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2章
求人広告:運命の王子様【未経験歓迎】年齢不問/キャリアアップを目指せる!/賞与あり/雇い主の顔がいい
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詰んだ。
転生したと自覚してはや数ヶ月、正確には2カ月ちょい。二度目の詰みである。しかも今回は完全に自己責任。
わたくし運命と決めた方がおりますのぉ! などというご令嬢のような発言をかましたのち、固まったレオンの腕から脱出を図ったはいいものの、中庭のベンチで途方に暮れている次第。
ちなみに当然そんな奴はいない。運命の王子様は永久欠番である。今すぐ現れてくれないですかね。ユフィル・シア、見た目には自信があります。
深いため息とともに、ユフィルの外見でやっちゃいけないような、やさぐれおっさんポーズで俯いていた時だった。
「お前、その見た目でそのポーズはやめとけよ。庶民の夢が壊れるだろ」
「……へ?」
顔をあげた先にあったのは、見慣れぬ赤髪と、金、の……、飾りの、水晶が。……? あれ?
「……マコト、ちょっとじっとしてろ」
ぐらりと視界が揺れて、咄嗟に頭を抑えた俺の耳に、指先が触れる。カチリ、という音と、僅かに冷たく固い感触。そこから何かが広がって、ボーっとしていた頭がクリアになっていく。
至近距離でこちらを見る赤い眼を見て何度か瞬きをすれば、可笑しそうにその瞳が弧を描く。
「……ミザイア?」
「おう。お忍びは楽しかったか?」
シア様、と。カフスのない耳を晒して、首を傾けて意地悪く笑う。
――その後俺が披露した動きは、今までで一番素早く、的確で、心のこもったものだったと自負している。
「貴族が軽率に頭を下げるな馬鹿」
「申し訳ございません……ですが感謝と謝罪の念が天井突破してしまって……」
「すごい落ち込むくせに食い下がってくるな……。怪我は?」
「無事治りました……」
「そりゃ何より」
何この男、聖人君子? 中身35歳としては謎の敗北感を感じるが、人間が出来過ぎていてむしろ尊敬の念を抱くに値する。
年齢なんて飾りである。どんな経験と思考を繰り返したかで、人はこうも違うのだ。全面降伏待ったなし。というか。
「あの、ミザイア。ところで、どうして学園に入れたのですか?」
そう。この学園は貴族が集まる場所であるがゆえに、魔法による結界が施されている。生徒として登録されているか、教師或いは関係者以外は、魔力を持っているとしても入ることはおろか、場所すらわからないはずだ。
座っていたベンチの近くにある木々が、風でざわつくのが聞こえる。通り抜けた風が彼の前髪を揺らして、その合間から見える目がこちらを射抜く。
「はは、何でだと思う?」
快活で、裏の無さそうな好青年そのものだった笑みのままに、ミザイアが俺の顔を覗き込んでくる。
伸ばされた指先が、俺にはめられたカフスに触れる直前。
「シア様!」
俺の体を、淡い光が覆う。同時にミザイアの指先がバチリと音を立てて弾かれて、おっと、なんて軽い言葉と共に後ろに飛びのく。
――光の障壁。守りの魔術として名高い光魔法のひとつが、俺の身を包んでいて。
駆け寄ってきたその人が、俺を背にして魔力を練りあげる。
「狙いはシア様? どこから入った」
「へえ、アンタが光魔法の使い手サマか。珍しいモノ見たな」
「答える気は無いと?」
「そもそもこの学園は、入れる人間を制限してんだろ。ここに居る段階で身元は保証されてると思わないか?」
「言えない時点で信用に値しない」
「頭がかてえな」
やれやれ、とでも言いたげな仕草ののちに、ミザイアが一気に肉薄する。アレクが手にした光の魔力がとぎれ、驚愕に目を見開いた直後そのまま吹っ飛ばされて、植え込みの中に突っ込んでいく。
「アレク!」
慌てて駆け寄って膝をつき、顔を覗き込む。普段の彼からは想像もつかない険しい顔をしていて、なんだか知らない人のようだった。
「ケンカ売る時は相手の力量を見極めな。正義感だけじゃ戦えねえぞ」
「ミザイア、やりすぎです」
「そうでもしなきゃ止まらなかっただろ、それ」
苦言を呈する俺と、肩をすくめるばかりで追撃もしないミザイアを見てか、険しい顔をしていたアレクが呆然としてこちらを見て、口を開く。
「シア、さま。知り合いなんですか?」
「えっと、まあ。説明するから、先に怪我が無いか見せて」
――ところで。
知らない人からお菓子はもらってないけど、着いていったという事実をどう説明したものかなと、俺は内心冷や汗をかいていたのだった。
転生したと自覚してはや数ヶ月、正確には2カ月ちょい。二度目の詰みである。しかも今回は完全に自己責任。
わたくし運命と決めた方がおりますのぉ! などというご令嬢のような発言をかましたのち、固まったレオンの腕から脱出を図ったはいいものの、中庭のベンチで途方に暮れている次第。
ちなみに当然そんな奴はいない。運命の王子様は永久欠番である。今すぐ現れてくれないですかね。ユフィル・シア、見た目には自信があります。
深いため息とともに、ユフィルの外見でやっちゃいけないような、やさぐれおっさんポーズで俯いていた時だった。
「お前、その見た目でそのポーズはやめとけよ。庶民の夢が壊れるだろ」
「……へ?」
顔をあげた先にあったのは、見慣れぬ赤髪と、金、の……、飾りの、水晶が。……? あれ?
