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1章
心の所在は体か魂か。
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「いらっしゃい、ユフィル。今日は美味しい焼き菓子をもらったのでそれを茶請けにしましょう」
「はぁ、ありがとうございます……?」
カランド先生の実験室、もとい保健室にて、さく、と軽やかな音をたてるクッキーが、俺の口の中に想像の通りの甘さをもたらす。
目の前のこの男に、お話をしましょう、なんてラスボス発言を受けてからの、この1ヶ月。俺はひたすらお菓子を与えられていた。なんでや。
ラスボス、というのは別に比喩ではない。実際にこいつは、ゲームでも主人公たちの前に立ちはだかる存在……いわゆる悪役、つまり俺のお仲間(?)なのである。悪役としての規模が違い過ぎるけどね。
回復魔法の教師と言うのは隠れ蓑で、その正体は近隣国を脅かす魔の国の王。最終局面では正体を見破った主人公たちが、和平を結んだり戦争になったりする相手だ。
まあ俺はなぜかクッキーを喰わされているわけなのだが。美味いけど、俺が豹変したことを問い詰められるわけでもなく、魔術の修練は上手くいっているかとか、友達は出来ましたかとか、理想的な先生ムーブをかましてくるだけなのがいっそ不気味だ。あと、
「ユフィル、お前はこの木の実が入ったクッキーは苦手じゃなかったのか?」
「サイキン オイシサニ メザメテー」
「あ、わかります。成長すると、苦みのあるものがおいしく感じることありますよね」
俺の両隣に居るこの攻略対象レオンとゲーム主人公アレクをなんとかしてくれ。俺の趣味嗜好も変わったことが逐一バレるからもう取り繕えない。助けてくれ。あとアレクはいちいちイイ奴だな。ありがとう。水かけてほんとごめん。
俺の身長が170cmに届かない微妙なラインというのもあるが、それを差し引いても両隣の二人の圧がすごい。ナチュラルに180cmを超える長身だらけなのオカシイだろ。異世界だからそんなもん? アレクですら175cmという公式設定だ。
先月は関係修復に忙しくしていた俺だけど、今月は毎回授業が終わるたびにこの二人に保健室に連行されるので逃げ場がない。最初俺を心配していたクラスメイトも、何故か数日後には苦笑して見送るようになっていた。突然の裏切り。
謎の茶会もどきを終えればようやく解放……されることもなく、アレクとレオンが行う魔術訓練に共に興じている。
アレクの魔力が、彼の声を通じて光となって現れるのは、何度見ても美しい光景だ。短く整った黒髪に茶色の瞳という、日本人からしたらなじみの深い見目であるのも相まって、非常に親しみと安堵の情が湧く。
ついつい目を奪われていれば、俺たちを見ていたレオンが静かに口を開いた。
「ユフィル、お前、いつから水のオーラを安定して使えるようになったんだ?」
「……先月皆とたくさん練習したので、その成果ですかね」
「ふ、そうか」
「なんで笑うんですか」
「言って欲しいのか?」
「……」
「お前は、前と違い過ぎる」
遠くでアレクを呼ぶ声がする。こちらに一言断って駆けていく彼の背を見ながら、俺の隣に立つレオンの言葉に耳を傾ける。
「昔のお前と違う。俺に対する視線も、声色も、一瞬で全てが変わってしまった」
ちらと視線を向けてみれば、じっとこちらを見おろす、深い青色の瞳と視線が絡む。夕日に染まった金髪が揺れて、どこか神々しさすら感じるのだから、恋心のフィルターというのはやっかいだ。
「お前は、ユフィルか?」
「……そうでないとすれば、誰だと言うんですか」
この焦げ付くような感情が、俺のものではないとすれば――。
俺という存在は、一体なんであるのだろうか。
静かな視線に耐え切れず、目を逸らして背を向けた時だった。
「噓の付けない馬鹿正直で鈍感な阿呆」
「……は」
「下心のある差し入れを平然と口にしようとする馬鹿」
「え」
「つけられているのに気付きもせず一日中ストーカーされていた間抜け」
「何それこわい……え冗談ですよね?」
「ちなみに犯人はお前が懐柔した後輩だ。誰か知りたいか?」
「あ、結構です」
マジで誰だ。というか何でそんなことになったんだ。この容姿か???見た目なのか???
