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第三章:東京の毒と、二人の選択
結城と小春、それぞれの葛藤
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ネクストリーム社を揺るがす巨大な嵐は、衰えるどころか、日を追うごとに、その勢いを増し、容赦なく結城 創の築き上げてきた帝国を蝕んでいった。連日連夜、メディアによる、憶測と悪意に満ちた執拗な報道が繰り返され、世論は完全に「ネクストリーム=悪」という方向に誘導されていた。株主や主要取引先からの、信頼を失ったことによる突き上げは日に日に厳しさを増し、水面下では、複数の集団代表訴訟の準備が着々と進められているという情報も、弁護士団からもたらされていた。さらに、ここぞとばかりに、ライバル企業による、優秀な人材の引き抜き工作も、露骨なまでに激化していた。結城 創は、まさに四面楚歌、内憂外患、絶体絶命とも言える状況の中で、眠る時間、食事をする時間さえも惜しみ、会社の存続と、そして失墜した自らの社会的生命を守るための、孤独で、壮絶な戦いを、歯を食いしばりながら強いられていた。しかし、彼を、そしておそらくは彼自身を最も深く苦しめていたのは、それらの目に見える、対処可能な(と彼は信じようとしていた)ビジネス上の危機だけではなかった。それと並行して、あるいは、それ以上に深刻な形で、彼の内面の世界では、佐伯 小春という、たった一人の女性の存在を巡る、もう一つの、そして出口の見えない、激しい葛藤が、彼の精神を、じわじわと、しかし確実に蝕み続けていたのだ。
(結城 視点) 「(…切り捨てるべきだ。今すぐ、この瞬間に。合理的に、冷徹に考えれば、それ以外の選択肢は、本来、存在しないはずだ)」 深夜、窓の外の、眠らない東京の灯りとは対照的に、重く、息が詰まるような静寂に支配された社長室で、山積みになった訴訟関連の忌まわしい資料と、悪化の一途を辿る、見るのも悍ましい財務レポートの数字を睨みつけながら、結城の頭の中では、冷徹で、計算高く、そして成功のためには全てを犠牲にしてきたはずの「古い自分」の声が、悪魔の囁きのように、繰り返し、繰り返し、響いていた。佐伯小春。彼女の存在そのものが、今の、この、崖っぷちに立たされた自分にとって、百害あって一利もない、致命的なアキレス腱だ。何の力も、何の資産も、何の社会的背景も持たない、世間知らずの、地方出身の、ただの小娘。彼女との、まだ名前さえつけられない、形にもなっていない、曖昧で、そしておそらくは極めて脆い関係。それは、この、会社の存亡が、文字通り風前の灯火である、一分一秒が勝敗を分ける戦いの中では、あまりにも不必要で、非生産的で、そして危険極まりないノイズでしかないのだ、と。 綾香が言ったこと、あの老獪な政治家が示唆したこと。それは、彼のプライドを深く傷つけ、激しい怒りを覚えさせたが、同時に、冷厳な事実として、ある側面では真実を突いていた。今の自分に必要なのは、この窮地を覆すための、強力な武器となるコネクションや、莫大な資金力を持つ、計算高く、そして「利用価値」のあるパートナーだ。決して、守ってやらねばならないような、か弱い、そして何の具体的なメリットももたらさない、世間から見れば取るに足らない存在などではない。彼女の存在は、ただでさえ地に落ちた世間の評判に、さらに「色恋沙汰にうつつを抜かす、脇の甘い経営者」という、格好の、そして致命的なゴシップネタを提供するリスクにしかならない。そして、何よりも、彼女のことを考え、彼女の存在に心を揺さぶられている、この時間そのものが、今の自分には、許されざる、致命的な「無駄」なのだ。彼女の顔を思い浮かべるたびに、自分の判断が、コンマ数秒、確実に鈍る。思考の切れ味が、明らかに乱れる。あの、不可解な安堵感や、温かい感情。あれは、極度のストレスと睡眠不足が見せた、脳のバグだ。