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05.孤独な心と愛する人と(エカチェリーナ視点)
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「お嬢様、何かあれば必ず僕が守りますので言ってくださいね、命にかえても貴方は僕がお守りします」
そう言って笑うテオに私は微笑み返す。黄金のような美しい髪にサファイアのような瞳。外見だけ見ればテオは王子様にしか見えない。アレクサンドル様とも話したが、エリザベート様やその取り巻きの嫌がらせがあるのであまり学園は好きではないけれど登校拒否など公爵家の娘がするわけにはいかない。
「もちろんよ」
静かに微笑み返すとテオが目を細める、とても幸せそうに。テオも学園へ通わせてくださった父には感謝しないといけない。
テオは私が平等を期すために友人を作らないと思っているみたいだけど、そうじゃない。私に近付くとひとつ年上のエリザベート様から嫌がらせを受けるのだ。だからだれひとり私に話しかける人がいないだけ。
学園は憂鬱なところだった。けれどテオが居てくれるだけ多少は安心できる。私は公女だ。この国で皇后様、側妃様に次ぐ地位を持つ公爵家の娘。
母は私を産んですぐ産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。けれど、それもあり父は私に対してよそよそしいところがある。きっと最愛の女性を殺した娘を嫌っているのかもしれない。けれどそれを口や態度に出したり愛人を作るような人でなかったことは私にとって大きな救いだった。
そして、生まれてすぐに政治的な事情でピョートル殿下の婚約者となった。ピョートル殿下はけっして悪い人ではない。けれど私を彼が愛することがないことを知っている。義務を守らない人では、ないけれど私の冷えた心をあたためてくれる訳ではない。勿論、貴族の娘が愛の有る結婚を出来るなんて夢を見ている訳ではない。私をないがしろにはしない、義務を果たすだけピョートル殿下はマシである。けれど、母も兄弟もいない、父からもピョートル殿下からも興味を持たれていない、幼い日の私は、愛にとても飢えていた。
そんな時に街角でボロボロになっている薄汚れた男の子を拾った。彼の名前はテオドール。苗字のない平民の子。
家に連れて帰って、綺麗にして食事を与えてあげたら彼はそれはそれは美しい王子様のようになった。だから昔は私はテオのことを拾った通りの名前を拝借して「ガラクタ通りの王子様」と呼んでいた。
テオの母親は娼婦で、テオの父親が誰かは分からないという。テオを拾ったときに、実はその側に腐乱した遺体があった。その遺体こそが病で死んだ母親でテオはその側を動けずに雨水で飢えを凌いでいたが私に出会ったとき遂に限界が来て死にかけていたのだという。愛情が深い故に母親の側から離れられなかったその子が私にはとても眩しく見えて、同時にこの子なら私を愛してくれると確信した。だから……
「大丈夫よ、これからは貴方は私に仕えるの、お願いテオ側にいてね??」
「うん、わかった。ずっと側にいる」
そう答えて指切りをした。そこから私とテオの関係ははじまった。主従関係ではあるし、それ以上になってはいけない。たとえ永遠に愛されなくっても私はピョートル殿下とそのうち結婚して王子妃になるのだから。
しかし、そんな時にアレクサンドル様が私の家を訪れるようになった。元々はお茶会でテオをアレクサンドル様が酷く気に入ってしまったのが原因だった。
アレクサンドル様は頻繁に、テオを自分の側付きやら側近に欲しがるのだがそれを父がなんとか躱してくれている。申し訳ないがテオだけは誰にも譲るつもりがない。テオを失ったら私はまた孤独な公爵家の娘に戻ってしまう。けれどテオがいればもう二度とそうならないし、無意味な愛を求めることもない。
アレクサンドル様を私が好きになることは絶対にない。
テオを好きだと知っているからでもそういう性的趣向の人だからではない。それよりも私の人生に大きな影が落ちている原因がアレクサンドル様だと私は知ってしまったのだ。それでも私の未解決事件調査などという猟奇趣味の同好の士であるため、友人として彼とは接しているし、テオをなぜか異常に愛している彼が、私を愛することもないのでその関係はこのまま平穏に続くと考えている。
けれど、時々不安になる。それは……
「エカチェリーナ、君に話がある」
目の前に現れた、ピョートル殿下は相変わらず無表情だ。
「分かりました。お昼にサロンでお話しいたしましょう」
流石に教室できっと重要だろう話をしたくはなかった。
