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第一章:上京ガールの体温と東京の温度差
第一章の結び
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まるで長い、悪夢のようなトンネルをようやく抜け出したかのようだった。数週間にわたってプロジェクトチーム全体を苛み続けた深刻なシステムトラブルは、結城の的確かつ冷徹さすら感じさせる指揮と、ネクストリーム、鳩屋フーズ両社の担当者たちの、文字通り不眠不休、身を削るような努力によって、ついに、完全な解決へと至ったのだ。最終テストが無事に完了し、システムが安定稼働を始めたことを告げる緑色のランプが点灯した瞬間、作戦司令室と化していた会議室には、一瞬の静寂の後、誰からともなく、堰を切ったような安堵の声と、すすり泣きにも似た疲労困憊のため息、そして、抑えきれない歓声が沸き起こった。誰かが買ってきた安物のスパークリングワイン(もちろんノンアルコールだ)のポン!という気の抜けた音が、やけに大きく響いた。
その日の深夜、ほとんどのメンバーが、疲労と安堵感でふらふらになりながら帰路につく中、結城は、まだ一人残って最終報告書に目を通していた。そこに、忘れ物を取りに戻ってきたのか、小春が姿を見せた。彼女もまた、目の下に深いクマを作り、顔色は青白かったが、その表情には、憑き物が落ちたような、晴れやかな安堵の色が浮かんでいた。
「佐伯」 結城は、不意に、しかし静かな声で彼女を呼び止めた。 小春は、びくりと肩を震わせて振り返る。まだ、彼に対して反射的な警戒心が残っているのだろう。 「今回の件、ご苦労だった。特に、君が粘り強く鳩屋の各部署から引き出してくれた情報がなければ、解決はもっと長引いただろう。……助かった」 それは、結城にしては珍しく、率直で、具体的な労いの言葉だった。社交辞令や、単なる上司としての定型的な挨拶ではない。事実として、彼女の泥臭いまでの奮闘が、局面を打開する鍵となったことが何度かあった。それを、彼は、たとえ内心では不本意だったとしても、リーダーとして認め、伝える必要があった。いや、それだけではない。彼自身、彼女の予想外の貢献と、極限状況下で見せた驚くほどの粘り強さに、少なからず感銘を受けていたのかもしれない。 小春は、結城の言葉に、鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くして、数秒間、完全に固まっていた。それから、じわりと、彼女の大きな瞳に涙が Maku を張った。慌ててそれを手の甲で拭う。 「い、いえ! わ、私なんて、全然、そんな……! 結城さんこそ、本当に、本当にお疲れ様でした! 私、結城さんがいてくださらなかったら、もう、どうしたらいいか……」 しどろもどろになりながら、言葉を詰まらせながら、しかし、その顔には、隠しきれないほどの喜びと、安堵と、そして彼に対する純粋な尊敬の念が、ぱっと花が咲くように広がった。その、あまりにも素直で、無防備で、計算のかけらもない、感情の奔流のような笑顔。それを見た瞬間、結城の胸の奥深く、彼自身も気づいていない堅い氷の層に、微かな、しかし確かな亀裂が入ったような、奇妙な感覚が走った。 最初に感じた「物珍しい観察対象」としてのドライな興味とは、明らかに違う。トラブルの中で認識した「使える駒」としての功利的な評価とも、少し違う。それは、恋愛感情と呼ぶには、あまりにも不確かで、輪郭がぼやけていて、彼自身の理性では到底受け入れがたいものだ。ただ、何か、これまで彼の周りには決して存在しなかった種類の、制御不能な「熱」——それは純粋さか、ひたむきさか、あるいは、もっと根源的な生命力のようなものか——を、彼女という、取るに足らないと思っていたはずの存在から、はっきりと感じ取るようになっていた。