これはとても円満な婚約破棄のお話し~色々ありましたがほぼみんな幸せです

ひよこ麺

文字の大きさ
6 / 10

05.孤独な心と愛する人と(エカチェリーナ視点)

しおりを挟む
「お嬢様、何かあれば必ず僕が守りますので言ってくださいね、命にかえても貴方は僕がお守りします」

そう言って笑うテオに私は微笑み返す。黄金のような美しい髪にサファイアのような瞳。外見だけ見ればテオは王子様にしか見えない。アレクサンドル様とも話したが、エリザベート様やその取り巻きの嫌がらせがあるのであまり学園は好きではないけれど登校拒否など公爵家の娘がするわけにはいかない。

「もちろんよ」
静かに微笑み返すとテオが目を細める、とても幸せそうに。テオも学園へ通わせてくださった父には感謝しないといけない。

テオは私が平等を期すために友人を作らないと思っているみたいだけど、そうじゃない。私に近付くとひとつ年上のエリザベート様から嫌がらせを受けるのだ。だからだれひとり私に話しかける人がいないだけ。

学園は憂鬱なところだった。けれどテオが居てくれるだけ多少は安心できる。私は公女だ。この国で皇后様、側妃様に次ぐ地位を持つ公爵家の娘。

母は私を産んですぐ産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。けれど、それもあり父は私に対してよそよそしいところがある。きっと最愛の女性を殺した娘を嫌っているのかもしれない。けれどそれを口や態度に出したり愛人を作るような人でなかったことは私にとって大きな救いだった。

そして、生まれてすぐに政治的な事情でピョートル殿下の婚約者となった。ピョートル殿下はけっして悪い人ではない。けれどことを知っている。義務を守らない人では、ないけれど私の冷えた心をあたためてくれる訳ではない。勿論、貴族の娘が愛の有る結婚を出来るなんて夢を見ている訳ではない。私をないがしろにはしない、義務を果たすだけピョートル殿下はマシである。けれど、母も兄弟もいない、父からもピョートル殿下からも興味を持たれていない、幼い日の私は、愛にとても飢えていた。

そんな時に街角でボロボロになっている薄汚れた男の子を拾った。彼の名前はテオドール。苗字のない平民の子。

家に連れて帰って、綺麗にして食事を与えてあげたら彼はそれはそれは美しい王子様のようになった。だから昔は私はテオのことを拾った通りの名前を拝借して「ガラクタ通りの王子様」と呼んでいた。

テオの母親は娼婦で、テオの父親が誰かは分からないという。テオを拾ったときに、実はその側に腐乱した遺体があった。その遺体こそが病で死んだ母親でテオはその側を動けずに雨水で飢えを凌いでいたが私に出会ったとき遂に限界が来て死にかけていたのだという。愛情が深い故に母親の側から離れられなかったその子が私にはとても眩しく見えて、同時にこの子なら私を愛してくれると確信した。だから……

「大丈夫よ、これからは貴方は私に仕えるの、お願いテオ側にいてね??」

「うん、わかった。ずっと側にいる」

そう答えて指切りをした。そこから私とテオの関係ははじまった。主従関係ではあるし、それ以上になってはいけない。たとえ永遠に愛されなくっても私はピョートル殿下とそのうち結婚して王子妃になるのだから。

しかし、そんな時にアレクサンドル様が私の家を訪れるようになった。元々はお茶会でテオをアレクサンドル様が酷く気に入ってしまったのが原因だった。

アレクサンドル様は頻繁に、テオを自分の側付きやら側近に欲しがるのだがそれを父がなんとか躱してくれている。申し訳ないがテオだけは誰にも譲るつもりがない。テオを失ったら私はまた孤独な公爵家の娘に戻ってしまう。けれどテオがいればもう二度とそうならないし、無意味な愛を求めることもない。

アレクサンドル様を私が好きになることは絶対にない。

テオを好きだと知っているからでもそういう性的趣向の人だからではない。それよりも私の人生に大きな影が落ちている原因がアレクサンドル様だと私は知ってしまったのだ。それでも私の未解決事件調査などという猟奇趣味の同好の士であるため、友人として彼とは接しているし、テオをなぜか異常に愛している彼が、私を愛することもないのでその関係はこのまま平穏に続くと考えている。

けれど、時々不安になる。それは……

「エカチェリーナ、君に話がある」

目の前に現れた、ピョートル殿下は相変わらず無表情だ。

「分かりました。お昼にサロンでお話しいたしましょう」

流石に教室できっと重要だろう話をしたくはなかった。

「では、またランチの時間に迎えにくる」

そう言って立ち去る背中を見送りながら私は小さく「貴方も苦しいでしょうね」と労いの言葉を呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。 ※小説家になろうにも投稿しています

あなただけが頼りなの

こもろう
恋愛
宰相子息エンドだったはずのヒロインが何か言ってきます。 その時、元取り巻きはどうするのか?

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

乙女ゲームの世界だと知っていても

竹本 芳生
恋愛
悪役令嬢に生まれましたがそれが何だと言うのです。

旦那様は、転生後は王子様でした

編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。 まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。 時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。 え?! わたくし破滅するの?! しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

処理中です...