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第49話

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「ご令嬢?それは、誰だ?」

殿下は慌てて駆け込んで来た護衛に訊ねると、

「それが…バジル男爵家のご令嬢のようで、名前はメリッサ様と。どういたしましょう?」
と護衛は心底困っているようすですわ。

「暴れてる…とは?」

「お約束のない面会は許可出来ないと言ったら、『私の名前を言えばわかるはずだから』と言って引かず、それでも門番が断ると、近くの石を拾って窓に投げつけて…幸い当たる事はありませんでしたが、それを門番が止めると、門番の腕に…その…噛みつきました」

…私の読んだ恋愛小説に、2人の仲を両家から認めてもらえない恋人同士が、夜中、彼女の部屋の窓にこっそりと、小石を当てて、バルコニーと塀の向こうから、僅かな時間の逢瀬を楽しむ…っていう場面がありましたが…そんな行為が素敵に映るのは小説だからであって、現実では迷惑でしかないのですわね…勉強になりましたわ。

しかし…門番の腕を噛むとは……バジル男爵令嬢は…お猿さんなのでしょうか?いえ…お猿さんだって、お行儀の良い猿だっているでしょうから…。

「か、噛みついた?それで…その門番は大丈夫か?」
殿下の驚き様が半端ないですわね…。

「はい。まぁ、ご令嬢が噛みついたぐらい、門番には何て事ありませんが…処分する前に、殿下に訊いてみませんと、こちらで勝手に判断して良いのか悩みまして」

処分?処分って言いましたの?
まぁ…確かにこのままだと不法侵入未遂?それとも暴行罪?どちらにしろ、罪に問われてしまいそうですわね。

「あ…あぁ、訊いてくれてありがとう。
…仕方ない…私が門の所まで行こう。王宮へは入れないでくれ。
アナベル…そういう事だから、今日は…すまない。馬車回しまで送ろうか?」

「とんでもございません!今日、私はお見舞いに来たのであって、殿下を疲れさせたいわけではございません。私はここで失礼させて頂きます」

「護衛に送らせるから」

「はい。ありがとうございます。
殿下…なるべく無理はなさいませんように」

私はそう言って、殿下とその場で別れました。

私の今日の目的は殿下にお見舞いの品である飴を渡す事。それは果たされましたので、もう大人しく帰る事に致しましょう。

しかしながら…バジル男爵令嬢の行動力には驚かされますわ。

…ちなみに、王宮の門の所から小石が届く範囲に殿下のお部屋はないのですけれど…
どのお部屋の窓に当てる気だったのでしょうかね?
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