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第二章:海の国と呪われた血筋

閑話:太陽狂いの悪夢02(ヴァーミリオン公爵視点)

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ルイーズは太陽だった。彼女と過ごすだけでとても幸福だった。彼女が隣にいるだけで私はいつも笑うことができた。

ルイーズも最初は私を快くは思っていなかったかもしれないが、多分絆されたのだろう。熱烈に愛を乞う私に彼女は折れてくれた。

体中から狂おしいほどの愛があふれているというのはとても不思議なものだった。だから、そのルイーズとの愛しい我が子が出来た時は泣いていた。きっと後にも先にも涙を流したのはあの時だけだ。

身重のルイーズにお腹に耳を寄せて、これから生まれてくるふたりの子供を楽しみにしていた。

彼女は花が好きで、母国から沢山の花を持ってきて、我が家の庭に植えた。四季を彩る見たことのない花がとても美しく、特に私はアジサイが好きだった。

雨の中で色を深める姿がなんともいえず幻想的で、よくルイーズとふたりでそれを眺めて笑い合った。しかし、私は自分があまりに幸福なため忘れていたのだ。私のこのルイーズへの愛を許せない人が存在することを。

それから間もなく、ルイーズは彼女によく似た女の子を産んだ。ルイーズが父王ルイ様の女性名を名前にしたように、レミリアは私レミントンの女性名を名付けた。それはサンソレイユではもっとも祝福された子供への名づけなのだという。はじめて彼女を抱きしめた時、何があっても守ると強く誓ったのを覚えている。

「太陽の娘」とはサンソレイユ皇帝の娘であるから本来ならレミリアにはその力はないはずだった。しかし、レミリアはルイーズ同様にを受け継いだ。そしてその姿も父である私より祖父である皇帝に似ていた。

レミリアを見た王室は騒ぎになった。それはサンソレイユ帝国でも同じだった。彼女は皇帝の子ではなく孫であったが太陽神の祝福を受けた「太陽の娘」に間違いなかった。

そのため、すぐに話し合いが持たれた。帝国はレミリアの返却を求めた。彼の祖父である現皇帝は泣く泣く手放した娘に生き写しであり、自分にもよく似ているレミリアが可愛かったのだろう。しかし、流石に親元から離すのはよくないと一旦はあきらめてくれた。

しかし、問題はアトラス王国の王家だった。丁度生まれて2年たつクリストファー王子は呪いにかかっていた。そのため、レミリアと婚約をしたいと申し入れられたのだ。王家からの申し入れを断るなどできない。しかし果たしてそれがレミリアを幸福にできるのか非常に悩ましいところだった。

レミリアが生まれてしばらくの間はとても幸福な日々が続いた。しかし、その幸福は長くは続かなかった。ルイーズが病に倒れたのだ。

最初は風邪のような症状だったが、じわじわと彼女は弱っていった。

ありとあらゆる手を尽くしたが、ルイーズの病の原因は掴めなかった。日に日に衰弱していくルイーズの手を握りしめながらただ生きて欲しいと願った。けれど……

ルイーズはレミリアの2歳の誕生日の翌日に亡くなった。

ルイーズを失くした喪失感から、しばらく呆然としていたが可愛い娘のために頑張らねばと2歳になった愛娘を抱きしめた時、今までレミリアに対して感じていた娘への慈しみの感情とは違う沸き立つような異常な感情に支配されたのだ。

まだ幼いレミリアのその全てをと感じた。それはとても覚えのある感情だが少なくとも幼い娘に抱く類のものではない。けれどその衝動が抑えきれず、気付けば私はレミリアにキスをしていた。それは慈しむやさしいものではなく、情欲を孕んだ口づけを……。

「何をしているの!!レミントン、レミリアから離れなさい!!」
私の異常に気付いた母がレミリアを取り上げてくれたおかげで、正気を取り戻した。

(私は、レミリアに何をしようとした??)

それは恐ろしい感情、完全に私はレミリアに触れただけで彼女をいままで慈しんできた娘を

あまりの恐ろしい所業に私は震えがとまらなかった。それから古い文献を漁り、呪われた者達の中でもっとも呪われた存在である「太陽狂い」について行き着いた。

「太陽狂い」とは呪われたものが一度「太陽」を得てから失った場合に起こる現象であり、私はそれに侵されてしまったらしい。しかもこの「太陽狂い」は常に「太陽」の代わりを求めるという性質があるようで、私はルイーズという「太陽」を失くしたため、レミリアという「太陽」を代わりにしよとしている状態であることが分かった。

それはつまり、私は今後、可愛い娘に娘ではなく「太陽」として執着するという恐ろしい事実だった。それはつまり娘を確実に不幸にするという恐ろしい宣告だった。

(レミリア、だめだ、私は、レミリアを……)

「太陽狂い」について知った母は私とレミリアは離れるべきだと、別宅へレミリアを連れて行ってしまった。それからしばらくの地獄を私は一生忘れることができない。

ルイーズの形跡を少しでも感じたくて、屋敷の中のルイーズの関する全てのものを集めた、そして、ただ、その中で泣き喚いた。全てが虚しい行為であるのに、それでも止めることができなかった。

そんなことをしばらく続けていたある日、ふっと脳がクリアになる瞬間が訪れた。その瞬間、今後も同じことを繰り返さないために、まずルイーズの思い出の品を彼女の母国の家族に形見として送るか、もしくはそれ以外はほぼ全て焼き払った。たったひとつを除いて。

そのたったひとつはルイーズが私と婚約した際に国から持ってきた大きな琥珀だった。ルイーズの瞳に似ているそれはとても美しく彼女が一番大切にしていた宝石だった。

「ねぇ、レミー、私にとってこの琥珀はとても大切なものなの。私も母から引き継いだからレミリアがお嫁に行くときはこれを必ず持たせてあげたいわ」

その言葉が何度もよみがえりどうしても手元からそれだけは離すことができなかった。いつかレミリアがお嫁に行く日に必ず渡そうと誓い私は厳重に金庫の中にそれを保存した。

ルイーズの死後、どうしてもルイーズの死が受け入れられずその死因を執念深く調べ続けていた。その結果、奇妙なことに気づいた。

それは、最初風邪のようだったルイーズの症状は、まるで医者から薬を受け取る度に衰弱が酷くなっていったようだったということだ。

そして、ルイーズの病を治すために雇ったこの国で一番腕の立つ医師が元の婚約者である、メリッサ・サラ・マゼンタの親戚であるという事実を知った時、ひとつの仮説が浮かんだ。

ルイーズを殺したのはメリッサではないかという考えたくない仮説を……
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