ただの錯覚だ。危険な感傷だ。弱さの現れだ。そして、弱さは、この世界では、敗北と同義だ。 「(そうだ、思い出せ、結城 創。お前は、勝つために生まれてきたんだろうが! 負け犬になるために、ここまで来たわけじゃないだろう! 生き残るためには、非情になれ。昔のお前は、そうやって勝ってきたはずだ。感情など殺せ。心など捨てろ。利用できるものは、人間であろうと、なんだろうと、全て利用しろ。そして、切り捨てるべきものは、たとえそれが何であろうと、一瞬の躊躇もなく切り捨てろ。それが、成功者の条件だろうが! それが、お前、結城 創という人間の、本質だろうが!)」 彼は、過去に、成功という名の祭壇に、どれほどのものを捧げてきたことか。信じていたはずの友情も、受けたはずの恩義も、そして時には、自分自身の良心や、人間性のかけらさえも、ビジネス上の「合理的な判断」という名の下に、躊躇なく切り捨ててきた。そうやって、この、誰もが羨むはずの地位と富を、その手で掴み取ってきたのだ。なぜ、今になって、たった一人の、社会的な物差しで測れば、何の価値もないはずの女のために、その、血と汗で築き上げてきた、成功のための鉄の原則を、いとも簡単に曲げる必要があるというのだ? 馬鹿げている。狂気の沙汰だ。彼は、自分自身を、まるで壊れかけた機械を叱咤するかのように、奮い立たせようとした。今すぐ、彼女に、何らかの形で連絡を取り(プロジェクトが中断しているため、直接的な連絡手段は限られているが)、もう二度と自分に関わらないように、と冷たく、そして決定的に言い放つべきだ。あるいは、今後、彼女から何らかのアプローチがあったとしても、完全に、鉄の意志で無視を決め込むべきだ。それが、最も合理的で、最もリスクが低く、そして最も「正しい」選択のはずだ。そうすれば、この、まるで麻薬のように、自分を蝕み、判断力を鈍らせる、不可解な感情の揺らぎからも、きっと解放されるだろう、と。
だが、何度そう決意しても、何度そう自分に命令しても、結局、彼は、それを行うことができなかった。 頭では、それが正しいと、生き残るためにはそれしかないと、分かっているのに。彼が長年かけて鍛え上げてきたはずの、冷徹な理性が、そう明確に命じているのに。彼の指は、スマートフォンの画面に表示された、彼女の(もはや暗記してしまっている)連絡先を、どうしても削除することができない。拒絶の、あるいは別れのメッセージを、何度タイプしては消し、タイプしては消し、結局、送信ボタンを押すことができないのだ。 そして、意識的に、彼女のことを考えるのを止めようとすればするほど、逆に、彼女の姿が、声が、笑顔が、そして、あの、全てを包み込むように、ただ静かに、彼の言葉を受け止めてくれた、温かい共感の眼差しが、まるで脳裏に焼き付いたフィルムのように、鮮明に、そして時には激しい痛みを伴って、彼の記憶の中に、繰り返し、繰り返し蘇ってくるのだ。 彼女が、慣れない手つきで、しかし一生懸命に淹れてくれた、あの、ぬるいインスタントコーヒーの、何とも言えない味。彼女が、週末に焼いたという、少し不格好な、しかし手作りの温もりが感じられるクッキーの、素朴で、優しい甘さ。深夜の、誰もいないオフィスで、彼が思わず漏らしてしまった、誰にも見せたことのない弱音を、ただ静かに、受け止めてくれた、あの時の、彼女の、驚くほど落ち着いた、そして深い共感に満ちた表情。それらが、まるで、彼が失ってしまった、あるいは最初から持っていなかったのかもしれない、人間としての「良心」や「温もり」を象徴するかのように、彼の、成功という名の鎧の下で、荒みきって、乾ききっていたはずの心の奥底に、いつの間にか、深く、そして決して消し去ることのできない、温かい染みのように、刻み込まれてしまっている。 そして、彼は、その度に、愕然として気づいてしまうのだ。自分が、心の底から本当に恐れているのは、もはや、ビジネスで再起不能なまでに失敗することや、築き上げてきた富や名声を全て失うことだけではないのかもしれない、と。