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第5話
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私は目と鼻の先にあるハルコン侯爵家のタウンハウスに訪れた。とはいえ、馬車で数分。
正直面倒くさいが仕方ない。
サロンに通された私は軽く腰を落として挨拶をした。
「お久しぶりでございます。レニー様にお茶会のお手伝いをするように仰せつかりました」
「私、レニーに手伝ってって言ったのに……」
アリシア様は私の顔を見て、明らかに落胆した。どうもレニー様に手伝いを頼んでいた様だ。レニー様はお茶会と聞いてピンとこなかったのかもしれない。
私がレニー様と結婚して三ヶ月。確かもうすぐお義兄様であるハルコン侯爵も殿下と共に戻ってくる筈だが、それでもレニー様に頼らなければならない理由でもあるのだろうか?
「レニー様は近衛騎士の副団長に昇進されたばかり。今はお忙しくしていらっしゃいますので」
「あら?それでも夕食は必ず私と一緒に食べてくれるわ」
「そうですか……」
そんなことを勝ち誇った顔で言われても……。ふむ、彼女からあまり好意的に思われていないようだ。まぁ、何となく想像は出来ていたが。
そして彼女は得意気に続ける。
「貴女には申し訳ないと思っているの。クラッドが留守だからとレニーが心配してくれるのは嬉しいんだけど、その分貴女に寂しい思いをさせているわよね?」
「別に寂しいと思ったことはありませんので、どうぞご安心ください。それで、お茶会の準備についてですが……」
私の反応が面白くなかったのか、アリシア様は素っ気なく言う。
「適当に貴女が準備してくれる?お金はいくらかかっても良いわ。うちの名に恥じないようにお願いね」
「適当に……と言われましても、アリシア様がどの家の方々をお呼びしたいのかとか……。お付き合いの程度が私には分かりませんし」
「それならうちの執事に訊いて?じゃ、よろしくお願いね」
彼女は美しいピンク色の髪をなびかせて、私の前から去っていった。
私は壁際に控えていた執事に振り返ると、執事は申し訳なさそうに眉を下げた。
それからというもの、私はとにかく忙しかった。招待状の準備、料理の手配、手土産の選定、会場の飾り付けから、演出まで。
そんな中、お義兄様であるハルコン侯爵が殿下との視察を終えて、やっと屋敷に戻って来た。偶然ではあるが、サロンに居た私も出迎える為に玄関ホールに向かう。
「やぁ、結婚式ぶりだね。元気にしていたかい?」
レニー様と同じ黒髪だが、クラッド様は優しげに垂れた黒い瞳が人の良さを表している。
それに引き換え、レニー様は紫色の瞳にややつり上がった目尻が冷たそうに見える。兄弟でも見た目から受ける印象が正反対だった。
少しふくよかなクラッド様は私を見て笑顔で言った。
「ご無沙汰しております。はい、お陰様で元気にしておりますわ。侯爵様も殿下との視察でお疲れでしょう。近隣諸国は如何でしたか?」
単なる挨拶のつもりだったのだが、クラッド様の腕に絡みついているアリシア様が頬をプーッと膨らませた。
「もう!クラッドは疲れてるんだから貴女のお喋りに付き合ってられないの!」
「おいおい、デボラはそんなつもりじゃないだろ」
「だって……!」
「申し訳ありません、お疲れのところ引き留めてしまいましたわ。それではそろそろ私はお暇いたします」
アリシア様が私をキッと睨んだところをみると、さっさと帰れということなのだろう。私としては願ったり叶ったりだ。
「お茶会の手伝いをしてくれてるんだってね」
帰りたいのに何故かクラッド様は話を続ける。
「ええ……」
『手伝い』というより、私が殆どやっているので、つい言葉に詰まる。
「アリシアはあまり社交が得意ではなくてね。今の今まで何度言ってもお茶会を開かなかったんだが、その気になってくれて嬉しいんだ。デボラ、よろしく頼むよ」
そう言ってクラッド様は私の手を取った。
「あ……もちろんですわ」
私も笑顔で応え握手する。しかし、クラッド様の隣のアリシア様は凄い形相だ。可愛らしい顔も台無し。
「クラッド!ねぇ、お土産は?もうこの人は帰るんだから、引き止めちゃダメよ」
『この人』ね。私の名前、忘れてるんじゃないかしら?しかし、私もずっと手を握られていることが、些か気まずい。私はアリシア様のその言葉をきっかけに、スッと手を引いた。
「それでは、私はこのへんで失礼いたします」
私は頭を下げ、そそくさとその場を退散した。
正直面倒くさいが仕方ない。
サロンに通された私は軽く腰を落として挨拶をした。
「お久しぶりでございます。レニー様にお茶会のお手伝いをするように仰せつかりました」
「私、レニーに手伝ってって言ったのに……」
アリシア様は私の顔を見て、明らかに落胆した。どうもレニー様に手伝いを頼んでいた様だ。レニー様はお茶会と聞いてピンとこなかったのかもしれない。
私がレニー様と結婚して三ヶ月。確かもうすぐお義兄様であるハルコン侯爵も殿下と共に戻ってくる筈だが、それでもレニー様に頼らなければならない理由でもあるのだろうか?
