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第6章 初めてのためらい

4 愛海の呟き

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 次の日、雨上がりの清々すがすがしい青空だった。愛海の気持ちは雨が降ったままで、足取りも重く、授業にも気乗りがしなかった。学校に着くと、茜に声を掛けられ、愛海は放課後に話を聞いてもらう事にした。
 放課後、部活動に行き、1年の仲尾梨沙の姿を探すが、今日は欠席しているらしい。部活が終わって、茜に昨日の出来事を話した。
 真斗に誘われて、藤森の家であるホテルの部屋に行き、そこで仲尾梨沙と会った事、誕生日を祝った事などを肝心な所は曖昧あいまいにしながら語った。
「それだけではないでしょ!真斗が、何か変な事してきたんでしょ。」と茜は、その場にいたかのように語気を強めた。
「とにかく真斗がHな事してきたら言ってね。らしめてやるからさ。」
「うんありがとう。私も真斗がどうしたいのかよく解からなくて。一緒にいるのは楽しいけど、最近真斗の強引さに圧倒されて怖い事がある。」
「女の子を大切に扱う事も教えて上げないといけないな。」茜は真斗に対して、保護者のような態度を見せる。茜に話をして、愛海はすっきりとした。

 前の晩は、真斗から愛海に謝罪のメールが届き、愛海は謝る真斗の事を可哀そうだと気遣っていた。部屋のベッドに横たわりながら、愛海はその日の事を振り返って考えていた。
~愛海~恋愛が進めば、相手への欲求が増していく。真斗が今日してきた事は、
   高校生の男の子として普通なのかもしれない。私だって、真斗との初めて
   のキス以来、女の子としての欲求が強まっている。公園での深いキスに自
   分では理解できない感覚が呼び覚まされたし、初めて抱き締められた時に
   はときめいた。
    今日ダブルベッドで、上に乗られて胸を触られ、ボタンを外されて顔を
   押し付けられた時には思わず拒んでしまったが、男の子の重みに心地よさ
   も本能的に感じていた。そして、スカートの中に手が入ってくるとは、思
   いも寄らなかった。
    近いいつか、真斗との関係が一線を超える事は予期できるが、セックス
   する自分は想像できない。男の子の前で裸になって、裸の自分に触れられ
   るのも怖い。それに初めての時は痛みを伴うと、経験した女の子たちが口
   をそろえて言っていた。そう分かっていながら、男の子とそういう行為に及
   んでいるのは何故なのか。
    でも、成り行きに任せて進んでいくのは嫌だ。男の子がただ欲求を満た
   そうとするのと、女の子のそれは違うような気がする。真斗の気持ちに応
   える事も大切だと思うが、今の私には、それがいつになるかは決断できな
   いでいる。まだ知らなくてもいい事、本当に必要な事なのかどうかも疑問
   である。

 そんな事を考えながら、愛海はいつの間にか眠っていた。

 愛海と真斗は気まずい別れ方をしてから、しばらく会わなかった。2週間ぐらい経って、このままではいけないと思い、愛海からラインを送って会う事になった。いつもの公園で、真斗は遠慮しているようだったので、
「この間の事を気にしているの?私は全然気にしてないよ。真斗のこと好きだし、こうしているのも好きだよ。」と照れながら告白した。
 そして、遅ればせながら、誕生日のプレゼントのミサンガを渡した。真斗はお礼を言ってから、
「この間は、愛海の気持ちを考えていなかった。状況が整い過ぎて、ついあんな事をしてしまったけど、愛海に嫌な思いをさせた。俺も大好きだよ。」と言い終わると、真斗はキスを求めてきた。愛海もそれに応えて唇を重ねた。
~愛海~あの時の状況。まさか3人で仕組んで、状況を作り出した?私と彼が結
   ばれるように計画されていた?取り越し苦労であってほしい。
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