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出会いと始まり
1.面白みのない日々さえも奪われた果てに
しおりを挟む誰もが現実を見据えずに夢を抱く少年時代。
その中でも一際大きな夢を語る少年がいた。
「席につきなさーい!」
先生の合図を聞くとクラスの生徒たちは一斉に座り始めた。
「今日はみんなに将来の夢を発表してもらいます」
「先生からおしえてよー」
「先生の夢か~。うーん、そうね!みんなが大人になったらお酒を一緒に飲むことかな?」
「ほんとにー??やくそくだよー!!」
たわいもないやりとりが続きクラスは和やかな雰囲気になった。先生は騒ぐ生徒たちに目をやると静かになるのを待ち話を戻した。
「それじゃあ廊下側の前の席から発表してもらいます。十文字くん!十文字隼人くん!前に出て」
「でた~空気人間!今日は学校に来てたのかよ~」
先生は注意をするが、他の生徒と一緒に笑っている。
ここはなんて胸糞悪い場所なんだ。そう思いつつも隼人は足を前に進めると重い口を開いた。
「僕の将来の夢は〝◎$♪×△¥●&″」
一瞬静まり帰った後に笑い声が教室中に響いた。
「アッヒャッヒャwwお前がそんなのできるわけないじゃん」
教室にいる全員が不敵な笑みを浮かべている。
こんな奴らなんか地獄にでも落ちてしまえ。そう心の中で叫んだ途端、フワフワと周りを包むように目覚ましの音が聴こえてきた。
リリリリリリリ♩
バシッ!!
「またこの夢か。」
そう呟くと隼人は寒い部屋のなかの布団からゆっくりと起き上がった。
高校を出てすぐに製造工場で働き始めた隼人は気づけばもう28歳になり、何気ない生活を淡々と繰り返していた。
だが、この退屈な生活にも遂に変化が訪れる。
8時30分 いつも通り仕事が始まる30分前のロッカールームで1人隼人は着替えを済ましていた。真面目なことだけが唯一の取り柄であり、そこを取ってしまったら何も残らないような凡人それが彼だった。
周りでは世間話がされているなか、隼人は内気なので社員の輪に入れず、仕事以外のところでは常に1人だった。
こんなバカな奴らと付き合ってもろくなことはない。と独り言を吐く隼人だが、最初は頑張って話に入ろうとしていた。これまで友達のいなかった隼人は結局話を弾ませられず、やっぱり俺には無理なんだと自分から壁をつくって諦めてしまった。
そんな彼の元に20歳近く年上の小太りの上司が歩み寄ってきた。
「ちょっといいかな十文字くん。あのさ、言いにくいんだけどさ、今日からもう来なくていいよ。うちもさ、経営が厳しくなってきたしさ、言われたことしかできないようなお高いロボットはさ、いらなくなったんだよ」
隼人は一瞬頭が真っ白になった。
我に返った隼人は上司に初めて声を張り上げて言い返した。
「おれは誰よりも一生懸命に働いてきました!やめさせるならそこにいるいつも仕事もせずに喋っているやつでいいじゃないか!」
「ほらでた。人のせい。君さ無口なくせに口を開けば人のせいにばっかするよね。そうゆうのさ、君がそういうことを言うたびに雰囲気が悪くなってるのがわからないかな。うちは吹けば飛ばされてしまうような会社だ。だからみんなで助け合ってるのにさ。
もうここに君の居場所なんてさ、ないんだよ」
「こんなところこっちからやめてやる」
作業着を投げ捨てるように脱ぎ、ロッカーを蹴りつけると足早に会社を出て行った。
人付き合いができなくて何が悪い。人のせいにして何が悪い。隼人の目からは悔しさで涙が滲んでいた。
家の近くの公園まで歩いて帰ってくると、近くのコンビニで大量に買った缶ビールの一つを開け、やけ酒が始まった。
飲み尽くしてはコンビニに戻り酒を買い足し、気づけば夜の11時になっていた。
「俺はなぁこれからビックになるんだよ」
側の道を通った通行人に大きな声で問いかけた。酒をを飲んで気持ちが大きくなるたびにこう言うのが隼人の癖だ。
心の底ではこう思っているが実際に行動に移したことがない。何をするにも自信がなく人の言われるがままに育ち、生きてきた。
そんな隼人にも一度だけ勇気を振り絞って夢を語り、そう生きようとしていた時期があった。
小学校五年生の時である。
夢を一人一人語ると言う授業の中で隼人は自分の理想を掲げていた。みんなに笑われたがその気持ちは強く持ち続けていた。
