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06.賢いお嬢様と婚約破棄の打診とそれが難しいという現実の話
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お嬢様が、ピョートル殿下に呼ばれたと聞いて念のため僕は付き添いでサロンへやってきた。サロンは一部の生徒が事前に申請することで貸し切りにできる部屋、自由な貸しスペースのようなものと考えてほしい。
なお、貸し切りが申請できる生徒は伯爵位以上と定められていて、高位貴族のみということになるため、大体いつも開いている。
その部屋のそこそこ豪華な調度品の中にある、会議用のテーブルに、無表情でお嬢様とピョートル殿下が向かい合って座っている。その状態で10分ほどお互いへの簡単な挨拶の後、沈黙している。
(これはなんの我慢大会なのだろう……)
そんなことを考え始めた頃にやっとピョートル殿下が口火を切った。
「単刀直入に言おう、俺との婚約を破棄してほしい」
静まり返っているサロンに低いピョートル殿下の声が、響いた。人払いはされているので誰かに聞かれることはない。けれど、それはとても学園で話す内容ではないと思ってしまった。
むしろ、婚約破棄ってお嬢様やピョートル殿下の一存ではどうにもならないと思うんだよな。そこはお嬢様に付き従うものとして勉強をしていた。
そもそもピョートル殿下が、お嬢様と婚約している理由はミハイロフ公爵家の後ろ盾を得る口実であり、その婚約破棄はピョートル殿下だけでなくアレクサンドル殿下も後ろ盾を失うというかなり良くない状態になる。
そうなると、現在の王宮内の勢力図も変わり、今は皇太子にならないとされているボリス殿下が皇太子になる可能性まで出てしまう。その場合、かのエリザベート様の派閥の勢力も強まり実によくない結果を招いてしまう。
「お断りいたします」
その言葉をばっさりとお嬢様がきる。あっさりとした拒絶に無表情なピョートル殿下の顔が一瞬歪んだ。
(まぁ、そうだよね。そもそもお嬢様には諸々の権利はないし、それにお互いのために愛とかなくっても婚約は継続すべきだからね)
「何故だ、君は俺を愛していない。君には愛している人がいる、その人と結ばれた方が幸せになれるはずだ」
「ピョートル殿下、私は愛のために結婚するなどということを考えておりません。それに今私と殿下が婚約を破棄すれば、それこそバザロフ公爵家の思うつぼです。殿下はそのことについてお分かりになっているはずですが」
「ああ。だからだ。俺より、君は兄上、アレクサンドル皇太子と婚約した方が幸せではないのか??」
まるで血反吐でも吐くようにそう告げた、ピョートル殿下。その言葉で僕は大体の意図を理解する。この人は皇太子とお嬢様が愛し合っていると考えている。何度も誤解だとは言っているが若い男女が婚約者が片方にいるのに会っているというのは誤解を生むのは仕方ない。
「つまり相手を変えろということですか」
「そうだ、その方がお互いに……」
「むしろ、ピョートル殿下は本当にそれで宜しいのですか??正直な話、私は貴方でもアレクサンドル様でも愛のない結婚をすることには変わりません。ならば皇后になるよりも、このままで良いと考えておりますが……」
その言葉にピョートル殿下の目が見開く、それは驚愕の表情である。
「しかし、兄上は君を……」
「誤解が晴れないのですね。何度も申しますがアレクサンドル様も私を愛しているのではありませんよ。だからピョートル殿下がおっしゃった愛ある結婚という目的は果たせませんし、アレクサンドル様と婚約を結び直すのは意味のないことですわ。むしろよくない噂の的になるだけです、例えば、私が婚約を反故にしてその兄と婚約を結び直したふしだらな女だとか、アレクサンドル様が弟から婚約者を奪った酷い男だとか」
その言葉にみるみる、ピョートル殿下が青ざめる。僕はしみじみ思うのだ。この人はとても純粋でまっすぐな人だと。賢さは別として立場の差がなければ友人にするにはこういう誠実な人が良いのではないかと。