「……マコト、ちょっとじっとしてろ」
ぐらりと視界が揺れて、咄嗟に頭を抑えた俺の耳に、指先が触れる。カチリ、という音と、僅かに冷たく固い感触。そこから何かが広がって、ボーっとしていた頭がクリアになっていく。
至近距離でこちらを見る赤い眼を見て何度か瞬きをすれば、可笑しそうにその瞳が弧を描く。
「……ミザイア?」
「おう。お忍びは楽しかったか?」
シア様、と。カフスのない耳を晒して、首を傾けて意地悪く笑う。
――その後俺が披露した動きは、今までで一番素早く、的確で、心のこもったものだったと自負している。
「貴族が軽率に頭を下げるな馬鹿」
「申し訳ございません……ですが感謝と謝罪の念が天井突破してしまって……」
「すごい落ち込むくせに食い下がってくるな……。怪我は?」
「無事治りました……」
「そりゃ何より」
何この男、聖人君子? 中身35歳としては謎の敗北感を感じるが、人間が出来過ぎていてむしろ尊敬の念を抱くに値する。
年齢なんて飾りである。どんな経験と思考を繰り返したかで、人はこうも違うのだ。全面降伏待ったなし。というか。
「あの、ミザイア。ところで、どうして学園に入れたのですか?」
そう。この学園は貴族が集まる場所であるがゆえに、魔法による結界が施されている。生徒として登録されているか、教師或いは関係者以外は、魔力を持っているとしても入ることはおろか、場所すらわからないはずだ。
座っていたベンチの近くにある木々が、風でざわつくのが聞こえる。通り抜けた風が彼の前髪を揺らして、その合間から見える目がこちらを射抜く。
「はは、何でだと思う?」
快活で、裏の無さそうな好青年そのものだった笑みのままに、ミザイアが俺の顔を覗き込んでくる。
伸ばされた指先が、俺にはめられたカフスに触れる直前。
「シア様!」
俺の体を、淡い光が覆う。同時にミザイアの指先がバチリと音を立てて弾かれて、おっと、なんて軽い言葉と共に後ろに飛びのく。
――光の障壁。守りの魔術として名高い光魔法のひとつが、俺の身を包んでいて。
駆け寄ってきたその人が、俺を背にして魔力を練りあげる。
「狙いはシア様? どこから入った」
「へえ、アンタが光魔法の使い手サマか。珍しいモノ見たな」
「答える気は無いと?」
「そもそもこの学園は、入れる人間を制限してんだろ。ここに居る段階で身元は保証されてると思わないか?」
「言えない時点で信用に値しない」
「頭がかてえな」
やれやれ、とでも言いたげな仕草ののちに、ミザイアが一気に肉薄する。アレクが手にした光の魔力がとぎれ、驚愕に目を見開いた直後そのまま吹っ飛ばされて、植え込みの中に突っ込んでいく。
「アレク!」
慌てて駆け寄って膝をつき、顔を覗き込む。普段の彼からは想像もつかない険しい顔をしていて、なんだか知らない人のようだった。
「ケンカ売る時は相手の力量を見極めな。正義感だけじゃ戦えねえぞ」
「ミザイア、やりすぎです」
「そうでもしなきゃ止まらなかっただろ、それ」
苦言を呈する俺と、肩をすくめるばかりで追撃もしないミザイアを見てか、険しい顔をしていたアレクが呆然としてこちらを見て、口を開く。
「シア、さま。知り合いなんですか?」
「えっと、まあ。説明するから、先に怪我が無いか見せて」
――ところで。
知らない人からお菓子はもらってないけど、着いていったという事実をどう説明したものかなと、俺は内心冷や汗をかいていたのだった。
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