そして、その「熱」が、時として彼の心を奇妙に波立たせ、彼の鉄壁の合理性や、計算された思考や行動のペースを、わずかに、しかし確実に乱し始めていることに、彼は気づき始めていた。 「(……これから、どうなる? いや、考えるだけ無駄だ。感傷はビジネスの敵だ)」 彼は、自分の内側に生じた、この説明不能な変化の兆しに戸惑いながらも、それを意識的に無視し、思考の隅へと追いやろうとした。合理的な判断ではない。だが、無意識のうちに、彼は今後の彼女との関わりに、ほんの少しだけ、これまでとは全く違う種類の——それは警戒心か、あるいは、彼自身も認めたくない、未知への期待か——を抱き始めていたのかもしれない。それは、彼の完璧にコントロールされた世界に差し込んだ、予期せぬ光、あるいは影のようだった。
(小春 視点) 結城さんに、直接、あんな風に労いの言葉をかけてもらえるなんて、夢にも思っていなかった。しかも、「君がいなければ」なんて。その一言が、この数週間の、地獄のような苦労や、押し潰されそうな不安を、まるで魔法のように、一瞬で吹き飛ばしてくれた。溢れそうになる涙を、必死で堪える。嬉しくて、ありがたくて、そして、少しだけ誇らしいような気持ちで、胸がいっぱいになった。あれだけ怖くて、冷たくて、自分とは住む世界が違う、近寄りがたいと思っていた人が、ほんの少しだけ、人間らしい温かさを見せてくれたような気がしたのだ。 もちろん、彼が依然として、厳しくて、妥協を許さない、超一流のビジネスパーソンであることに変わりはない。トラブル対応の間、彼の、どんな混乱の中でも失われない冷静沈着な判断力、複雑怪奇な問題を瞬時に整理し本質を見抜く洞察力、そしてどんな逆境にあっても決して諦めず、チームを鼓舞し続ける、カリスマ的なまでのリーダーシップを間近で目の当たりにして、彼に対する尊敬の念は、以前とは比べ物にならないほど強く、そして確かなものになっていた。 でも、それだけじゃない。深夜の誰もいないオフィスで、誰にも見られないようにそっと深くため息をつく姿や、私が差し入れた、コンビニの安物の栄養ドリンクを、黙って、しかし少しだけ眉間の皺を和らげて受け取る時の表情、そして、問題解決の決定的な糸口が見えた瞬間に見せた、ほんの一瞬の、まるで子供のような、純粋な安堵の顔。そういう、完璧な鎧の下に隠された、人間的な側面や、ふとした瞬間に垣間見える弱さのようなものに触れて、「この人も、スーパーマンなんかじゃない。私と同じように、悩んだり、疲れたり、プレッシャーを感じたりするんだ」と、当たり前のことなのに、初めて実感として感じ始めていた。 まだ、少し苦手意識はある。彼の纏う、鋭利で、あまりにも知的な空気は、やっぱり私には眩しすぎるし、時々、彼の言葉の裏に見え隠れする、容赦のない冷徹さや、徹底した合理主義に、心がヒリヒリと痛むこともある。でも、以前感じていたような、ただ怖い、近寄りがたい、という一方的な感情だけではなくなっていた。何か、もっと知りたい。彼の圧倒的な強さも、そして、時折垣間見える、人間的な弱さや、もしかしたら、その奥にあるかもしれない孤独も。それは、仕事の上で、彼からもっと多くのことを学びたい、吸収したいという、向上心に近い気持ちが大部分かもしれない。けれど、それだけではないような気がする。もう少しだけ、彼の近くにいて、彼のことをもっと理解してみたいという、淡い、名前のつけようのない好奇心のようなものが、たしかに、自分の中に芽生え始めているのを、戸惑いながらも感じていた。それは、尊敬なのか、興味なのか、あるいは、もっと別の何かにつながる感情の、ほんの小さな蕾なのかもしれない。 「(これから、プロジェクトが終わるまで、まだ、結城さんと一緒に仕事をしていくんだな……)」 その事実に、以前感じていたような、息が詰まるような重圧や、逃げ出したいような不安だけではなく、ほんの少しの緊張と、そして、ほんの少しの、これまでとは全く違う種類の、ドキドキするような期待が入り混じった、複雑な気持ちを抱いていた。