ただ、僕はあくまで下僕の身。そんなことは永遠にあり得ないのだけれど。その後はただ、特にお互い話すこともないまま別れた。なんとも言い難いもやもやだけが残る話し合いだった。
なお、貸し切りが申請できる生徒は伯爵位以上と定められていて、高位貴族のみということになるため、大体いつも開いている。
その部屋のそこそこ豪華な調度品の中にある、会議用のテーブルに、無表情でお嬢様とピョートル殿下が向かい合って座っている。その状態で10分ほどお互いへの簡単な挨拶の後、沈黙している。
(これはなんの我慢大会なのだろう……)
そんなことを考え始めた頃にやっとピョートル殿下が口火を切った。
「単刀直入に言おう、俺との婚約を破棄してほしい」
静まり返っているサロンに低いピョートル殿下の声が、響いた。人払いはされているので誰かに聞かれることはない。けれど、それはとても学園で話す内容ではないと思ってしまった。
むしろ、婚約破棄ってお嬢様やピョートル殿下の一存ではどうにもならないと思うんだよな。そこはお嬢様に付き従うものとして勉強をしていた。
そもそもピョートル殿下が、お嬢様と婚約している理由はミハイロフ公爵家の後ろ盾を得る口実であり、その婚約破棄はピョートル殿下だけでなくアレクサンドル殿下も後ろ盾を失うというかなり良くない状態になる。
そうなると、現在の王宮内の勢力図も変わり、今は皇太子にならないとされているボリス殿下が皇太子になる可能性まで出てしまう。その場合、かのエリザベート様の派閥の勢力も強まり実によくない結果を招いてしまう。
「お断りいたします」
その言葉をばっさりとお嬢様がきる。あっさりとした拒絶に無表情なピョートル殿下の顔が一瞬歪んだ。
(まぁ、そうだよね。そもそもお嬢様には諸々の権利はないし、それにお互いのために愛とかなくっても婚約は継続すべきだからね)
「何故だ、君は俺を愛していない。君には愛している人がいる、その人と結ばれた方が幸せになれるはずだ」
「ピョートル殿下、私は愛のために結婚するなどということを考えておりません。それに今私と殿下が婚約を破棄すれば、それこそバザロフ公爵家の思うつぼです。殿下はそのことについてお分かりになっているはずですが」
「ああ。だからだ。俺より、君は兄上、アレクサンドル皇太子と婚約した方が幸せではないのか??」
まるで血反吐でも吐くようにそう告げた、ピョートル殿下。その言葉で僕は大体の意図を理解する。この人は皇太子とお嬢様が愛し合っていると考えている。何度も誤解だとは言っているが若い男女が婚約者が片方にいるのに会っているというのは誤解を生むのは仕方ない。
「つまり相手を変えろということですか」
「そうだ、その方がお互いに……」
「むしろ、ピョートル殿下は本当にそれで宜しいのですか??正直な話、私は貴方でもアレクサンドル様でも愛のない結婚をすることには変わりません。ならば皇后になるよりも、このままで良いと考えておりますが……」
その言葉にピョートル殿下の目が見開く、それは驚愕の表情である。
「しかし、兄上は君を……」
「誤解が晴れないのですね。何度も申しますがアレクサンドル様も私を愛しているのではありませんよ。だからピョートル殿下がおっしゃった愛ある結婚という目的は果たせませんし、アレクサンドル様と婚約を結び直すのは意味のないことですわ。むしろよくない噂の的になるだけです、例えば、私が婚約を反故にしてその兄と婚約を結び直したふしだらな女だとか、アレクサンドル様が弟から婚約者を奪った酷い男だとか」
その言葉にみるみる、ピョートル殿下が青ざめる。僕はしみじみ思うのだ。この人はとても純粋でまっすぐな人だと。賢さは別として立場の差がなければ友人にするにはこういう誠実な人が良いのではないかと。
ただ、僕はあくまで下僕の身。そんなことは永遠にあり得ないのだけれど。その後はただ、特にお互い話すこともないまま別れた。なんとも言い難いもやもやだけが残る話し合いだった。
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