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その119
しおりを挟む翌朝。頬の腫れは幾分か良いような気もするが、色が…。そしてまだまだ痛む。
流石にこの顔で外を歩く勇気がなくて、朝食は部屋へ運んで貰う事にした。
しかし…
「ねぇ…見てあれ。クスクス。はっきり言って、殿下には、ローザリンデ様の方がお似合いよね」
イブとニーナは顔を腫らした私を笑う。
……聞こえてますよ~。まぁ聞こえる様に言ってるんでしょうけど。
食堂で食べようが、部屋で食べようが同じだったか…と思った所でもう遅い。
正解は廊下に朝食のワゴンを置いて貰う…コレだった。
私はイブが用意してくれた朝食を食べる。
クリス様が厨房に言ってくれたのか、スープなど、あまり口を大きく開けなくても食べられる物が多くて、なんとか朝食を終える事が出来た。
腫れは少し引いたので、喋る事はなんとか出来る。
しかし、なんとなく誰と話すのも億劫だ。
私はニーナとイブに、
「用があれば呼びます」
と言って下がって貰う。
これもいつもの事だが、2人は、「はい」と返事をしながらも口元を隠してクスクス笑っていた。
私が、ローザリンデ様に痛めつけられた事がよっぽど嬉しかったと見える。
流石にダンスレッスンは禁止という事で、私は歴史書を読みながらイヴァンカ様を待った。
イヴァンカ様はいつもより早い時間に訪れた。きっと、私を心配して下さったのだろう。
「シビルどう?」
と直ぐに私の体調を気遣ってくれた。
「傷みはありますが、腫れは少し引いたので喋れるようになりました。口の中の傷はもう大丈夫です」
「そう…でもまだ腫れてるし、変色もしてる。これは元に戻るまで時間かかりそうね」
「そうですね。傷みが引くまではダンスレッスンは禁止だとキャンベル様に言われてしまったのですが…婚約披露会の夜会でのダンスが…不安で仕方ありません」
「……もう嫌だって言うと思ってたわ」
「え?何をですか?」
「殿下の婚約者になる事よ。昨日の貴女を見ていたら、そう感じたの」
「正直に言うと…そう思いました。ローザリンデ様は公爵令嬢で、きっと王太子妃教育も私よりスムーズに修了できると思いますし、この国の皆さんにも受け入れられるでしょう。
何より、殿下の事を想っていらっしゃるのですから。どれをとっても、私より王太子妃に相応しいと思います」
イヴァンカ様は黙って私の話を聞いている。
「殿下が私の事、『もう必要ない!』って言ってくれないかなぁ…って考えたりしますし。
でも、私からは『嫌だ』って言うつもりはないです。無責任な事はしたくないので」
「貴女って…本当に権力とか興味ないのね」
「そうですね。不相応だと思ってますから。今のこの扱いだって違和感しかないです」
「ねぇ…やっぱりうちで暮らさない?ここに侍女がいつも居ない理由…なんとなく私も分かってるつもりよ?」
「侍女については…まぁ。自分が侍女だったお陰で、大抵の事は自分1人で出来ますから、問題ないんですけど、王太子妃になれば、それも通用しないですよね。
人を使う事に慣れなきゃな…とは思うんですけど。なので、この違和感にも慣れなきゃな…って思ってます」
「シビル…そんなに色々な事全てを背負い込まなくて良いのよ?時には甘える事も必要だわ」
…とイヴァンカ様は心配そうに私の手を握った。
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