白の部屋

迷空哀路

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2〈探索〉

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「じゃあ探索再開するね。この下も開けてみようか。あれ? あー鍵がかかってるみたいだ」
「そこのドアの横にある箱はなんだ」
この部屋にある高そうな家具には似合わないダンボールが三つ積み上げられている。
「これは食料みたいだね。缶詰とか乾パンみたいのとか。なんとか食いつなげるかな。食べる? あ、こっちは飲み物だね」
返事をする前に、わざわざストロー付きでペットボトルを持ってきた。
「眠らされていたから少し喉が乾いてるでしょ? 俺もさっき飲んだから多分大丈夫だと思うんだけど」
それでも少し抵抗があって、口を開くのを躊躇った。
「じゃあこれも少し飲んでみるね」
「おい、ちょっとは警戒しろ……」
中身を手の甲に出してそっと舐めた。一応変わった様子はない。
「……うん。とりあえず即効性のある毒でも薬でもなさそうだね。大丈夫だと思うよ」
軽く睨むと、いつものように少し苦味を混ぜたような笑みを作った。
「……はは、平気だよ」
必然的に距離が近くなって、ストローを掴んでいる指に口元が触れそうになる。それをこんな時に気にしているのがバカらしくなって、心の中で舌打ちをした。恐る恐るのつもりだったけど思った以上に喉が渇いていたのか、中身は半分ほどなくなっていた。
「もういい」
「うん。じゃあここに置いておくから、飲みたくなったら言ってね」
何事もなかったかのように、飄々といつもの態度に戻っていた。その姿にホッとするような、むかつくような妙な気分だ。誰にでも変わらず優しくて、みんなから信頼されているいつもの姿。
でも俺は知っている。本当は誰のことも大事に考えていないんだって。直接本人から聞いた訳じゃないけど見てたら分かる。自分達は悪い部分で少しだけ共通点があるような気がするから。でもいざ近くによると、自分にはしつこいぐらいの優しさが与えられる。みんなと同じように、それ以上に。
ただ年の離れた兄弟になったからって他人であることに変わりないんだし、気にかけてくれなくていいのにと思って突き放してしまう。その出来た姿を、気取ってるお前を見たくない。
「リツ、お腹も空いてる?」
「いや……で、他は?」
「うーん。あっちにも棚があるね。あれはまだ開けてないよ」
そういえばこいつはいつ起きたのだろう。本当に僅差だったのか、しらばっくれてるだけか。
部屋の奥の方にある二段ほどの棚。上は左右に開くタイプで、下は取っ手がついていた。
「リツ、これ……」
また難しい顔をして取り出したのは、新聞紙に包まれた何かだった。
「銃?」
その中にあったのはやけに装飾の施されたピストルと、血のような物がついたナイフ。どちらも本物だろうか? 偽物や玩具に見えるのはそうであってほしいと思っているからなのか。ただならぬ凶器を目の前に、二人で黙り込んでしまった。
どうしてこんな物が。状況は思っていたより深刻なのかもしれない。犯人はヤバイ奴なんじゃ……。
「あと……リツのサイズぐらいの服があったよ」
白い生地の物はパジャマだろうか、それも少し赤く染まっていた。
「ドア、ドアは……っ」
声が震えた。必死に扉の方を見ても、ナオの顔色は戻らない。
「……このドア本物じゃないんだ。横から見たら分かるけど、絵みたいで。描かれただけの、ただの壁の一部なんだ」
ドアに触れたナオの手は何にもぶつからない。
「嘘……」
目の前が部屋のせいだけでなく、真っ白になるようだった。逃げ道がないという事態が一気に襲いかかり、体の奥底から震えだす。どうにもならない状況に心が煽られる。なんで、どうして、誰が、なんで俺なんだ? 
「……っもう、嫌だ!」
「リツ」
その震えを止めたのは、自分より大きい体だった。暖かい。それだけ分かれば充分で、そっと名前を呼んだ。
「ナオ……」
「何があっても絶対にここから出してあげるから。リツは心配しないで」
不意に涙がじわりと滲んだ。できることなら巻き込みたくなかった、でもこいつでよかった気もする。幸い滲んだだけで、溢れはしなかった雫を見られないように顔を逸らして、唇を噛み締める。
「やっぱり何か食べておこうか」
ふっとなくなった体温の主を眺めていると冷静になってきた。少しナーバスになっていたのかもしれない。警戒するに越したことはないけど、こんな状態のままだと逆効果だ。
どれがいいかななんて呟きながら味を選んでいる姿は、ただマイペースな天然野郎ってだけなのかもしれない。それが良いのやら悪いのやら。
「はぁ……」
ここから出る方法はなんだろう。音は自分達以外には全く聞こえない。ドアがないということは、この部屋はどこかの部屋の中に作られているのかもしれない。音がしないのもこの壁が防音で、更にそれ以上に広い空間があるなら聞こえないのも当然だ。
ここは地下だろうか? こんなスペースを作れる家……。確かに広さはそこまでではないが、これを作るまでの手間はかなりかかっているだろう。一般人では無理だ。こんなものを作っても咎められない、更に自分達がいなくなっても問題にならないようにできる人物。
この部屋は手紙のこと信じるなら、俺の為に作られたものだろう。どれも新品のようだし、こんな異様な空間で生活しているとは考えられない。
俺たちは何日閉じ込められるんだ? 食料が無くなったら補給してくれるのか? このスペースを作る為にいくらかけた? そんな奴のことだ、ここに捜索が来るとも考えにくい。
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