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第91話

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「アナベル。何か飲む?」

「アナベル、寒くない?」

「アナベル、暑くない?」

上記の会話、約1分毎に繰り返されておりますの。その全てに、

「大丈夫ですわ」
とお答えしなければならない私の気持ちも、良かったら考えて頂けないかと思うのですが…。

今日は折角の学園の休暇中という事で、なんと!殿下と観劇に来ることになりましたの。
何と言っても、私にとっては初デート。

しかし、私、今、非常に戸惑っております。

殿下が、ご自分の私への気持ちが恋だと気づいてから…いえ、私と相思相愛であるとわかってからというもの、態度が甘過ぎるように思うのです。

今までは、どちらかと言うと言葉少なだった殿下でしたが、もはや別人?と思うぐらいにお喋りになりますし、こうして、事ある毎に、私に構おうとしてくるのです。

…ほんの少し…ええ、ほんのすこーしだけ…鬱陶しい……。


「殿下、もうすぐ始まりますわ。楽しみですわね」

「そうだね。今日のお芝居は、今巷で話題の小説を歌劇にした物らしい。アナベルが気に入ってくれると良いんだが」

流石に殿下も上演中は、静かにして下さっていましたので、私も集中して堪能する事が出来ました。

「殿下、私、感激してしまいましたわ。最後にヒロインが過去を捨てて新しい恋人と手と手を取り合って人生を共に歩む事を決めた所など…思わず目頭が熱くなってしまいました」

「…………………」

え?無視?

「殿下?どうされました?」

「面白くない。…どうしてこんな話しが巷で人気なのかわからない」

不機嫌そうな殿下の顔をそっと覗き込むと、すっと目を逸らされてしまいました。

「殿下はお気に召しませんでしたか?」

「当たり前だろう?どうして婚約者を捨てて、新しい恋人を選ぶんだよ」

「…それは、婚約者がヒロインを先に捨てたからです。それに…このような小説を殿下も良く読んでいらっしゃったではないですか」

…その小説に影響されて、恋人を作りたいと言い出したのは何処の誰だったのか…忘れたとは言わせませんけど?

「あの時の僕はどうしてこれを面白いと思ったのかな?…思い出せないよ」

……ちょっとイラッてするのは何故かしら?

「これは物語ですから。それに、私は殿下のお側を離れる事はありませんよ?」
と私が腕を取ると、殿下の機嫌は良くなっていった。

「ところで…アナベル。僕もアナベルを、ニックネームで呼びたいんだが…良いかな?」

「もちろんですわ。では、『ベル』と?」

「それは、絶対に嫌だ。あいつと一緒になるだろう?僕は…『アナ』と呼ばせて貰いたいんだが…良いかな?」

…グレイと仲良くなったんじゃなかったのかしら?

「はい。もちろんですわ」

「それと…僕の事も名前で呼んでくれないか?」

「では…『ルシウス様』と」

「もっと…親しみを込めてもらいたいから、僕の事も…ニックネームで呼んでくれないか?」

「では…『ウス様』と」

「アナ、なんで、そっち側を残すかな?残すなら、前の部分だろ?『ルー』と呼んで?」

……ちょっと嫌だな………。
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