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2章
契約書は目を皿にして読め。
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「書け」
目の前には引くほど小さい文字で書かれた書面。そのくせサイン欄だけバカでかくて目立つあたりに圧を感じる。いや、圧は目の前のこの男から発されているせいでもあるのだが。
「ええと……。前向きに検討させていただきま」
「今、ここに、名前を、書け」
ユフィル。名を呼ぶその声が、やけに静かなのが逆に怖い。――ちなみに謝罪とは、既に心を決めて目が据わっている相手には何の効果も無いのだと、ここに記しておく。
カランド先生に助けられた後。気が付いたら保健室のベッドの上で呆然と天井の模様を見上げていた。目覚めた俺に気付いた先生から知らされた内容によれば、あの後レオンたちと合流して学園へ戻ってきたらしい。
貴族組は基本寮生活なのだが、用心のために先生が残って様子を見ていたとのこと。礼を述べながら呆然としていたら、物凄い勢いで見覚えのある金髪が目の前にカットインし、気付いたらサイドテーブルに書類が叩きつけられ、冒頭の一言が降ってきたというわけだ。
「ふむ、確かに、正式な宣誓にはあと半年ありますが、契約書を交わせば双方の合意アリとみなされて、今の段階でも仮契約は出来ますね」
古い慣習なのに、よく見つけてきましたね、ギルクス君。契約魔法の先生に頼んだのですか? などとほほ笑む先生に、いやな予感がして契約書を目を皿のようにして読み込む。その最後には、こう記されていた。
――騎士の誓いを、ここに受け入れるものとする。
いかにもファンタジー、なんとココロオドル文。そして、俺は思う。
……申し込むべき相手は俺じゃねえ!!!!!!
まだ病み上がりですから、というやんわりとしたカランド先生によって窮地を脱した俺は、燃え上がるSNSを見た時以上のドキドキを味わいながら、真っ暗な部屋でひたすらに天井を見つめていた。
翌朝。とりあえずレオンに会わないように、魔術棟にさっさと登校しておこうと考えて、扉を開けて数センチしてからそのまま閉める。見えてはいけないものを見た気がしたので、仮病で病欠連絡を入れようとくるりと体を反転させ、
「開けなければお前の部屋の風通しが良くなるぞ」
という扉越しに降りかかる声を受けて、そのまま服の裾を翻して更に180度まわって一回転して扉を開ける。扉の隙間が少し開いた段階で隙間から腕が延びてきて、掴まれた俺の体がぐんっと一気に加速して、バランスを崩したままにその先の――レオンの胸に飛び込む形になった。
「ふぐ」
思いっきり胸板に顔面を強打して呻いていると、その隙に腰に腕がまわされて、がっちりを抑え込まれる。
「忠告はしただろう。選ばされるのが嫌なら大人しくしていろと」
鼻の痛みに涙目になっていると、顎を掴まれて無理やり上を向かせられる。強制的に絡んだ視線は、今まで見たものとは違っていた気がしたけど、憎悪とも怒りともつかないそれが何であるのかは伺いしれない。
「誓いを終えれば、仮とは言え魔法を刻める。ふらふらと姿を消すような真似は二度と出来ないと思え」
「……騙し討ちのように姿を消したことは、申し訳なく思っています。でも、宣誓はお受けできません」
「なに?」
脳みそをフル回転させた俺は、回転させすぎて一周回って口をひらく。
「お、俺には既に心に決めた方がおりますので!!!!」
「…………は??????」
軽率な発言は、燃え上がる火の中にガソリンを投げるようなものだ。
そう教えてくれた直後に、格好良く手を挙げながら、燃え上がる案件に突っ込んでいったまま帰らぬ人となった先輩の背中が、今は酷く近くに感じていた――。
誰か助けてくれ。
目の前には引くほど小さい文字で書かれた書面。そのくせサイン欄だけバカでかくて目立つあたりに圧を感じる。いや、圧は目の前のこの男から発されているせいでもあるのだが。
「ええと……。前向きに検討させていただきま」
「今、ここに、名前を、書け」
ユフィル。名を呼ぶその声が、やけに静かなのが逆に怖い。――ちなみに謝罪とは、既に心を決めて目が据わっている相手には何の効果も無いのだと、ここに記しておく。
カランド先生に助けられた後。気が付いたら保健室のベッドの上で呆然と天井の模様を見上げていた。目覚めた俺に気付いた先生から知らされた内容によれば、あの後レオンたちと合流して学園へ戻ってきたらしい。
貴族組は基本寮生活なのだが、用心のために先生が残って様子を見ていたとのこと。礼を述べながら呆然としていたら、物凄い勢いで見覚えのある金髪が目の前にカットインし、気付いたらサイドテーブルに書類が叩きつけられ、冒頭の一言が降ってきたというわけだ。
「ふむ、確かに、正式な宣誓にはあと半年ありますが、契約書を交わせば双方の合意アリとみなされて、今の段階でも仮契約は出来ますね」
古い慣習なのに、よく見つけてきましたね、ギルクス君。契約魔法の先生に頼んだのですか? などとほほ笑む先生に、いやな予感がして契約書を目を皿のようにして読み込む。その最後には、こう記されていた。
――騎士の誓いを、ここに受け入れるものとする。
いかにもファンタジー、なんとココロオドル文。そして、俺は思う。
……申し込むべき相手は俺じゃねえ!!!!!!
まだ病み上がりですから、というやんわりとしたカランド先生によって窮地を脱した俺は、燃え上がるSNSを見た時以上のドキドキを味わいながら、真っ暗な部屋でひたすらに天井を見つめていた。
翌朝。とりあえずレオンに会わないように、魔術棟にさっさと登校しておこうと考えて、扉を開けて数センチしてからそのまま閉める。見えてはいけないものを見た気がしたので、仮病で病欠連絡を入れようとくるりと体を反転させ、
「開けなければお前の部屋の風通しが良くなるぞ」
という扉越しに降りかかる声を受けて、そのまま服の裾を翻して更に180度まわって一回転して扉を開ける。扉の隙間が少し開いた段階で隙間から腕が延びてきて、掴まれた俺の体がぐんっと一気に加速して、バランスを崩したままにその先の――レオンの胸に飛び込む形になった。
「ふぐ」
思いっきり胸板に顔面を強打して呻いていると、その隙に腰に腕がまわされて、がっちりを抑え込まれる。
「忠告はしただろう。選ばされるのが嫌なら大人しくしていろと」
鼻の痛みに涙目になっていると、顎を掴まれて無理やり上を向かせられる。強制的に絡んだ視線は、今まで見たものとは違っていた気がしたけど、憎悪とも怒りともつかないそれが何であるのかは伺いしれない。
「誓いを終えれば、仮とは言え魔法を刻める。ふらふらと姿を消すような真似は二度と出来ないと思え」
「……騙し討ちのように姿を消したことは、申し訳なく思っています。でも、宣誓はお受けできません」
「なに?」
脳みそをフル回転させた俺は、回転させすぎて一周回って口をひらく。
「お、俺には既に心に決めた方がおりますので!!!!」
「…………は??????」
軽率な発言は、燃え上がる火の中にガソリンを投げるようなものだ。
そう教えてくれた直後に、格好良く手を挙げながら、燃え上がる案件に突っ込んでいったまま帰らぬ人となった先輩の背中が、今は酷く近くに感じていた――。
誰か助けてくれ。
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