新しいお仕事は期間限定妻になりました[本編完結]

キャロル

文字の大きさ
14 / 31

14 心の蓋

しおりを挟む
皇国で過ごす日々は穏やかに過ぎているようでいつの間にかお兄様が王国に帰国する日となった。



お兄様と伯父様陛下国王レンフルー国と連絡を取りながら、と着々と手続きを進めていた。
ほぼ準備が終わり後は婚姻無効の書類にクラウス様がサインをしてレンフルー国の神殿に提出と同時に私は正式に皇族となる。

私はサインした。これでクラウス様とは赤の他人となった。

必ず帰ると言った約束を守る事はできなくなった。
好きだと、自分クラウス様と歩み寄って欲しい、“愛してる“と言われたのに、私は結局逃げた。
多くの人の祝福と優しさに嘘をつき欺いていた愚かな私は、クラウス様の愛に向き合う勇気が持てなくて、逃げた。
これでいい。クラウス様も一時的な気の迷いに違いない。寧ろ新たな出会いがたくさん出来て今度は愛のある結婚ができるはず。
だから、これでいい。偽物の妻は要らない。
きっと私のことなんか、すぐ忘れるはず。


ただ、最後に手紙を書くという約束だけは守りたいと思い、お兄様にクラウス様に手紙を必ず渡して欲しいとお願いした。

お互い打算的な結びつきだったが、私の希望の殆どを聞き入れてくれ、たくさん勉強させてくれ、自由に楽しく屋敷で過ごさせてくれて、伯爵家を守ってくれて、ありがとうと。
与えて貰うばかりで、何も返せなくてごめんなさいと。
世間知らずの私が社交もこなせるようになったのもクラウス様のお陰だから、ありがとうと。
必ず帰ると言った約束を守れなくてごめんなさいと。

私がクラウス様に送る最初で最後の手紙をお兄様に渡して部屋に戻った。




「レティア様、大丈夫ですか?」

「……アンナ、あなたは帰らなくて良かったの?私はもう公爵家の者ではないのに」
アンナは私にこのまま仕えてくれる為にここに残ってくれた。正直有難かった。私の立場が変わっても変わらぬ態度が不安を拭ってくれる。今までずっと側で支えてくれた姉のような存在だったから、、。

「ええ、勿論、私の主人はレティア様ですよ。先日、正式に公爵家は退職してレティア様の専属筆頭侍女ですよ!大出世なんですから、それに、こんな素晴らしい主人を手放すはずないじゃないですか~」
明るく笑いながら答えてくれたアンナに嬉しくて抱きついた。優しく背中を撫でてくれたそのてが暖かくて、しばらく抱きついていた。


なぜ、こんなに不安な気持ちになったのか、この頃の私は気づかずにいた。気づかないフリをしていたのかもしれない。





お兄様が王国に帰り私は皇国で何かを埋めるように毎日を忙しく過ごしていた。

伯母様皇妃の開くお茶会に参加したり、ルベル様とジン様に交互に皇内を案内してもらったり特にジン様は他国の情勢や歴史、語学にも精通していて、気さくな上に教え方もわかり易く話を聞いてるだけでとても勉強になり毎日のように書庫に通い一緒に勉強させてもらっていた。いつの間にか皇宮内で私の存在が周知されどこに行っても『皇女様』『姫様』と呼ばるようになっていた。



__そして__

お兄様がレンフルー国に帰り10日が経ち手続き離婚が完了したと知らせが来た。

この日、皇国での移籍の手続きも完了し、私はレティア=グランハムから、レティア=ラグランとなり、名実ともにラグラン皇国の皇女となった。

2代に渡っての皇女の誕生は初めての事で吉事として喜ばれ、噂を聞いた主要各国からたくさんの祝いが届き、各国王族が続々と謁見を申し出てきたが、皇国内では正式に発表されたが、お披露目は8ヶ月後の20歳の誕生の祝いにする事になり後日招待状を送ると丁重にお断りし、お帰りいただいた。


