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第6話 悪意が招いた悲劇(大公視点)
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小さな頃に、私の教育係が頭を撫でながら話してくれたことを思い出していた。
「殿下、悪いことをしたら必ず報いが返ってくるのです。だから、良いことをして下さい。良いこともまた、返ってくるのです」
あたたかい日差しの中で、聞いたその言葉はいつしか私の行動指針になっていた。
皇帝である兄と母を同じくする私は、大公になることが生まれながらに決まっていた。
それでも努力を怠らずに良い行いを意識したことで、結果的に多くの幸せに恵まれた。
特に、最愛の妻に出会い、恋愛での結婚を許された私は本当に幸せだった。
皇帝である兄は、身分違いの恋をしたが結果的に政略結婚を優先せざるを得なかった。
それが、全ての悲劇の始まりだった。
兄は皇帝としてとても優秀だったが、最愛の人を守ることはできなかった。
政略結婚した皇后は皇帝が寵愛し続けた子爵令息に嫌がらせをし続けた。それはとても陰湿で、結果的に彼の死に繋がったと今も後悔している。
私は当時、妻との蜜月に酔いしれて普段のような他者への善行を行う余裕がなく、その状況を知りながら何もしなかったのだ。
一度、子爵令息が私に助けを求めたことがあった。
「大公殿下、もうすぐ私の子が生まれますがこのままでは殺されてしまう。どうか、ほんの少しだけで構いません、ご助力をいただけませんか」
「すまないが、私にできることはない」
子を守ろうとする必死さを感じながらも私は
かの子爵令息に救いの手を差し伸べなかった。
その結果、悲劇を引き起こすことになるなど考えてもいなかった。
悲劇が判明したのは、フェリックスが兄に進言して、エリックの代わりに隣国へ嫁いで行った日だった。
エリック可愛さに私は、フェリックスを人身御供にしたのだ。
フェリックスは長年、母である子爵令息が皇后から虐待されていたように、虐待されていることが判明し、私は彼への償いをするようにフェリックスを甥として大切に扱った。
フェリックスとエリックは同い年で、見た目だけならば何も言わなければ双子のようによく似ていた。違うのはフェリックスには泣きぼくろがあり、エリックにはないというくらいだ。
しかし、エリックが私の甘やかしでわがままなのに対して、フェリックスはおとなしく謙虚だった。
だから、私がフェリックスの保護観察者になってから、エリックはフェリックスに嫌がらせをしてしまった。
それを諫めるとエリックは機嫌が悪くなったが、私は息子を諫めた。
「フェリックスはお前の従兄弟だが、母親の身分のせいでずっと酷い目に遭ってきたんだ。だからエリック、将来大公になるお前は彼に優しくしてやらないといけない」
ノブレス・オブリージュの精神を教えるつもりで諭した。
今はフェリックスは第二皇子だが、母親の身分や皇后のこともあり臣下降嫁は免れないだろう。
そうなれば、エリックは身分が上になるのだからフェリックスを虐げるべきではないと考えたからだ。
しかし、フェリックスは嫌がらせがなくなった、たった3年で奇跡のように花開いた。
エリックがいまだに理解していない勉学を修め、皇族に必要なマナーも全て完璧にしたのだ。
まさに、天才と呼ぶに相応しい。そして、そんな天才であり、愛しい人の忘れ形見の息子を皇帝陛下は以前の反省から目にかけるようになり、その結果、本来なら臣下降嫁よりよいだろうとフェリックスが候補になっただろう隣国への政略結婚の役割がエリックに降ったのだ。
私は、絶望した。
妻が出産後、すぐに意識を失ってからずっと大切にしてきた息子を、償いのためにと引き受けた甥っ子の功績により奪われた。
あの日、フェリックスの元を訪れた私には打算があった。
何も知らずに私を父のように慕う賢いフェリックスならば、これを話せば兄に話をしてくれるだろうと。
案の定、フェリックスは私への恩のために自らエリックの代わりを買って出てくれた。
そして、私の安寧が保たれたと思った時、その報告が入った。
なんと妻が目覚めたと言うのだ。
奇跡に感謝しながら駆けつけると、痩せこけた妻が涙を浮かべながら叫んだ。
