これはとても円満な婚約破棄のお話し~色々ありましたがほぼみんな幸せです

ひよこ麺

文字の大きさ
7 / 10

06.賢いお嬢様と婚約破棄の打診とそれが難しいという現実の話

しおりを挟む
お嬢様が、ピョートル殿下に呼ばれたと聞いて念のため僕は付き添いでサロンへやってきた。サロンは一部の生徒が事前に申請することで貸し切りにできる部屋、自由な貸しスペースのようなものと考えてほしい。

なお、貸し切りが申請できる生徒は伯爵位以上と定められていて、高位貴族のみということになるため、大体いつも開いている。

その部屋のそこそこ豪華な調度品の中にある、会議用のテーブルに、無表情でお嬢様とピョートル殿下が向かい合って座っている。その状態で10分ほどお互いへの簡単な挨拶の後、沈黙している。

(これはなんの我慢大会なのだろう……)

そんなことを考え始めた頃にやっとピョートル殿下が口火を切った。

「単刀直入に言おう、俺との婚約を破棄してほしい」

静まり返っているサロンに低いピョートル殿下の声が、響いた。人払いはされているので誰かに聞かれることはない。けれど、それはとても学園で話す内容ではないと思ってしまった。

むしろ、婚約破棄ってお嬢様やピョートル殿下の一存ではどうにもならないと思うんだよな。そこはお嬢様に付き従うものとして勉強をしていた。

そもそもピョートル殿下が、お嬢様と婚約している理由はミハイロフ公爵家の後ろ盾を得る口実であり、その婚約破棄はピョートル殿下だけでなくアレクサンドル殿下も後ろ盾を失うというかなり良くない状態になる。

そうなると、現在の王宮内の勢力図も変わり、今は皇太子にならないとされているボリス殿下が皇太子になる可能性まで出てしまう。その場合、かのエリザベート様の派閥の勢力も強まり実によくない結果を招いてしまう。

「お断りいたします」

その言葉をばっさりとお嬢様がきる。あっさりとした拒絶に無表情なピョートル殿下の顔が一瞬歪んだ。

(まぁ、そうだよね。そもそもお嬢様には諸々の権利はないし、それにお互いのために愛とかなくっても婚約は継続すべきだからね)

「何故だ、君は俺を愛していない。君には愛している人がいる、その人と結ばれた方が幸せになれるはずだ」

「ピョートル殿下、私は愛のために結婚するなどということを考えておりません。それに今私と殿下が婚約を破棄すれば、それこそバザロフ公爵家の思うつぼです。殿下はそのことについてお分かりになっているはずですが」

「ああ。だからだ。俺より、君は兄上、アレクサンドル皇太子と婚約した方が幸せではないのか??」

まるで血反吐でも吐くようにそう告げた、ピョートル殿下。その言葉で僕は大体の意図を理解する。この人は皇太子とお嬢様が愛し合っていると考えている。何度も誤解だとは言っているが若い男女が婚約者が片方にいるのに会っているというのは誤解を生むのは仕方ない。

「つまり相手を変えろということですか」

「そうだ、その方がお互いに……」

「むしろ、ピョートル殿下は本当にそれで宜しいのですか??正直な話、私は貴方でもアレクサンドル様でも愛のない結婚をすることには変わりません。ならば皇后になるよりも、このままで良いと考えておりますが……」

その言葉にピョートル殿下の目が見開く、それは驚愕の表情である。

「しかし、兄上は君を……」

「誤解が晴れないのですね。何度も申しますがアレクサンドル様も私を愛しているのではありませんよ。だからピョートル殿下がおっしゃった愛ある結婚という目的は果たせませんし、アレクサンドル様と婚約を結び直すのは意味のないことですわ。むしろよくない噂の的になるだけです、例えば、私が婚約を反故にしてその兄と婚約を結び直したふしだらな女だとか、アレクサンドル様が弟から婚約者を奪った酷い男だとか」

その言葉にみるみる、ピョートル殿下が青ざめる。僕はしみじみ思うのだ。この人はとても純粋でまっすぐな人だと。賢さは別として立場の差がなければ友人にするにはこういう誠実な人が良いのではないかと。

ただ、僕はあくまで下僕の身。そんなことは永遠にあり得ないのだけれど。その後はただ、特にお互い話すこともないまま別れた。なんとも言い難いもやもやだけが残る話し合いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誕生日前日に届いた王子へのプレゼント

アシコシツヨシ
恋愛
誕生日前日に、プレゼントを受け取った王太子フランが、幸せ葛藤する話。(王太子視点)

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

あなただけが頼りなの

こもろう
恋愛
宰相子息エンドだったはずのヒロインが何か言ってきます。 その時、元取り巻きはどうするのか?

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

旦那様は、転生後は王子様でした

編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。 まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。 時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。 え?! わたくし破滅するの?! しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...