代々皇族は恋愛結婚だということは周知のはずが、毎日のように婚約の申し込みが殺到した。
当然、中身も見ず伯父皇帝が処分しているのは言うまでもない。


慌ただしい日々を過ごしながらも、徐々に皇国での生活にも慣れてきて誕生日を2ヶ月後に控えたある日伯母様皇妃に2人だけでお茶しましょうと呼ばれ、指定された薔薇が美しい東屋に向かった。

そこには既に伯母様が待っていた。

「お待たせしました。」

「レティちゃん、急に呼んでごめんなさいね、たまには女同士2人で内緒話でもどうかと思ってね。」
パチンとウインクした、相変わらずお茶目な方です。

「内緒話?ですか?」

「内緒というより恋バナ?がしたいと思ってね!どう?気になる男性は。いるかしら?ジンとは随分仲良くなったみたいだけど、ルベルは異性というより兄のような存在みたいだけど、」

「え、どうと聞かれましてもよくわからないとしか、…確かにルベル様は従兄弟なので私にとって兄のような存在で、異性とした意識したことないですし、ルベル様の方もそうかと、ジン様は……楽しくて素敵な方ですが恋愛的な意味で言われても……それこそお互いそういう対象に見てないと思うのですが……」

「レティちゃんて、聡いんだけど恋愛感情に関してはかなり鈍い?あの2人は最初から、好意丸出しでアピールしてたと思うけど?」

「好意は感じてましたけど、ルベル様は身内だからかと、ジン様は皇国でのホスト役ですって初対面で挨拶されましたから、私のお世話役だからでは?…特に恋愛的な意味で好きと言われてませんし、そいう対象に見るのは失礼かと…」

「………、あの2人に同情するわね……ここまで鈍いと、それともあえて見ないようにしてる?レティちゃん、あなたもしかしてあの公爵クラウスが好きなの?」
クラウス様、の名前を聞いてドキリとした。

「ク、クラウス様ですか?い、いえ…私は…」
思わず言葉に詰まった…

「ふーん、じゃあ質問を変えるわね、ちょっと目を閉じて想像して、ルベルに抱きしめられたら?どんな気分?」
ルベル様は、以前に抱きしめてくれた。

「ルベル様は…暖かいホッとします。」

「そう、じゃあ、ジンは?」
ジン様は、

「……特には…あえていうなら…安心かな?」

「では、公爵クラウスなら?」
クラウス様…なんだろうこの感覚言葉にするのが難しい。

「…む、胸がギュッとなる?」

「ふふふふ、そう、なのね、じゃあ、ルベルとジンが女の人とキスしている所をみてしまったら?どんな感じか想像して?」
キス、キス、みてしまったら?

「恥ずかしいかも」

公爵クラウスなら?レティちゃん以外の女の人を抱きしめキスしていたら?」
他の人?別に今までたくさんの人としていたらしいし、今していたって…同じ事、結婚してからは一度もないと言っていたけど今は独身だものきっとたくさんキスを……その先も……、

「レティちゃん、頬を触ってごらんなさい、それが答えよ…自分の気持ちに蓋をしてはいけないわ、」
言われて頬を、触ると濡れていた、…なんで?…私…泣いてるの?

公爵クラウスが他の人に触れるのが嫌なんでしょ、それが何を意味するのかもうわかってるでしょ」
意味?

ずっとモヤモヤしていた、私の名前が変わった時からずっと、そうか、私は、…今更気づいても遅いのに、逃げたのは私。

「伯母様、なぜですか?私は気付きたくなかった。今更、気づいても遅いんです。それ以前に、私には、……お金のために愛のない結婚を平気でするような浅ましい女は愛される資格なんてないんです。…私は誰とも恋も結婚する気はありません。できません。そんな資格はないんです。」

感情的になりその場から、走り去ってしまった。

「レティちゃん、待ちなさい、待って」
伯母様の静止する声を聞こえないフリをして部屋まで戻り寝室に篭り泣いていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...