嵐のようなトラブル対応が過ぎ去り、プロジェクトは再び、日常の軌道に戻り始めた。共に極限的な時間を過ごしたことへの、二人の内心。それは、まだ到底、恋とは呼べない、名前のない感情の、微かな予感と、静かな戸惑い。結城にとっては「興味深い観察対象」から「無視できない、心を乱す、何か違う存在」への、不本意ながらも認めざるを得ない変化の兆し。小春にとっては「少し苦手だが尊敬すべき上司」から「もっと知りたい、もっと近くで見ていたい、気になる存在」への、戸惑いながらも否定できない心の動き。
東京という巨大な都市の、高層ビルの片隅で、偶然出会ってしまった二人。冷たく理性的で、成功の裏に満たされない何かを抱える若き経営者と、地方から出てきたばかりの純粋で真っ直ぐな、しかし意外な芯の強さを見せ始めた新人OL。あまりにも違う世界の住人である二人の歯車が、予期せぬトラブルという名の、激しい摩擦と熱を経て、少しずつ、軋みながらも、しかし確実に、噛み合い始める。
これから、二人の関係は、どこへ向かっていくのだろうか。一度入った亀裂は、元通りになるのか、それとも、さらに広がっていくのか。結城の心の奥底に凍てついた、孤独と不信の氷壁は、小春の持つ、不器用だが真摯で、そして予想外に強い「体温」によって、本当に溶かされることがあるのだろうか。それとも、東京という街が持つ、抗いがたい引力と、成功者を蝕む「毒」が、彼女の純粋さを少しずつ変え、彼と同じ色に染めていってしまうのだろうか。あるいは、その両方が、複雑に絡み合いながら、二人を、そして彼らを取り巻く東京の景色を、変えていくのだろうか。
まだ、誰にも分からない。本人たちにさえも。ただ、確かなことは、あの日、あの瞬間から、二人にとって、そして二人を取り巻く東京の「温度」は、もう決して、以前と同じではあり得ないということだけだ。
読者の胸に、そんな、甘さだけではない、少しだけビターで、そしてスリリングな期待と、これから始まるであろう、一筋縄ではいかない大人の恋の物語への強い予感を残して、第一章の幕は、静かに下りる。
その日の深夜、ほとんどのメンバーが、疲労と安堵感でふらふらになりながら帰路につく中、結城は、まだ一人残って最終報告書に目を通していた。そこに、忘れ物を取りに戻ってきたのか、小春が姿を見せた。彼女もまた、目の下に深いクマを作り、顔色は青白かったが、その表情には、憑き物が落ちたような、晴れやかな安堵の色が浮かんでいた。
「佐伯」 結城は、不意に、しかし静かな声で彼女を呼び止めた。 小春は、びくりと肩を震わせて振り返る。まだ、彼に対して反射的な警戒心が残っているのだろう。 「今回の件、ご苦労だった。特に、君が粘り強く鳩屋の各部署から引き出してくれた情報がなければ、解決はもっと長引いただろう。……助かった」 それは、結城にしては珍しく、率直で、具体的な労いの言葉だった。社交辞令や、単なる上司としての定型的な挨拶ではない。事実として、彼女の泥臭いまでの奮闘が、局面を打開する鍵となったことが何度かあった。それを、彼は、たとえ内心では不本意だったとしても、リーダーとして認め、伝える必要があった。いや、それだけではない。彼自身、彼女の予想外の貢献と、極限状況下で見せた驚くほどの粘り強さに、少なからず感銘を受けていたのかもしれない。 小春は、結城の言葉に、鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くして、数秒間、完全に固まっていた。