「では、またランチの時間に迎えにくる」
そう言って立ち去る背中を見送りながら私は小さく「貴方も苦しいでしょうね」と労いの言葉を呟いた。
そう言って笑うテオに私は微笑み返す。黄金のような美しい髪にサファイアのような瞳。外見だけ見ればテオは王子様にしか見えない。アレクサンドル様とも話したが、エリザベート様やその取り巻きの嫌がらせがあるのであまり学園は好きではないけれど登校拒否など公爵家の娘がするわけにはいかない。
「もちろんよ」
静かに微笑み返すとテオが目を細める、とても幸せそうに。テオも学園へ通わせてくださった父には感謝しないといけない。
テオは私が平等を期すために友人を作らないと思っているみたいだけど、そうじゃない。私に近付くとひとつ年上のエリザベート様から嫌がらせを受けるのだ。だからだれひとり私に話しかける人がいないだけ。
学園は憂鬱なところだった。けれどテオが居てくれるだけ多少は安心できる。私は公女だ。この国で皇后様、側妃様に次ぐ地位を持つ公爵家の娘。
母は私を産んですぐ産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。けれど、それもあり父は私に対してよそよそしいところがある。きっと最愛の女性を殺した娘を嫌っているのかもしれない。けれどそれを口や態度に出したり愛人を作るような人でなかったことは私にとって大きな救いだった。
そして、生まれてすぐに政治的な事情でピョートル殿下の婚約者となった。ピョートル殿下はけっして悪い人ではない。けれど私を彼が愛することがないことを知っている。義務を守らない人では、ないけれど私の冷えた心をあたためてくれる訳ではない。勿論、貴族の娘が愛の有る結婚を出来るなんて夢を見ている訳ではない。私をないがしろにはしない、義務を果たすだけピョートル殿下はマシである。けれど、母も兄弟もいない、父からもピョートル殿下からも興味を持たれていない、幼い日の私は、愛にとても飢えていた。
そんな時に街角でボロボロになっている薄汚れた男の子を拾った。彼の名前はテオドール。苗字のない平民の子。
家に連れて帰って、綺麗にして食事を与えてあげたら彼はそれはそれは美しい王子様のようになった。だから昔は私はテオのことを拾った通りの名前を拝借して「ガラクタ通りの王子様」と呼んでいた。
テオの母親は娼婦で、テオの父親が誰かは分からないという。テオを拾ったときに、実はその側に腐乱した遺体があった。その遺体こそが病で死んだ母親でテオはその側を動けずに雨水で飢えを凌いでいたが私に出会ったとき遂に限界が来て死にかけていたのだという。愛情が深い故に母親の側から離れられなかったその子が私にはとても眩しく見えて、同時にこの子なら私を愛してくれると確信した。だから……
「大丈夫よ、これからは貴方は私に仕えるの、お願いテオ側にいてね??」
「うん、わかった。ずっと側にいる」
そう答えて指切りをした。そこから私とテオの関係ははじまった。主従関係ではあるし、それ以上になってはいけない。たとえ永遠に愛されなくっても私はピョートル殿下とそのうち結婚して王子妃になるのだから。
しかし、そんな時にアレクサンドル様が私の家を訪れるようになった。元々はお茶会でテオをアレクサンドル様が酷く気に入ってしまったのが原因だった。
アレクサンドル様は頻繁に、テオを自分の側付きやら側近に欲しがるのだがそれを父がなんとか躱してくれている。申し訳ないがテオだけは誰にも譲るつもりがない。テオを失ったら私はまた孤独な公爵家の娘に戻ってしまう。けれどテオがいればもう二度とそうならないし、無意味な愛を求めることもない。
アレクサンドル様を私が好きになることは絶対にない。
テオを好きだと知っているからでもそういう性的趣向の人だからではない。それよりも私の人生に大きな影が落ちている原因がアレクサンドル様だと私は知ってしまったのだ。それでも私の未解決事件調査などという猟奇趣味の同好の士であるため、友人として彼とは接しているし、テオをなぜか異常に愛している彼が、私を愛することもないのでその関係はこのまま平穏に続くと考えている。
けれど、時々不安になる。それは……
「エカチェリーナ、君に話がある」
目の前に現れた、ピョートル殿下は相変わらず無表情だ。
「分かりました。お昼にサロンでお話しいたしましょう」
流石に教室できっと重要だろう話をしたくはなかった。
「では、またランチの時間に迎えにくる」
そう言って立ち去る背中を見送りながら私は小さく「貴方も苦しいでしょうね」と労いの言葉を呟いた。
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