本気で戦慄していたら、ふと顔に影が差す。見上げればそこには、片方の眉を上げてこちらを見るレオンがいて、それは彼が人を揶揄う時によくする顔の一つで。
「……嘘を吐くのは良くないと思いますが」
「そうだといいな」
細められた目と、少し軽やかな声は、夕日のせいか少し温度のあるそれに感じた。
「はぁ、ありがとうございます……?」
カランド先生の実験室、もとい保健室にて、さく、と軽やかな音をたてるクッキーが、俺の口の中に想像の通りの甘さをもたらす。
目の前のこの男に、お話をしましょう、なんてラスボス発言を受けてからの、この1ヶ月。俺はひたすらお菓子を与えられていた。なんでや。
ラスボス、というのは別に比喩ではない。実際にこいつは、ゲームでも主人公たちの前に立ちはだかる存在……いわゆる悪役、つまり俺のお仲間(?)なのである。悪役としての規模が違い過ぎるけどね。
回復魔法の教師と言うのは隠れ蓑で、その正体は近隣国を脅かす魔の国の王。最終局面では正体を見破った主人公たちが、和平を結んだり戦争になったりする相手だ。
まあ俺はなぜかクッキーを喰わされているわけなのだが。美味いけど、俺が豹変したことを問い詰められるわけでもなく、魔術の修練は上手くいっているかとか、友達は出来ましたかとか、理想的な先生ムーブをかましてくるだけなのがいっそ不気味だ。あと、
「ユフィル、お前はこの木の実が入ったクッキーは苦手じゃなかったのか?」
「サイキン オイシサニ メザメテー」
「あ、わかります。成長すると、苦みのあるものがおいしく感じることありますよね」
俺の両隣に居るこの攻略対象レオンとゲーム主人公アレクをなんとかしてくれ。俺の趣味嗜好も変わったことが逐一バレるからもう取り繕えない。助けてくれ。あとアレクはいちいちイイ奴だな。ありがとう。水かけてほんとごめん。
俺の身長が170cmに届かない微妙なラインというのもあるが、それを差し引いても両隣の二人の圧がすごい。ナチュラルに180cmを超える長身だらけなのオカシイだろ。異世界だからそんなもん? アレクですら175cmという公式設定だ。
先月は関係修復に忙しくしていた俺だけど、今月は毎回授業が終わるたびにこの二人に保健室に連行されるので逃げ場がない。最初俺を心配していたクラスメイトも、何故か数日後には苦笑して見送るようになっていた。突然の裏切り。
謎の茶会もどきを終えればようやく解放……されることもなく、アレクとレオンが行う魔術訓練に共に興じている。
アレクの魔力が、彼の声を通じて光となって現れるのは、何度見ても美しい光景だ。短く整った黒髪に茶色の瞳という、日本人からしたらなじみの深い見目であるのも相まって、非常に親しみと安堵の情が湧く。
ついつい目を奪われていれば、俺たちを見ていたレオンが静かに口を開いた。
「ユフィル、お前、いつから水のオーラを安定して使えるようになったんだ?」
「……先月皆とたくさん練習したので、その成果ですかね」
「ふ、そうか」
「なんで笑うんですか」
「言って欲しいのか?」
「……」
「お前は、前と違い過ぎる」
遠くでアレクを呼ぶ声がする。こちらに一言断って駆けていく彼の背を見ながら、俺の隣に立つレオンの言葉に耳を傾ける。
「昔のお前と違う。俺に対する視線も、声色も、一瞬で全てが変わってしまった」
ちらと視線を向けてみれば、じっとこちらを見おろす、深い青色の瞳と視線が絡む。夕日に染まった金髪が揺れて、どこか神々しさすら感じるのだから、恋心のフィルターというのはやっかいだ。
「お前は、ユフィルか?」
「……そうでないとすれば、誰だと言うんですか」
この焦げ付くような感情が、俺のものではないとすれば――。
俺という存在は、一体なんであるのだろうか。
静かな視線に耐え切れず、目を逸らして背を向けた時だった。
「噓の付けない馬鹿正直で鈍感な阿呆」
「……は」
「下心のある差し入れを平然と口にしようとする馬鹿」
「え」
「つけられているのに気付きもせず一日中ストーカーされていた間抜け」
「何それこわい……え冗談ですよね?」
「ちなみに犯人はお前が懐柔した後輩だ。誰か知りたいか?」
「あ、結構です」
マジで誰だ。というか何でそんなことになったんだ。この容姿か???見た目なのか???
本気で戦慄していたら、ふと顔に影が差す。見上げればそこには、片方の眉を上げてこちらを見るレオンがいて、それは彼が人を揶揄う時によくする顔の一つで。
「……嘘を吐くのは良くないと思いますが」
「そうだといいな」
細められた目と、少し軽やかな声は、夕日のせいか少し温度のあるそれに感じた。
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