それから、じわりと、彼女の大きな瞳に涙が Maku を張った。慌ててそれを手の甲で拭う。 「い、いえ! わ、私なんて、全然、そんな……! 結城さんこそ、本当に、本当にお疲れ様でした! 私、結城さんがいてくださらなかったら、もう、どうしたらいいか……」 しどろもどろになりながら、言葉を詰まらせながら、しかし、その顔には、隠しきれないほどの喜びと、安堵と、そして彼に対する純粋な尊敬の念が、ぱっと花が咲くように広がった。その、あまりにも素直で、無防備で、計算のかけらもない、感情の奔流のような笑顔。それを見た瞬間、結城の胸の奥深く、彼自身も気づいていない堅い氷の層に、微かな、しかし確かな亀裂が入ったような、奇妙な感覚が走った。 最初に感じた「物珍しい観察対象」としてのドライな興味とは、明らかに違う。トラブルの中で認識した「使える駒」としての功利的な評価とも、少し違う。それは、恋愛感情と呼ぶには、あまりにも不確かで、輪郭がぼやけていて、彼自身の理性では到底受け入れがたいものだ。ただ、何か、これまで彼の周りには決して存在しなかった種類の、制御不能な「熱」——それは純粋さか、ひたむきさか、あるいは、もっと根源的な生命力のようなものか——を、彼女という、取るに足らないと思っていたはずの存在から、はっきりと感じ取るようになっていた。そして、その「熱」が、時として彼の心を奇妙に波立たせ、彼の鉄壁の合理性や、計算された思考や行動のペースを、わずかに、しかし確実に乱し始めていることに、彼は気づき始めていた。 「(……これから、どうなる? いや、考えるだけ無駄だ。感傷はビジネスの敵だ)」 彼は、自分の内側に生じた、この説明不能な変化の兆しに戸惑いながらも、それを意識的に無視し、思考の隅へと追いやろうとした。合理的な判断ではない。だが、無意識のうちに、彼は今後の彼女との関わりに、ほんの少しだけ、これまでとは全く違う種類の——それは警戒心か、あるいは、彼自身も認めたくない、未知への期待か——を抱き始めていたのかもしれない。それは、彼の完璧にコントロールされた世界に差し込んだ、予期せぬ光、あるいは影のようだった。
(小春 視点) 結城さんに、直接、あんな風に労いの言葉をかけてもらえるなんて、夢にも思っていなかった。しかも、「君がいなければ」なんて。その一言が、この数週間の、地獄のような苦労や、押し潰されそうな不安を、まるで魔法のように、一瞬で吹き飛ばしてくれた。溢れそうになる涙を、必死で堪える。嬉しくて、ありがたくて、そして、少しだけ誇らしいような気持ちで、胸がいっぱいになった。あれだけ怖くて、冷たくて、自分とは住む世界が違う、近寄りがたいと思っていた人が、ほんの少しだけ、人間らしい温かさを見せてくれたような気がしたのだ。 もちろん、彼が依然として、厳しくて、妥協を許さない、超一流のビジネスパーソンであることに変わりはない。トラブル対応の間、彼の、どんな混乱の中でも失われない冷静沈着な判断力、複雑怪奇な問題を瞬時に整理し本質を見抜く洞察力、そしてどんな逆境にあっても決して諦めず、チームを鼓舞し続ける、カリスマ的なまでのリーダーシップを間近で目の当たりにして、彼に対する尊敬の念は、以前とは比べ物にならないほど強く、そして確かなものになっていた。 でも、それだけじゃない。深夜の誰もいないオフィスで、誰にも見られないようにそっと深くため息をつく姿や、私が差し入れた、コンビニの安物の栄養ドリンクを、黙って、しかし少しだけ眉間の皺を和らげて受け取る時の表情、そして、問題解決の決定的な糸口が見えた瞬間に見せた、ほんの一瞬の、まるで子供のような、純粋な安堵の顔。そういう、完璧な鎧の下に隠された、人間的な側面や、ふとした瞬間に垣間見える弱さのようなものに触れて、「この人も、スーパーマンなんかじゃない。