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第67話
しおりを挟む馬車が止まる。会場に着いたようですわね。
馬車の扉が開くとそこには、
「殿下?」
「アナベル、迎えにいけなくて申し訳なかった。しかし、会場にはエスコートさせてくれるよね?」
「もちろんですわ。殿下お忙しかったのでは御座いませんの?」
私は殿下の手を取り馬車から降ります。
殿下は少し息切れしているようです。額に汗も光っております。
私はハンカチを取り出すと、殿下の額の汗をそっと拭いました。
「あぁ。アナベルありがとう。支度する時間がなくて焦ってしまった。でも、もう大丈夫だ。親切な者が私の仕事の後を引き受けてくれた」
「まぁ…そうでしたの。その方にお礼を言わなくてはなりませんね」
「ん?まぁ…それは僕が言うから大丈夫。アナベルは心配しないで。さぁ、行こうか僕のお姫様。ドレス…とても似合ってるよ。すっごく綺麗だ」
……殿下…熱でもあるのかしら?私が今までどんなに着飾っても褒めてくれた事などありませんでしたのに…。
「殿下、素敵なドレスをありがとうございました。それに、アクセサリーに…靴まで」
「アナベルはどんなドレスでも似合うけど、やはりその深い青が1番良く似合うな」
…やっぱりおかしい。殿下がいつもと違いますわ。…まさか……今日の舞踏会で何かあるのかしら?もしかして…断罪…とか?
いえ、小説で断罪の定番と言えば卒業パーティーよ。落ち着いてアナベル。
少し俯いてしまった私の顔を覗き込むように、
「アナベルどうかした?難しい顔をしているけど」
と殿下が心配そうに訊ねてきました。
まだ、何かあると決まった訳じゃありませんもの。きっと…大丈夫。
私は顔を上げて、
「いえ。久しぶりのダンスですので、少し緊張しただけですわ」
と殿下に笑顔を見せた。
「そうだな。アナベルとのダンスが楽しみだ。さぁ、会場へ入ろう」
と殿下は私に腕を差し出しました。
私もその腕をとると、
「はい。私も楽しみにしております」
と言って、会場へと足を向けました。
会場には既にたくさんの生徒達が集まっておりました。色とりどり、思い思いの衣装で、皆様とても素敵ですわね。
「皆様、もう既にお揃いですのね。それにしても、鮮やかで皆様素敵ですこと」
「何を言っているんだい。アナベルが1番綺麗に決まっているじゃないか。アナベルをエスコート出来て、僕は世界一幸せだよ」
そう殿下は言うと、私に笑顔を向けました。
ま、眩しいですわ。その笑顔!
しかし、やはりいつもと違う殿下の様子に私の心はざわめき始めるのでした。
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