だがクラスのいじめの対象になり、空気呼ばわりされ続けた隼人はいつしかそんなことも忘れてしまった。
中学までいじめは続き、高校に入ってからはなるべく目立たないように生活していた。
ふと酔いからさめ、昔のことを思い返した隼人は、雲ひとつない夜空に向かってボソッと言葉をこぼした。
「俺は何がしたかったんだろう」
いくら思い出そうとしても勇気を振り絞って言ったあの将来の夢が思い出せない。
内容はまったく思い出せないけどその理想をめげずに掲げ続けていたなら今の俺とは違った人生を歩み、もっと明るい人生だったのかな。
「やりなおしたい。やりなおせるならどんなに辛くてもいいさ。こんな状況よりはきっとましにできる」
そう言った隼人の頭上にキラキラと光る粉のようなものが降りかかり、その後から少女のような声が聞こえた。
「私がチャンスをあげようか」
辺りをキョロキョロと見渡すと目の前に羽を生やした妖精のようなものがフワフワと飛んでいた。
大きさは飲み干したビールの500ml缶と同じくらい。
隼人は酔って夢の中にいるんだと思い込、その姿を見れば見るほどその美しさに虜になりこんな夢ならずっと見ていたい。そんな気分だった。
「これは夢じゃないよ!私のことが信じられないなら、ほっぺをつねったりひっぱたいたりしてみるといいわ」
隼人は顔が赤くなるまで頬をつねったが、いくら顔を痛めつけてもさめる気配がない。
「本当にこんなことってあるんだ」
そう隼人が呟くと妖精はこう続けた。
「私は大天使ミカエル様の使いにして妖精のピニー。あなたが十文字隼人ね。」
隼人は驚きを隠せない顔で頷く
「あなたの願い、ミカエル様によって聞き届けられました。よってあなたに違う人生を歩む権利を与えます。ですが、一度人生を変更したら戻ることはできません。方法はあるにはあるのですが…コホン!」
隼人は脳をフル回転させてこの妖精が現れる前に自分が何を言ったのかを時間を遡って必死に考えた。
「俺はビックになるんだよ?ちがう…こんなところやめてやる?…?それは遡りすぎか。……あ、どんなに辛くてもいいからやりなおしたい…??」
「せーいかーい!その願いがミカエル様に届いたんだよ!さて!どーする?選ぶのは君だよ」
悲しみに明け暮れていた隼人に選択肢など一つしかなかった。
「やりなお…す……やりなおします」
「君は一回人生を放り投げた身なんだ。これからそんなハッピーな人生が歩めるわけがない。それでもやると言うんだね?」
隼人は唾を飲み込み、緊張を交えながら頷いた。
「それでは誘おう!新たな旅へ!」
あたりに目も開けていられないほどの強烈な光が広がる。光の中心に西洋の門のようなものが下から浮かび上がってきた。
「ここをくぐり抜ければ君は新たな自分へと生まれ変わっている。さあ!いきなさい隼人!明るい未来を自分で掴みとるのよ!」
そう煽られると俺はその門を目掛けて思い切り走り出した。
俺はここから変わるんだ。みんなが羨むような暮らしを掴み取ってやる。
隼人の顔は希望に満ち溢れていた。
この先に待つ地獄がどのようなものかも知らずに…。
門をくぐるとそこには宇宙に近いような暗い空間が無限に広がっている。だが不思議と不安な気持ちになることはない。逆になぜか安心できるような空間だ。
遠くに光が差し込み、それに近づくように隼人の体も引き寄せられていった。
隼人はワクワクしたきもちが胸を突き出してきそうなくらいに高揚していた。
もうすぐだ…もうすぐ俺の新しい人生が…!
光はなくなり周りは闇に包まれた。
しばらくすると怒号が聞こえてきた。
「起きろオラァ!動かねぇなら殺しちまうぞ」
目が覚めるとそこには残酷な光景が飛び込んできた。
痩せて細くなり人とは言えないほどに弱り切った人たちが悪魔のような角の生えた男に鎖で繋がれ重労働をさせられている。
そして俺にももちろん鎖は繋がれていた。
「こんなことがあるのかよ………こんなの聞いてねぇよおぉおーーー!!!!」
そう。彼の転生した先は身分は奴隷だったのだ。
悲劇から更なる絶望である奴隷という淵に落とされながらも、そこから這い上がり、生きる意味と夢を探す十文字隼人という名の男の物語が幕を開ける。
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