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第5章 本当の気持ち
第21話
しおりを挟む「新見様、失礼します」
そう言って、女将さんは正座をして手を床につく。「おう」と中から聞こえた横柄な声は、やっぱり新見さんのものだった。
やばい、如何する、如何したらいい。
言い訳を必死で頭の中でこねくり回すけれど、しっくりとした言葉はこういう時に限って出て来ない。
女将さんの手が、襖にかかる。からり、と木と木が滑る音がして、私と新見さんを隔てていた襖が開いた。
「女将、どうし……って、お前!」
女将さんの後ろに私の姿を確認した新見さんは、驚いたように声を上げる。その声色に、ぎゅっと身体が委縮する。未だ私の小さな脳みそは、言い訳を考えついてはいなかった。
焦る私の横から出された助け舟。それはとても、艶やかな声だった。
「新見さん、よくいらしてくれはったなぁ」
「お梅? ……何でお前らがここに?」
「いはったらいけんの? ここは私の家やのに」
そう言ったお梅さんは、くすりと笑いながら、畳の縁をすっと超えていく。すれ違いざまに後ろ手に手招きをされて、慌てて私も部屋に入った。
中には5人の男の人。けれど、その誰も壬生浪士組の人ではなかった。
くすくすと笑うお梅さんと正反対に顔を強張らせる私に、じっと興味の視線を注ぐ。居た堪れなくなって立ち往生していれば、新見さんはふーっと大きく溜息を吐いて言う。
「沖田、座れ」
「あ、……はい……」
私の事を沖田と呼んだ事で、正体を把握したのか、いきなり剣呑な空気が場を支配する。
「おい、コイツ……壬生浪士組の奴じゃねぇのか」
「この野郎、新見、お前如何いう了見だよ?」
次々に上がる激しい言葉達に、更に身を縮めようとした時。
「コイツ俺らの事知ってるから。……佐伯と、同じだ」
「――――っ!?」
新見さんが落とした言葉に、息が止まった。どくん、と心臓が鼓動を打つ音がした。
「佐伯と同じ……? という事はコイツも、長州の間者なのか?」
「……まぁ、そういったとこだ」
長州、という言葉にぞっと肌が粟立つ。この人たちは、長州藩の人間だという事なのだろうか。
ぎゅっと袴を掴んで、心を落ち着けようとした。けれど、身体を巡る血液は、更に加速して止まらない。
その間も目まぐるしく回る自分の頭。次々と記憶のピースが嵌まっていく。次に新見さんが口を開くまでには、私は一つの結論をはじき出していた。
彼は、……長州藩と結びついているのだ。
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みんなの感想(2件)
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璃桜さんと一緒に幕末へタイムスリップしたような気持ちで読ませて頂きました。
続きがとても気になります···。
更新されないのでしょうか?
もし、別サイトに続きがあるならぜひ教えて頂きたいです。
ぴーすけ 様
とてもあたたかなお言葉ありがとうございます!
そのお言葉に励まされ続きを更新し始めることができました。ほんとうに。ありがとうございます🌸
今後ともただ儚く君を想うをどうぞよろしくお願いします!
コメント失礼します。
もう更新されないのですが?
ており 様
コメントありがとうございます。そのお言葉に励まされ、続きを更新することが出来るようになりました。本当にありがとうございます🌸
今後ともただ儚く君を想うをよろしくお願いいたします!