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本編
6. ユリウス殿下の決断 ~オスカー視点
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「なぜそんな勝手なことをしたんですか!?」
俺はオスカー。エルスハイム王国第二王子、ユリウス殿下の従者だ。
いつもは物腰の柔らかい殿下が、珍しく声を荒げている。怒りの相手は、殿下のお母君である王妃様だ。
「あんな乱暴な娘、貴方にはふさわしくないもの」
「ルイーゼは、意味もなく暴力を振るうような人ではありません!」
「もう決めたことよ。次はもっと良い娘を見つけてあげるわね」
母君とこれ以上話しても無駄と悟ったのか、殿下はその場を辞した。
「母上はいつもこうだ。だいたい、ルイーゼには何の咎もないだろう」
「はあ、そうですねえ……」
殿下のお耳にはなるべく入れないようにしていたが、ルイーゼ・クラッセン伯爵令嬢は、他の貴族令嬢と何度かトラブルを起こしている。彼女はどちらかといえば絡まれた方らしいが、社交界での評判はあまり良くない。
俺からすれば、明るくて気だての良いお嬢さんだと思うけどね。貴族令嬢としてはちょっと、いやだいぶ変わり者だけど。
ヘンリエッテ王妃にはハルトヴィヒ殿下とユリウス殿下という二人の息子がいるが、特に弟のユリウス殿下を寵愛されている。その婚約者が社交界で悪評を立てているとあれば、嫌がるのは当然かもしれない。
ただ、このやり方は頂けないだろう。ルイーゼ嬢に非があったとしても、まずは国王陛下とクラッセン家で話し合いの場を設けるべきだ。
「ルイーゼ……、可哀想に。今ごろ泣いているかもしれない」
「あのお嬢がそんなタマですかね」
見た目こそ細っこくてか弱そうに見えるが、彼女は腕っ節がめっぽう強く、性格も祖父のレオポルド公に似てなかなか豪快だ。俺よりも漢らしいかもしれない。ルイーゼのお嬢には悪いが、泣いている姿なんてとても想像がつかない。
「クラッセン子爵の邸へ行く。馬車を準備してくれ」
「へいへい」
ルイーゼの父親であるクラッセン伯爵は騎士団長で、今は国王陛下の視察に同行して各地を回っている。普段から多忙な伯爵に代わり、息子のクラッセン子爵が当主代行として、伯爵家の実務を一手に担っているのだ。当然、伯爵令嬢であるルイーゼも兄の管理下にある。
だが、彼女には会えなかった。出迎えてくれたクラッセン子爵が、妹は出奔したと教えてくれたのである。
「独りで出て行った!?何で止めなかったのです」
「それが、目を離した隙に抜け出してしまったもので」
「どこへ行ったか分からないのですか?」
「今のところは。勇士になるなどと言っていましたが、まあ、そのうち音を上げて父か祖父の所へ泣きついてくるでしょう。ご心配には及びませんよ、殿下」
子爵は手をこすり合わせ、お世辞笑いを浮かべながら答えた。
「ところで、うちの娘のカトリーナが八歳になるのですが。これが私から見ても、なかなか美しくてですね。よろしければお会いに……」
「失礼します!」
ユリウス殿下は、相手が喋り終わる前に部屋から飛び出した。呆気にとられる子爵へ一礼して、俺も後を追う。
その足で、殿下と俺は門番へ聞き込みに回った。お嬢は数日前に、町から出て西へ向かったらしい。
これは戻ってくるまで諦めるしかなさそうだ。
だが俺の考えに反して、王宮へ戻った殿下はバタバタと荷物をまとめ始めた。
「何をなさっているのですか?」
「旅の準備だ」
「ま、まさかお嬢を追いかけるおつもりで?」
「そうだよ」
「王妃様が許さないですよ」
「だろうね。だから、黙って行く」
ユリウス殿下は置き手紙をしたためると、すぐに出て行こうとした。
殿下がこういう状態の時は、何を言っても聞いてくれない。柔和そうに見えるが、意外に頑固なのだ。
