15 / 24
15.
しおりを挟む俺は大金をマジックポケットに詰めて、奴隷商人の店へと向かった。
「――いらっしゃい……おや、これは」
店の扉を開けると、黒メガネをかけた小太りのおじさんが出てくる。あの奴隷商人だ。
父親と取引しているのだから、きっと俺が神託の後どうなったのかも知っているはず。
――実家を追放された外れスキルの持ち主。
そう内心で嘲笑っていることだろう。
「これはこれは、一体何の用でしょうか――レイ様」
――俺は交渉負けしないように毅然と答える。
「奴隷商人の店なのだ、用件は一つに決まっているだろう」
「となりますと……お金が必要になりますが、お持ちで?」
疑う奴隷商人に、俺は有り金を見せつける。
「これでどうだ」
マジックポケットを取り出し、中から金貨を掴んで机に出した。
「それは……マジックポケット。そして金貨まで……。ふむ、もしかして公爵様と仲直りされたのですか?」
なるほど、奴隷商人がそう考えるのも無理はない。
外れスキルの持ち主が、まさか自力でマジックポケットや金貨を手に入れるはずがないと思うのは当然だろう。
俺はあえて答えず、そのまま話を続ける。
「とにかく、奴隷を売ってくれ。予算はかなりある」
「それは素晴らしい。では、早速ご案内しましょう」
俺を追い出したレノックス公爵と親身にしている男だ。もしかしたらそもそも取引してくれないのではと思ったが、杞憂だったらしい。
奴隷商人に引き連れられ、地下室へと入る。
この地下室のジメジメとした感じは、何時来ても慣れるものではなかった。
少し歩いていくと、すぐに――あの少女を発見した。
クワガタと人間のキメラ。
頭に生えている二本のツノに、茶色の皮膚が特徴的だ。
前に来た時より、さらに弱っているように見えた。
檻の中で、壁に背を預け、虚ろに地面を見ている。
「――あの子だ」
俺が言うと、奴隷商人は驚いた様子だった。
「あの虫けらを? これはまた奇特な方で。いや、まぁ売れ残っていたところで、売れなければ<処分>しようかと思っていたくらいですからありがたいですが」
<処分>なんて言う言葉を平気で使うことに吐き気を覚えたが、しかしグッと堪える。
「それで、いくらで売ってくれるんだ?」
俺が言うと、商人は一瞬考え込む。
「……50万ゴルでは?」
直感的に、ふっかけられていると理解した。
だが、こちらに選択肢はない。
別にお金には困っていないので、いくらでも出してやろう。
俺はすぐさまマジックポケットから金貨を取り出して、商人の前においた。
「これでいいか?」
商人はそれを見て目を見開く。まさか本当に金貨が出てくるとは思わなかったのだろう。
「……ええ、もちろんでございます。お買い上げありがとうございます」
金貨を受け取ると、商人は牢屋の鍵を開けて、少女の前に行く。
「さぁ、立て。新しいご主人様だぞ」
声をかけられ、少女は商人の方を見た。続いて俺の方を見る。
少女は見るからに弱っていて、すぐに立てるかどうかも怪しかった。
俺はポケットからヒールクリスタルを取り出して少女に使う。
「旦那様。こんな虫けらに高価なヒールクリスタルを? またまた奇特な方ですな」
奴隷商人が横で何か言っているが無視する。
少女は、クリスタルの力で少し元気を取り戻したのか、表情が和らいだ。
「……ありがとうございます」
「ああ。立てるか?」
俺が聞くと、少女は頷いて、ゆっくり立ち上がった。
「世話になったな」
俺はそう言って奴隷商人に声をかけ、少女とともに見せる出た。
†
奴隷商人は、レイが店を出て言った後、ポツリと呟く。
「……あの<外れスキル>の追放者が、あれほどの金貨に、マジックポケットまで持っているとは」
レイが父親から実家を追放されたことは当然知っていた。
だから、お金やレアアイテムは、父親から手に入れたものではない。
とすると、ダンジョンで手に入れたのか。
奴は外れスキルの持ち主だ、並みの冒険者程度の実力者しかないに違いない。
A級は愚かB級のダンジョンも攻略できまい。
きっと、低ランクのダンジョンで、ものすごい「幸運」に見舞われてレアアイテムをドロップしたのだろう。
外れスキルを授かった後なのだ、それくらいは運が向いていてもおかしくはない。
――いずれにせよ。
マジックポケットは市場にもほとんど出回らない超レアアイテムだ。
だから、奴隷商人は思った。
あのレアアイテムは、奪ってしまおう。
「ふひひ。私の代わりに手に入れてくれてありがとう」
そう暗がりで呟いたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる