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く るしいことがあったって
しおりを挟む空が、白み始める。
瑠衣は、それに気づくと―――ほら、と手を広げる。
「何、を―――」
「斬って」
じっと俺を見つめる深い蒼。
此奴は――何処までも。俺を、困らせる。
「ほら、斬らないと。貴方は、高杉晋作でしょう?」
「馬鹿言えよ、」
「貴方は、私なんて、乗り越えて――」
そこで、辛そうに、言葉を切る。涙が、頬を滑り落ちる。
ああ、そういうとこだって言ってんだよ。
好きだ、と。
心が、身体が、髪の先に至るまで。
細胞が、遺伝子が、DNAが、叫ぶ。
全身全霊で、叫ぶ。
言い切れよ、馬鹿。
戦慄く唇から、頑張って押し出された叫びは。
「貴方は、私なんて乗り越えて、―――生きていかなくてはいけない人でしょう!?」
「―――っ」
もう、限界だった。
刀身を仕舞って、刀を、その場に落とす。
がちゃん、耳に聞こえた鈍い音。
それとともに鼻先を掠めるのは―――瑠衣の、薫り。
「好きだ――――っ、好きだ好きだ好きだ!!!」
「しん、」
「うるせぇ黙れ馬鹿!!」
腕の中の瑠衣と、くっついてしまえばいい。
そうしたら、お前は俺の中で、生きていけるだろう?
なあ。
如何したら、一緒に居ることができる?
なんて、陳腐な問。
勿論、その解は――――無。
ああ、まるで。
俺たちは、酷く残酷な運命の歯車。
時代に囚われて、時代に遣われて。
それでも、愛したいと。
この心は、お前を離したくないと―――叫び続けているんだ。
ぎゅっと目を瞑る。
「晋作?」
「あ?」
目を開こうとしたら、ふわり。
温もりが、瞼にかかる。
「目を瞑った、そのままでいて?」
「何、で、」
「いいから、ね。最後のお願い」
優しく笑った、瑠衣は。
ちゅ、と音を立てて俺の唇に、己の唇を押し付ける。
一瞬後には、柔らかな感触が、湿ったぬくもりが、俺の唇から消える。
同時に、ちゃり、と。金属が触れ合う音がする。
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