「私の息子は、私の息子はどこ!?」
私は喜びに涙を流しながら、その手を握り一緒に病室を訪れたエリックを呼んだ。
「スタシス、ああ、目を覚ましたのか。君は18年も眠っていたんだよ。この子があの日君が産んだ息子のエリックだ」
その言葉にエリックの顔をまじまじとみた妻が叫んだ。
「違う!!この子は私が産んだ子じゃない。クリス、私の子はどこにいったの??」
妻は叫び続け半狂乱になったので、私はその日一度エリックと家に帰った。
その後、再び妻の元を訪れた時に私は1枚の古い写真を差し出された。写真は、この国のしきたりで出産後すぐに母子を写したボーンフォトと呼ばれるものだった。
本来は母子の退院時に渡されるが妻が意識を失っていたためずっと放置されていた。
「どうしてこれを……」
「クリス、よくみて赤ちゃんの顔を」
促されるままに見た赤子の顔。それは幼いエリックそのものに見えた。しかし、しばらく見ていてある違和感に気づいた。
「これは、この子には……」
「クリスと同じ泣きぼくろがあるでしょう?私はこの子を産んだ時それが嬉しかった。それなのに貴方が私の子だと言ったエリックにはそれがない」
その言葉を聞いた瞬間に、今まで感じたことのない恐怖が湧き上がった。
私は、私達によく似た泣きぼくろのある子を知っている。そして、あの日の子爵令息の必死の訴えを反故にしたことも……。
その瞬間、ひとつの可能性にたどり着いた。
皇族や大公家は特別な場所で出産する。誕生日の同じふたりは同じ場所の別の個室にいた。
そして、自らの子を殺される可能性を考えた母親と意識を失ってしまった母親。
入れ替えが行われた可能性……。
その瞬間、私は崩れ落ちた。自らの策略で身代わりにした、してしまった甥っ子。
ずっと虐待を受けていた甥っ子……、それが私の本当の息子だったというのか。
『……叔父上、エリックでは隣国で問題を起こすでしょう。だから僕が隣国へ嫁ぐと皇帝陛下に話をしてみます』
寂しげに微笑んだ私と同じ泣きぼくろのあるその顔を思い出した瞬間、私は発狂した。
フェリックスが、フェリックスこそが私の息子だったのだ。それなのに私は気づかずにエリック可愛さに地獄へと送ってしまったのだ。
「どうしたの、クリス??」
「取り戻さなければ、息子を、フェリックスを!!」
状況の捉えられない妻を置き去りに私は隣国へ向かうことを決意した。
「殿下、悪いことをしたら必ず報いが返ってくるのです。だから、良いことをして下さい。良いこともまた、返ってくるのです」
あたたかい日差しの中で、聞いたその言葉はいつしか私の行動指針になっていた。
皇帝である兄と母を同じくする私は、大公になることが生まれながらに決まっていた。
それでも努力を怠らずに良い行いを意識したことで、結果的に多くの幸せに恵まれた。
特に、最愛の妻に出会い、恋愛での結婚を許された私は本当に幸せだった。
皇帝である兄は、身分違いの恋をしたが結果的に政略結婚を優先せざるを得なかった。
それが、全ての悲劇の始まりだった。
兄は皇帝としてとても優秀だったが、最愛の人を守ることはできなかった。
政略結婚した皇后は皇帝が寵愛し続けた子爵令息に嫌がらせをし続けた。それはとても陰湿で、結果的に彼の死に繋がったと今も後悔している。
私は当時、妻との蜜月に酔いしれて普段のような他者への善行を行う余裕がなく、その状況を知りながら何もしなかったのだ。
一度、子爵令息が私に助けを求めたことがあった。
「大公殿下、もうすぐ私の子が生まれますがこのままでは殺されてしまう。どうか、ほんの少しだけで構いません、ご助力をいただけませんか」
「すまないが、私にできることはない」
子を守ろうとする必死さを感じながらも私は
かの子爵令息に救いの手を差し伸べなかった。
その結果、悲劇を引き起こすことになるなど考えてもいなかった。
悲劇が判明したのは、フェリックスが兄に進言して、エリックの代わりに隣国へ嫁いで行った日だった。
エリック可愛さに私は、フェリックスを人身御供にしたのだ。
フェリックスは長年、母である子爵令息が皇后から虐待されていたように、虐待されていることが判明し、私は彼への償いをするようにフェリックスを甥として大切に扱った。
フェリックスとエリックは同い年で、見た目だけならば何も言わなければ双子のようによく似ていた。違うのはフェリックスには泣きぼくろがあり、エリックにはないというくらいだ。