私と同じように、悩んだり、疲れたり、プレッシャーを感じたりするんだ」と、当たり前のことなのに、初めて実感として感じ始めていた。 まだ、少し苦手意識はある。彼の纏う、鋭利で、あまりにも知的な空気は、やっぱり私には眩しすぎるし、時々、彼の言葉の裏に見え隠れする、容赦のない冷徹さや、徹底した合理主義に、心がヒリヒリと痛むこともある。でも、以前感じていたような、ただ怖い、近寄りがたい、という一方的な感情だけではなくなっていた。何か、もっと知りたい。彼の圧倒的な強さも、そして、時折垣間見える、人間的な弱さや、もしかしたら、その奥にあるかもしれない孤独も。それは、仕事の上で、彼からもっと多くのことを学びたい、吸収したいという、向上心に近い気持ちが大部分かもしれない。けれど、それだけではないような気がする。もう少しだけ、彼の近くにいて、彼のことをもっと理解してみたいという、淡い、名前のつけようのない好奇心のようなものが、たしかに、自分の中に芽生え始めているのを、戸惑いながらも感じていた。それは、尊敬なのか、興味なのか、あるいは、もっと別の何かにつながる感情の、ほんの小さな蕾なのかもしれない。 「(これから、プロジェクトが終わるまで、まだ、結城さんと一緒に仕事をしていくんだな……)」 その事実に、以前感じていたような、息が詰まるような重圧や、逃げ出したいような不安だけではなく、ほんの少しの緊張と、そして、ほんの少しの、これまでとは全く違う種類の、ドキドキするような期待が入り混じった、複雑な気持ちを抱いていた。
嵐のようなトラブル対応が過ぎ去り、プロジェクトは再び、日常の軌道に戻り始めた。共に極限的な時間を過ごしたことへの、二人の内心。それは、まだ到底、恋とは呼べない、名前のない感情の、微かな予感と、静かな戸惑い。結城にとっては「興味深い観察対象」から「無視できない、心を乱す、何か違う存在」への、不本意ながらも認めざるを得ない変化の兆し。小春にとっては「少し苦手だが尊敬すべき上司」から「もっと知りたい、もっと近くで見ていたい、気になる存在」への、戸惑いながらも否定できない心の動き。
東京という巨大な都市の、高層ビルの片隅で、偶然出会ってしまった二人。冷たく理性的で、成功の裏に満たされない何かを抱える若き経営者と、地方から出てきたばかりの純粋で真っ直ぐな、しかし意外な芯の強さを見せ始めた新人OL。あまりにも違う世界の住人である二人の歯車が、予期せぬトラブルという名の、激しい摩擦と熱を経て、少しずつ、軋みながらも、しかし確実に、噛み合い始める。
これから、二人の関係は、どこへ向かっていくのだろうか。一度入った亀裂は、元通りになるのか、それとも、さらに広がっていくのか。結城の心の奥底に凍てついた、孤独と不信の氷壁は、小春の持つ、不器用だが真摯で、そして予想外に強い「体温」によって、本当に溶かされることがあるのだろうか。それとも、東京という街が持つ、抗いがたい引力と、成功者を蝕む「毒」が、彼女の純粋さを少しずつ変え、彼と同じ色に染めていってしまうのだろうか。あるいは、その両方が、複雑に絡み合いながら、二人を、そして彼らを取り巻く東京の景色を、変えていくのだろうか。
まだ、誰にも分からない。本人たちにさえも。ただ、確かなことは、あの日、あの瞬間から、二人にとって、そして二人を取り巻く東京の「温度」は、もう決して、以前と同じではあり得ないということだけだ。
読者の胸に、そんな、甘さだけではない、少しだけビターで、そしてスリリングな期待と、これから始まるであろう、一筋縄ではいかない大人の恋の物語への強い予感を残して、第一章の幕は、静かに下りる。
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