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第四章:太陽の国と皇太子

67.月の国の不幸令嬢

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レミリアはまた、悪夢に魘されていた。その夢は最後に誰かに刺される夢。そして誰かわからないその人の声がルーファスのような気がする夢。それを繰り返し見続けている。

「どうして、私、こんな夢をみるのかな……」

ムーンティア王国に来てから、時の止まった国はいつも静寂に包まれている。けれどルーファスとヨミと過ごす日常はあたたかく幸せでレミリアがずっと求めていたものだった。

だからこそ、ずっとここに居たいと思っているのになぜか、悪夢を見続けている。

ルーファスもヨミも今は丁度いない。少し出かけると言い残していってしまった。一緒に行きたかったが、それは難しいらしく留守番を頼まれていた。

(そう言えば、ルーファスの部屋に入ってはいけないって以前言われたわね……)

沈丁花の香りのするその部屋がずっとレミリアは気になっていた。

(でも、勝手に入るのはやっぱりだめよね……)

ルーファスの部屋。沈丁花の香りがしているその部屋。嫌がっていたから入るのは当然だめだと理性ではわかっている。けれど……。

(中に入らないでのぞくだけなら……)

レミリアは自然とルーファスの部屋のある区画に向かっていた。美しい象牙の回廊をゆっくりと歩く。

(今ならまだ引き返せる)

後ろめたい気持ちから何度もそう考えるが、どうしても気になっているという好奇心を抑えることができなかった。そして、沈丁花の香りが漂う区画へたどり着く。

(この中がルーファスの部屋……)

とても大きな象牙の扉が目の前に見えた。まるで外界から閉ざしているような閉塞感を感じた。その扉は引き戸のようでレミリアは押してみた。しかし、びくともしない。

「鍵が掛かっているのかな?」

そう首を傾げた時だった。レミリアの背後から奇妙な足音が聞こえた。

ヒタヒタヒタ

まるで何か濡れているような足音だった。そして、この城の中で聞いたことのないような異質さを持っていた。

「な、なに」

レミリアは怖くなるが、隠れるところがないので立ち尽くす。

ヒタヒタヒタ

その音はだんだん、レミリアに近付いてくる。

(こないで、お願い……)

しかし、レミリアの願望虚しく、その足音はそれはレミリアの前に現れた。とても虚ろな紫の瞳をした男性だった。

なんとなく面差しがヨミに似ているような気がする、優し気な綺麗な人だが、生気のない顔色をしていて、何より何故か裸足だ。

「あ、あの……」

レミリアは恐る恐る声をかける。しかし、男は反応しない。良く耳を澄ますと何かささやいている。

「どこだい、どこにいるんだい」
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