しかし、エリックが私の甘やかしでわがままなのに対して、フェリックスはおとなしく謙虚だった。
だから、私がフェリックスの保護観察者になってから、エリックはフェリックスに嫌がらせをしてしまった。
それを諫めるとエリックは機嫌が悪くなったが、私は息子を諫めた。
「フェリックスはお前の従兄弟だが、母親の身分のせいでずっと酷い目に遭ってきたんだ。だからエリック、将来大公になるお前は彼に優しくしてやらないといけない」
ノブレス・オブリージュの精神を教えるつもりで諭した。
今はフェリックスは第二皇子だが、母親の身分や皇后のこともあり臣下降嫁は免れないだろう。
そうなれば、エリックは身分が上になるのだからフェリックスを虐げるべきではないと考えたからだ。
しかし、フェリックスは嫌がらせがなくなった、たった3年で奇跡のように花開いた。
エリックがいまだに理解していない勉学を修め、皇族に必要なマナーも全て完璧にしたのだ。
まさに、天才と呼ぶに相応しい。そして、そんな天才であり、愛しい人の忘れ形見の息子を皇帝陛下は以前の反省から目にかけるようになり、その結果、本来なら臣下降嫁よりよいだろうとフェリックスが候補になっただろう隣国への政略結婚の役割がエリックに降ったのだ。
私は、絶望した。
妻が出産後、すぐに意識を失ってからずっと大切にしてきた息子を、償いのためにと引き受けた甥っ子の功績により奪われた。
あの日、フェリックスの元を訪れた私には打算があった。
何も知らずに私を父のように慕う賢いフェリックスならば、これを話せば兄に話をしてくれるだろうと。
案の定、フェリックスは私への恩のために自らエリックの代わりを買って出てくれた。
そして、私の安寧が保たれたと思った時、その報告が入った。
なんと妻が目覚めたと言うのだ。
奇跡に感謝しながら駆けつけると、痩せこけた妻が涙を浮かべながら叫んだ。
「私の息子は、私の息子はどこ!?」
私は喜びに涙を流しながら、その手を握り一緒に病室を訪れたエリックを呼んだ。
「スタシス、ああ、目を覚ましたのか。君は18年も眠っていたんだよ。この子があの日君が産んだ息子のエリックだ」
その言葉にエリックの顔をまじまじとみた妻が叫んだ。
「違う!!この子は私が産んだ子じゃない。クリス、私の子はどこにいったの??」
妻は叫び続け半狂乱になったので、私はその日一度エリックと家に帰った。
その後、再び妻の元を訪れた時に私は1枚の古い写真を差し出された。写真は、この国のしきたりで出産後すぐに母子を写したボーンフォトと呼ばれるものだった。
本来は母子の退院時に渡されるが妻が意識を失っていたためずっと放置されていた。
「どうしてこれを……」
「クリス、よくみて赤ちゃんの顔を」
促されるままに見た赤子の顔。それは幼いエリックそのものに見えた。しかし、しばらく見ていてある違和感に気づいた。
「これは、この子には……」
「クリスと同じ泣きぼくろがあるでしょう?私はこの子を産んだ時それが嬉しかった。それなのに貴方が私の子だと言ったエリックにはそれがない」
その言葉を聞いた瞬間に、今まで感じたことのない恐怖が湧き上がった。
私は、私達によく似た泣きぼくろのある子を知っている。そして、あの日の子爵令息の必死の訴えを反故にしたことも……。
その瞬間、ひとつの可能性にたどり着いた。
皇族や大公家は特別な場所で出産する。誕生日の同じふたりは同じ場所の別の個室にいた。
そして、自らの子を殺される可能性を考えた母親と意識を失ってしまった母親。
入れ替えが行われた可能性……。
その瞬間、私は崩れ落ちた。自らの策略で身代わりにした、してしまった甥っ子。
ずっと虐待を受けていた甥っ子……、それが私の本当の息子だったというのか。
『……叔父上、エリックでは隣国で問題を起こすでしょう。だから僕が隣国へ嫁ぐと皇帝陛下に話をしてみます』
寂しげに微笑んだ私と同じ泣きぼくろのあるその顔を思い出した瞬間、私は発狂した。
フェリックスが、フェリックスこそが私の息子だったのだ。それなのに私は気づかずにエリック可愛さに地獄へと送ってしまったのだ。
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