ハイドランジアの花束

ashiro

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彼の過去

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ナツメさんの家にお世話になってもうすぐ半年が経とうとしていた。

ユキのお墓にはナツメさんに連れて行ってもらい、何度も会いに行った。
花を供えるとき、お墓には不似合いだが、必ず小さな青い紫陽花を入れた。


「なんで紫陽花を入れるんですか?紫陽花って色が変化することから、浮気とか無常とかあまりよくない花言葉のイメージですが……」

「想い出の花なんです。青の紫陽花は良い意味もあって、辛抱強い愛情っていう花言葉があるそうです。まさに、俺とユキだねって…2人で話してたんです。これ見てください。綺麗ですよね、旅行に行ったときに撮りました」


青の紫陽花を見つめるユキの横顔。写真を見せると、ナツメさんは目を潤ませた。


「やっぱり顔を見ると、どうしても思い出してしまって……。綺麗です。本当に綺麗な人でした」

「きっと見守ってくれているはずです。今もずっと会いたいですけど……」

「リオくん、もうすぐ独り立ちですね。怖くないですか?」

「もう21ですよ。大丈夫です。ユキのことも一生忘れないですし、今でも会えるならすぐに会いたいですけど……。ユキに次会えたときに頑張ったねって言ってもらえるように……、生きていこうかなと思います」

「いつでも頼ってくださいね」

「ありがとうございます。また一緒にここに、ユキに会いに来ましょうね」



家に帰り、夜ごはんを食べた後、ナツメさんが急に改まって話を始めた。


「リオくん。今から話すことがあるんですけど、落ち着いて聞いてくださいね」

「……なんですか?」

「実は、ずっとサノヒロヤのことについて、調べていました。レイさんとも協力して、警察も捜査していた。ユキの事件があってから、彼は行方不明になった。思い出したくない男の話をしてすみません。でも、調べていくうちに、あることが分かって、それだけお伝えしたかったんです」

「そうだったんですね……。一生かけてでもあいつをこの手でユキと同じ目に遭わせたい、とは思ってましたけど。分かったこととは……?」

「彼、サノヒロヤは、5歳の頃に死亡していました」

「……え?」

「これが当時の新聞記事です。誤って公園で遊具から転落して亡くなったとの内容です」

「え……」


言葉が出てこない。話がまるで理解できない。
つまり、自分達が接していたのは、本人じゃないということか?それか、幽霊……?でも、はっきりと見えていたし、毎日学校に来て人と話して、接触までできる霊なんているか?


「私たちが対面したサノヒロヤが、一体なんだったのか、誰なのか、そこまでは分かりませんでした。ただ、戸籍にも彼の名前はありませんでした」

「あのサノヒロヤは、本当に生きている人間だったのかも分からないということですか……」

「……そういうことになります。しかも、この記事では本人が誤って転落死した事故として扱われていますが、実際は君の父親でありサノヒロヤの父親にもあたる佐倉貢が、遊具から突き落として殺害していたと判明しました。先日、彼の後の父親となる佐野敬人はこれまでのすべての隠蔽を打ち明けました。
佐野敬人と、佐倉貢は幼馴染だったそうです。その時すでに、佐野敬人は警視庁勤めでしたし、隠蔽工作など容易だったのでしょう」

「母親は……?我が子を亡くして、また我が子が現れてって明らかにおかしいって分かりますよね?佐野敬人の方は連れ子を友人が殺し、殺したはずなのにまた現れた子とともに、よく正気で一緒にいられましたね……?」

「実は、母親と佐野敬人、佐倉貢は元々顔馴染みで、母親も子の殺害に協力していたそうです。なので、母親も佐野敬人も共犯です」

「母親も彼も、ドッペルゲンガーかと思ったと話しているそうです。ずっと気味が悪くて愛情も全く湧かず、ほとんどネグレクトのような状態だったと話しています」


実の父親に殺されて、母親と後の父親から十分な愛情を受けず育ち、同じ境遇で実の父親の元でのうのうと生きている自分に執着し、復讐として放火や傷害事件、性暴力での支配をした?話の流れは何となく通るが、それであれば、一度生き返るか転生でもしてないと不可能だ。
しかも、別人格になった期間があったというのも気になる。どちらかが本物で偽物を乗っ取っていたとか……?混乱してきた。


「少し事実が分かったようで、より謎は深まりましたよね」

「……はい。正直、気味が悪くなりました」

「心理学的に言うと、やっぱりお話を聞く限り、二重人格には当てはまらないのかなと思います」

「そうなんですね……。彼に同情する気は1ミリもありませんけど……、相当残酷な境遇にあったんですよね。やっぱり復讐心による幽霊説が一番納得する気が……。本の読み過ぎですかね笑」

「いえ、私もそれが濃厚かと思います。むしろそれ以外、考えにくい。ただ、単純な復讐心だけではないと思います。彼の部屋から一枚の写真が見つかったそうなんですけど、見てください」


公園の砂場で一緒に並んで写真に写っているのは、幼い彼と、まさしく自分だった。
手を繋いで、砂のお城を作ったのか、その横でピースをしている。


「え……?」

「彼は復讐心に駆られつつ、幼い頃面識のあった異母兄弟である君を好きだったから執着していたのではないでしょうか」

「……」


確かに、ユキを殺すときに言っていた。自分のことが好きだと。唯一の存在だと。
でも、結果的にあいつは自分をひたすら苦しめた。いじめに、両親殺害、そして愛する人の殺害。とても純粋に好きだと言う人がすることではない。
何かがおかしい……。


「謎を残してお別れということになり、すみません。また何か分かったら連絡しますから」

「いや、今日の話だけでもお腹がいっぱいというか、気持ち悪いというか……。でも、連絡はしてくださいね」



そして、次の日、保護観察処分を終え、佐倉由依として人生の再スタートを切ることになった。
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