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番外編
オスカーひとり旅(6)
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「いやあ、まさかユリウス殿下を我が家にお招きできるとは。しかも剣聖レオポルド公のお孫君まで!我がハイムゼート家が始まって以来の栄光だ。今日のことは書物に……いや、いっそ絵にして残すべきか」
「貴方ったら。殿下にご迷惑ですよ」
興奮して話すハイムゼート男爵を、夫人がいさめる。ユリウス殿下は苦笑いしつつも、上品に頷きながら二人の話を聞いていた。
「それにしても、オスカー様もお人が悪い。王宮勤めとは伺っていましたが、まさか王子殿下の付き人とは。そのように優秀な方と縁戚になれて、我が家の将来も安泰だ」
「縁戚?」
「お父様、それは……」
「オスカー様が、うちの娘を気に入って下さったようでして」
「えっ!オスカー、結婚するの!?」
「どういうこと!詳しく!詳しく!」
フランチェスカが慌てて訂正しようとするが、一足遅かった。一同は俺たちの結婚話で盛り上がっている。あと、殿下は興奮しすぎ。ちょっと落ち着いて。
「ですから、それは」
うん。訂正しなきゃね。イザークを追い払うための方便だって。
しかし、彼女はそれ以上口にしない。いや、言おうとしているのに言葉が出ない様子だった。俺を見る目が揺らいでいる。
ああ、やれやれ。やっぱりこうなるか。
腹を括った俺はフランチェスカの前に立ち、彼女の手を取った。
「フランチェスカ。俺は子爵家とはいえこの通り、しがない次男坊だ。それに俺はユリウス殿下の従者だから、今後三年間は戻ってこられない。それでも良ければ、待っていてくれませんか」
フランチェスカの目が見開かれる。その後、彼女はしっかりと手を握り返して応えてくれた。
「はい。つつしんでお受け致します」
そのはにかんだ笑みが、俺にとって極上の褒美だ。
男爵家に婿入りしたら殿下のお守りはどうするのとか、そもそも両親が許してくれるのかとか、片づけなきゃならないことは山ほどあるけど。彼女の笑顔を見ていられるなら、そんなことはどうでも良い。
男爵夫妻は涙を流して喜んでいる。なぜか殿下とルイーゼも手を取り合ってきゃいきゃいと喜んでいた。そこで嬉しそうにしてくれるあたり、人柄は良いんだよねえ殿下も。
その後、俺たちは後片づけに奔走した。ハイムゼート家の借金については、ユリウス殿下とルイーゼの仲裁で、イザークの暴行に対する慰謝料と相殺ということで話がついた。
フランチェスカは、俺が帰ってくるまで王都へ留学することになった。俺の両親の勧めで、留学中はバルテル家へ滞在するそうだ。俺の縁談を聞いた両親はたいそう喜んで、未来の嫁が来るのを楽しみに待っているらしい。母と兄嫁は、フランチェスカを連れてどこそこへ服を買いに行こうとか観劇に行こうとか、色々計画していると兄からの手紙に書いてあった。まあ、彼女なら母上や義姉上とも仲良くやるだろう。
「それにしてもいいんですかい、オスカーの旦那。三年も彼女を放っといて」
「そうそう。しかも王都の学校に通うんでしょ?美人のお嬢さんだったしねえ。他の貴族令息に狙われるんじゃないですかね」
エアハルトとローマンが俺をからかう。話の肴にされるのは慣れてないんだ。勘弁して欲しい。
「まあ、そうなったらそうなったで仕方ないっすよ」
「えー。随分クールじゃないですか」
「そんなこと言って、オスカーはさっきも彼女に手紙を書いてたでしょ」
「お嬢~。バラさないで下さいよ」
笑う皆に対して、ユリウス殿下だけは真面目に答えてくれた。
「オスカーなら、きっと大丈夫だよ」
そうだな。彼女と俺なら、多分大丈夫。これから色々あるかもしれないけど。ま、なんとかなるでしょ。
「貴方ったら。殿下にご迷惑ですよ」
興奮して話すハイムゼート男爵を、夫人がいさめる。ユリウス殿下は苦笑いしつつも、上品に頷きながら二人の話を聞いていた。
「それにしても、オスカー様もお人が悪い。王宮勤めとは伺っていましたが、まさか王子殿下の付き人とは。そのように優秀な方と縁戚になれて、我が家の将来も安泰だ」
「縁戚?」
「お父様、それは……」
「オスカー様が、うちの娘を気に入って下さったようでして」
「えっ!オスカー、結婚するの!?」
「どういうこと!詳しく!詳しく!」
フランチェスカが慌てて訂正しようとするが、一足遅かった。一同は俺たちの結婚話で盛り上がっている。あと、殿下は興奮しすぎ。ちょっと落ち着いて。
「ですから、それは」
うん。訂正しなきゃね。イザークを追い払うための方便だって。
しかし、彼女はそれ以上口にしない。いや、言おうとしているのに言葉が出ない様子だった。俺を見る目が揺らいでいる。
ああ、やれやれ。やっぱりこうなるか。
腹を括った俺はフランチェスカの前に立ち、彼女の手を取った。
「フランチェスカ。俺は子爵家とはいえこの通り、しがない次男坊だ。それに俺はユリウス殿下の従者だから、今後三年間は戻ってこられない。それでも良ければ、待っていてくれませんか」
フランチェスカの目が見開かれる。その後、彼女はしっかりと手を握り返して応えてくれた。
「はい。つつしんでお受け致します」
そのはにかんだ笑みが、俺にとって極上の褒美だ。
男爵家に婿入りしたら殿下のお守りはどうするのとか、そもそも両親が許してくれるのかとか、片づけなきゃならないことは山ほどあるけど。彼女の笑顔を見ていられるなら、そんなことはどうでも良い。
男爵夫妻は涙を流して喜んでいる。なぜか殿下とルイーゼも手を取り合ってきゃいきゃいと喜んでいた。そこで嬉しそうにしてくれるあたり、人柄は良いんだよねえ殿下も。
その後、俺たちは後片づけに奔走した。ハイムゼート家の借金については、ユリウス殿下とルイーゼの仲裁で、イザークの暴行に対する慰謝料と相殺ということで話がついた。
フランチェスカは、俺が帰ってくるまで王都へ留学することになった。俺の両親の勧めで、留学中はバルテル家へ滞在するそうだ。俺の縁談を聞いた両親はたいそう喜んで、未来の嫁が来るのを楽しみに待っているらしい。母と兄嫁は、フランチェスカを連れてどこそこへ服を買いに行こうとか観劇に行こうとか、色々計画していると兄からの手紙に書いてあった。まあ、彼女なら母上や義姉上とも仲良くやるだろう。
「それにしてもいいんですかい、オスカーの旦那。三年も彼女を放っといて」
「そうそう。しかも王都の学校に通うんでしょ?美人のお嬢さんだったしねえ。他の貴族令息に狙われるんじゃないですかね」
エアハルトとローマンが俺をからかう。話の肴にされるのは慣れてないんだ。勘弁して欲しい。
「まあ、そうなったらそうなったで仕方ないっすよ」
「えー。随分クールじゃないですか」
「そんなこと言って、オスカーはさっきも彼女に手紙を書いてたでしょ」
「お嬢~。バラさないで下さいよ」
笑う皆に対して、ユリウス殿下だけは真面目に答えてくれた。
「オスカーなら、きっと大丈夫だよ」
そうだな。彼女と俺なら、多分大丈夫。これから色々あるかもしれないけど。ま、なんとかなるでしょ。
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