な礼の仕方や姿勢、表情を意識して頭を下げると普通に拍手された。
その事に、私は頭を下げたままそっと胸をなでおろした。
「よくやった」
そんな声が聞こえて、ゆっくりと顔を上げると、笑顔で拍手をする人達が映り込む。
「先ほど会場からお声が聞こえましたので説明させて頂きます。彼女は令嬢でもなく、私と同じ大学に通う学生です」
彰がそう言うと、
「彰さんが通われてる大学って」
「ああ、あの一流大学の……」
「ふぅん。美人だけじゃなく賢いんだな」
「将来は局アナもいいんじゃないか?推薦してみるか」
そんな会話が耳に飛び込んでくる。
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