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17.僅か数時間後にきれいなミゲルになっていた件

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「このような非常識なお時間に、伺ってしまい申し訳ございません」

そうあり得ないくらい綺麗な挨拶をしたミゲルに僕は思わず信じられないという顔をしてしまいました。

今までミゲルからは蔑まれた対応だったので、このように綺麗な対応が出来る人間とは到底思っていなかったのです。

「まず、この度のご無礼のお詫びにこちらを」

ミゲルが最初に差し出したのは細工の繊細な木製の箱に並んだそれはそれは美しい沢山の飴玉でした。

この世界では砂糖は貴重品です。そのためそもそもスイーツは上流階級の人間しか食べることができません。

そして、今目の前にある飴は、美しくカラフルなものが高そうな箱に入っていてさらに粉糖が掛かっている姿からも分かりますが、相当高いものです。

子爵家は騎士を多く輩出する家門であることはお茶会から帰る馬車でなんとなくヴァンさんから聞きました。

ただ、現在の子爵夫人は元々貿易が盛んな商家の娘ということで珍しいお菓子や酒などを比較的簡単に手に入れられるそうです。

それを聞いて、首コロリ5回目くらいの時から思っていたジョバンニのハイクラスな手土産の謎が解けました。

ジョバンニはいつもなんかすごく高価なものをよく貴族子息たちに贈っていました。その出どころはどうやらミゲルのようです。

人間というのは贈り物をされて嫌な気はしないものです。

しかも社交界で評判がよかったデネブ公爵家のご子息からの心の籠った贈り物に喜ばない人はあまりいなかったでしょう。

僕だって、彼が首コロリをしてきたり、マウントジョバンニしてこないでただ遠巻きにほんの少し話す程度の中で贈り物を頂いたら嬉しいと思います。

そう言えば、首コロリ6回目の時に、試しに僕も心のこもった贈り物を貴族子息たちにお送りしたことがありました。

僕は実はとても刺繍が得意です。なので、魂をこめて太陽神のご尊顔と『もっと熱くなれよ!!熱い血燃やしてけよ!!人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ! お米食べろ!!』の至言を入れたハンカチを配ったことありましたが、ほとんどの方が受け取ってくれませんでしたし、受け取った方もなんかすごい顔で僕を見るか、マイキーみたいに大爆笑するかでした。

マイキーはそのハンカチを貰って爆笑しながら、「お前本当に器用だよな。でもなんていうか、才能の無駄遣いというか……なんだよこのテニスプレイヤーみたいなヤツ」と言われて珍しく喧嘩しました。

太陽神を笑うことはたとえ唯一無二の親友でも許されません。

そこから、賄賂で心を動かそうと考えるのはあまりよくないと学びました。だから、綺麗な飴玉はとても嬉しいですが、なんか複雑です。

「……サドル子爵令息、この砂糖菓子は確かに高価なものだがいささか公爵家へのお詫びとしては不足していると思わないか??」

なんか、その筋の人みたいな言いがかりをはじめるヴァンさん。一応フォローします。

「いえ、飴も僕は好きですが……」

「もちろん、これだけではございません。本日はベガ公爵令息に俺の忠義の証としてこちらをお渡ししたく……」

そう言って手渡されたのは、とてもずっしりと重い箱でした。明らかに宝石が入っていそうなその箱を開けると、そこには、赤ん坊のこぶし大の美しく煌めくオパールがおさめられていました。

「えっ、これって……」

その見た目に驚いたのは勿論ですが、その宝石はあまりにもこの世界では有名なものでした。

「これは……『世界樹の涙』。何故これを君が持っている」

突然、低い声になったヴァンさんが言いました。

それもそのはず、この『世界樹の涙』は元々王族所有でしたが数代前に降嫁した姫君がある侯爵家に持参したのですが、その際にある侯爵家で火災があって紛失したといわれておりました。

ちなみに、そのある侯爵家というのはデネブ公爵の親類だったりします。そう、マウントジョバンニの家です。

この展開は初めてですが、『世界樹の涙』については僕は流石に首コロリ10回の強者なので実物を何回か見たことがあります。ただ、それは必ずジョバンニにマウントを取られる形でしか見たことがありません。

「実はこれは火事場泥棒により、隣国に流出していたものを母の生家が秘密裡に買い戻したものです。本来は、ジョバンニ様にお渡ししようと思っていましたが、ルドルフ様の方が相応しいと思いまして」

とても綺麗な笑みを浮かべてミゲルが言いました。その態度、姿、礼儀、全てが今までの彼と違い過ぎます。なんというか全てが完璧で美しすぎるのです。

例えるならば、僕がお茶会であったのが『汚いミゲル』なら目の前にいるのは『きれいなミゲル』くらい違います。

もしかしたらミゲルはあの後誰かに、女神のいる泉に叩き落とされたのかもしれません。

そんなことを考えていた時でした。

シャカシャカ

ドアを引っかいている音がしました。間違いなくシューゾーです。僕はドアで爪を研いだら困るので、扉を開きました。

「シューゾー、ここで爪を研いではいけないよ。ほら……」

シューゾーを抱き上げようとした瞬間、恐ろしい速さでよりにもよって『世界樹の涙』に突進したのです。

「あ、だめだって、そんなことしちゃ!!ヴァンさん止めてください!!」
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