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21.
しおりを挟む俺は奴隷商人の身柄を、別の商人に引き渡した。
その仕事を終え、街に帰ってくる頃には、すでに夜になっていた。
「すっかり遅くなっちゃったな。とりあえず宿を探さないと」
もちろん俺が借りている宿はあったが、部屋は一人用だ。ティオの分を用意しなければ。
そう思って、今泊まっている宿に戻り、空いている部屋がないか聞く。
だが、あいにく満室と言われてしまった。
俺は仕方がなく宿に一軒一軒聞いて回る。だが、他の店は、入り口の時点で断られてしまう。
曰く――キメラを泊める宿はないと。
亜人に対する差別の大きさに今更ながら驚く。
その後も宿を回ったが、結局、泊まれる宿は見つからなかった。
「すまんが俺の部屋に泊まってくれ」
俺はティオにそう謝った。
「そんな、ご主人様と同じ部屋に泊めていただくなんて恐れ多い! やっぱり私は外で寝ます!」
ティオはわちゃわちゃとそう言うが、もちろんそんなこと俺が納得するはずがなかった。
「いや、流石に。かと言って俺も外はいやだから……俺は床で寝るから、それで許してくれ」
「そんな! ご主人様が床で、私がベッドなんて!」
と言うその押し問答をしばらく続けたが、最後は命令で、ベッドに寝てもらうことにした。
もともと床でも野原でも寝れるクチだ。
俺はなんとかティオをベッドに寝かせて、自分も眠りについた。
「……ご主人様、ありがとうございます」
意識が遠のく前、そんな声が聞こえてきた気がした。
†
――――翌朝。
俺は額に当たったひんやりとした感触と、両手に抱えた何かの柔らかさを感じて、目が覚めた。
「……ん?」
目を開けると、目の前に茶色。
何かと思ったら――ツノ?
そして気がつく。
俺は昨日寝た時と変わらず、床にいた。
しかし、ティオはそうではなかった。
彼女はベッドから落ちてきて、俺の腰に手を回して寝ていたのだ。
ちょうど彼女の顔が俺の胸に当たり、ツノが俺の顔に当たっていた。
彼女の小さな腕が、俺の腰に巻きついて身動きが取れない。
「ごしゅじんさまぁ……」
なんか呼ばれた。
「おう、どうした」
なんか返事してみた。
…………。
……。
「……ふぁ?」
俺が驚いていると、ティオもつられて目を開けた。
そして、俺と近距離で目があって、そして状況に気がついたらしい。
「はッ!?」
ティオはさっと手を引っ込め、そして起き上がる。
「も、申し訳ありません、ご主人様!」
顔を真っ赤にして謝るティオ。
「わ、私気がつかないうちに……」
「いや、まぁ全然いいんだけど……」
しかし、とりあず彼女の寝相が悪いのはわかった。
†
俺たちは朝ごはんを食べてから、またギルドへと向かった。
「レイ様、おはようございます」
今日も受付のお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。
「おはようございます」
「新しいパーティーメンバーですか?」
俺の後ろにいたティオを見てお姉さんは言った。
「ええ。なので、今日はできればいつもより難しいダンジョンに挑戦したいのですが」
俺が言うと、お姉さんは渋い顔を浮かべた。
「実は、このあたりには、Bランク以上のダンジョンは現れないんです」
こないだ俺が一人で軽々攻略してしまったダンジョンがBランクだった。
つまり、俺がもっとレベルアップできるようなダンジョンはここにはないと。
「それは残念です」
「……なので、レイ様は、王都に行かれた方がいいと思います」
と、お姉さんはそう提案してきた。
「王都に?」
「ええ。王都に行けば、もっと難しいダンジョンの受注も受けられます。レイ様の実力なら、あっという間にトップ冒険者になれると思いますよ」
なるほど、王都か。
「ティオ、王都に行って力を試して見たいんだが、それでもいいか?」
俺が聞くと、ティオは頷いた。
「もちろんです! 私は何処へでもついていきます」
「よし、じゃぁ決まりだ。王都に行こう」
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