「あー、もう!待ってくださいよ殿下」
殿下をお一人にしておくわけにもいかない。俺は慌てて主人の後を追った。
俺はオスカー。エルスハイム王国第二王子、ユリウス殿下の従者だ。
いつもは物腰の柔らかい殿下が、珍しく声を荒げている。怒りの相手は、殿下のお母君である王妃様だ。
「あんな乱暴な娘、貴方にはふさわしくないもの」
「ルイーゼは、意味もなく暴力を振るうような人ではありません!」
「もう決めたことよ。次はもっと良い娘を見つけてあげるわね」
母君とこれ以上話しても無駄と悟ったのか、殿下はその場を辞した。
「母上はいつもこうだ。だいたい、ルイーゼには何の咎もないだろう」
「はあ、そうですねえ……」
殿下のお耳にはなるべく入れないようにしていたが、ルイーゼ・クラッセン伯爵令嬢は、他の貴族令嬢と何度かトラブルを起こしている。彼女はどちらかといえば絡まれた方らしいが、社交界での評判はあまり良くない。
俺からすれば、明るくて気だての良いお嬢さんだと思うけどね。貴族令嬢としてはちょっと、いやだいぶ変わり者だけど。
ヘンリエッテ王妃にはハルトヴィヒ殿下とユリウス殿下という二人の息子がいるが、特に弟のユリウス殿下を寵愛されている。その婚約者が社交界で悪評を立てているとあれば、嫌がるのは当然かもしれない。
ただ、このやり方は頂けないだろう。ルイーゼ嬢に非があったとしても、まずは国王陛下とクラッセン家で話し合いの場を設けるべきだ。
「ルイーゼ……、可哀想に。今ごろ泣いているかもしれない」
「あのお嬢がそんなタマですかね」
見た目こそ細っこくてか弱そうに見えるが、彼女は腕っ節がめっぽう強く、性格も祖父のレオポルド公に似てなかなか豪快だ。俺よりも漢らしいかもしれない。ルイーゼのお嬢には悪いが、泣いている姿なんてとても想像がつかない。
「クラッセン子爵の邸へ行く。馬車を準備してくれ」
「へいへい」
ルイーゼの父親であるクラッセン伯爵は騎士団長で、今は国王陛下の視察に同行して各地を回っている。普段から多忙な伯爵に代わり、息子のクラッセン子爵が当主代行として、伯爵家の実務を一手に担っているのだ。当然、伯爵令嬢であるルイーゼも兄の管理下にある。
だが、彼女には会えなかった。出迎えてくれたクラッセン子爵が、妹は出奔したと教えてくれたのである。
「独りで出て行った!?何で止めなかったのです」
「それが、目を離した隙に抜け出してしまったもので」
「どこへ行ったか分からないのですか?」
「今のところは。勇士になるなどと言っていましたが、まあ、そのうち音を上げて父か祖父の所へ泣きついてくるでしょう。ご心配には及びませんよ、殿下」
子爵は手をこすり合わせ、お世辞笑いを浮かべながら答えた。
「ところで、うちの娘のカトリーナが八歳になるのですが。これが私から見ても、なかなか美しくてですね。よろしければお会いに……」
「失礼します!」
ユリウス殿下は、相手が喋り終わる前に部屋から飛び出した。呆気にとられる子爵へ一礼して、俺も後を追う。
その足で、殿下と俺は門番へ聞き込みに回った。お嬢は数日前に、町から出て西へ向かったらしい。
これは戻ってくるまで諦めるしかなさそうだ。
だが俺の考えに反して、王宮へ戻った殿下はバタバタと荷物をまとめ始めた。
「何をなさっているのですか?」
「旅の準備だ」
「ま、まさかお嬢を追いかけるおつもりで?」
「そうだよ」
「王妃様が許さないですよ」
「だろうね。だから、黙って行く」
ユリウス殿下は置き手紙をしたためると、すぐに出て行こうとした。
殿下がこういう状態の時は、何を言っても聞いてくれない。柔和そうに見えるが、意外に頑固なのだ。
「あー、もう!待ってくださいよ殿下」
殿下をお一人にしておくわけにもいかない。俺は慌てて主人の後を追った。
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