「レニー様は近衛騎士の副団長に昇進されたばかり。今はお忙しくしていらっしゃいますので」
「あら?それでも夕食は必ず私と一緒に食べてくれるわ」
「そうですか……」
そんなことを勝ち誇った顔で言われても……。ふむ、彼女からあまり好意的に思われていないようだ。まぁ、何となく想像は出来ていたが。
そして彼女は得意気に続ける。
「貴女には申し訳ないと思っているの。クラッドが留守だからとレニーが心配してくれるのは嬉しいんだけど、その分貴女に寂しい思いをさせているわよね?」
「別に寂しいと思ったことはありませんので、どうぞご安心ください。それで、お茶会の準備についてですが……」
私の反応が面白くなかったのか、アリシア様は素っ気なく言う。
「適当に貴女が準備してくれる?お金はいくらかかっても良いわ。うちの名に恥じないようにお願いね」
「適当に……と言われましても、アリシア様がどの家の方々をお呼びしたいのかとか……。お付き合いの程度が私には分かりませんし」
「それならうちの執事に訊いて?じゃ、よろしくお願いね」
彼女は美しいピンク色の髪をなびかせて、私の前から去っていった。
私は壁際に控えていた執事に振り返ると、執事は申し訳なさそうに眉を下げた。
それからというもの、私はとにかく忙しかった。招待状の準備、料理の手配、手土産の選定、会場の飾り付けから、演出まで。
そんな中、お義兄様であるハルコン侯爵が殿下との視察を終えて、やっと屋敷に戻って来た。偶然ではあるが、サロンに居た私も出迎える為に玄関ホールに向かう。
「やぁ、結婚式ぶりだね。元気にしていたかい?」
レニー様と同じ黒髪だが、クラッド様は優しげに垂れた黒い瞳が人の良さを表している。
それに引き換え、レニー様は紫色の瞳にややつり上がった目尻が冷たそうに見える。兄弟でも見た目から受ける印象が正反対だった。
少しふくよかなクラッド様は私を見て笑顔で言った。
「ご無沙汰しております。はい、お陰様で元気にしておりますわ。侯爵様も殿下との視察でお疲れでしょう。近隣諸国は如何でしたか?」
単なる挨拶のつもりだったのだが、クラッド様の腕に絡みついているアリシア様が頬をプーッと膨らませた。
「もう!クラッドは疲れてるんだから貴女のお喋りに付き合ってられないの!」
「おいおい、デボラはそんなつもりじゃないだろ」
「だって……!」
「申し訳ありません、お疲れのところ引き留めてしまいましたわ。それではそろそろ私はお暇いたします」
アリシア様が私をキッと睨んだところをみると、さっさと帰れということなのだろう。私としては願ったり叶ったりだ。
「お茶会の手伝いをしてくれてるんだってね」
帰りたいのに何故かクラッド様は話を続ける。
「ええ……」
『手伝い』というより、私が殆どやっているので、つい言葉に詰まる。
「アリシアはあまり社交が得意ではなくてね。今の今まで何度言ってもお茶会を開かなかったんだが、その気になってくれて嬉しいんだ。デボラ、よろしく頼むよ」
そう言ってクラッド様は私の手を取った。
「あ……もちろんですわ」
私も笑顔で応え握手する。しかし、クラッド様の隣のアリシア様は凄い形相だ。可愛らしい顔も台無し。
「クラッド!ねぇ、お土産は?もうこの人は帰るんだから、引き止めちゃダメよ」
『この人』ね。私の名前、忘れてるんじゃないかしら?しかし、私もずっと手を握られていることが、些か気まずい。私はアリシア様のその言葉をきっかけに、スッと手を引いた。
「それでは、私はこのへんで失礼いたします」
私は頭を下げ、そそくさとその場を退散した。
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