それ以上に、いや、もしかしたら、それ以上に、佐伯小春という、たった一つの、しかし彼にとっては、もはや、どんな成功や富よりも、かけがえのないものになりつつある、特別な繋がりを、自らの手で断ち切り、そして永遠に失ってしまうこと。それこそが、今の彼にとって、想像を絶するほどの、耐え難い苦痛と、そして、生きる意味すらをも失わせかねない、深い、深い絶望をもたらすのではないか、と。 馬鹿な。ありえない。彼は、その考えが浮かぶたびに、まるで汚物でも振り払うかのように、激しく頭を振った。自分が、これほどまでに、脆く、弱く、そして、一人の人間に——それも、世間的な基準で言えば、何の取り柄もないような、ただの小娘に——感情的に依存し始めているという、信じがたい事実。それは、彼にとって、会社の存続の危機以上に、恐ろしく、そして受け入れがたい、自己矛盾であり、自己存在の崩壊の始まりを意味していた。成功だけが、自分の価値の証明だと信じて生きてきた。孤独こそが、他者に依存しない、絶対的な強さの源だと信じてきた。その、彼が生涯をかけて築き上げてきたはずの、唯一無二の価値観が、今、佐伯小春という、たった一人の、偶然出会っただけの存在によって、根底から、そしてあまりにも無防備に、激しく揺さぶられているのだ。 彼は、この二つの、完全に相反する、しかしどちらも抗いがたいほど強力な力——全てを犠牲にしてでも、このビジネスという名の戦場で生き残り、再び頂点に立とうとする、彼の本質である、冷徹な生存本能と、彼女との繋がりだけは、何があっても失いたくない、守り抜きたいと願う、生まれて初めて感じるような、切実で、しかし非合理的な、人間的な感情——の、巨大な引力の狭間で、文字通り、激しく引き裂かれそうになりながら、出口のない、暗い葛藤の迷宮を、眠れない夜ごと、たった一人で、彷徨い続けていた。どちらを選んでも、何かを決定的に失うことになる。その、あまりにも重い現実に、彼は、押し潰されそうになっていた。
(小春 視点) プロジェクトが公式に中断され、結城さんと直接会うことも、業務上の連絡を取ることさえも、会社の指示によって禁じられてしまってから、小春の日々は、まるで色褪せた写真のように、単調で、そして出口の見えない、重苦しいものへと変わっていた。会社に行けば、以前は活気のあったフロアも、どこか沈滞した空気が漂い、同僚たちは、腫れ物に触るかのように、ネクストリーム社の話題や、ましてや結城さんの名前を口にすることを避け、彼女に対しても、どこか同情と好奇の入り混じった、しかし明確な距離を置いているように感じられた。それが、彼女をさらに孤独にした。 そして、仕事が終わって、一人、狭いアパートの部屋に帰れば、テレビやインターネットには、依然として、結城さんや彼の会社に対する、非難や憶測、時には人格攻撃に近いような、ネガティブで、扇情的な報道が、飽きることなく溢れている。その、悪意に満ちた情報を見るたびに、彼女の心は、まるで鈍い、しかし鋭い痛みを発するかのように、ずきり、ずきりと疼いた。そして、あの、ネクストリーム社の、冷たくて、豪華なロビーで耳にした、あの、忘れようとしても忘れられない、侮蔑的な言葉が、まるで悪夢のように、彼女の頭の中で、繰り返し、繰り返し、反響するのだった。「地方出身の新人OL」「場末の安っぽいメロドラマ」「今の彼にお似合い」。その言葉が、彼女の、なけなしの自尊心を、容赦なく打ち砕き、彼女を、言いようのない無力感と、深い自己嫌悪の淵へと突き落とした。 そうなのかもしれない。やっぱり、自分は、結城社長とは、住む世界が違いすぎる人間なんだ。彼が生きている、あの、華やかで、知的で、厳しくて、そして時には、信じられないほど残酷な世界には、到底、自分のような人間が、馴染むことなどできない、場違いな存在なんだ。彼が、今、あんなにも想像を絶するような困難の中で、たった一人で、必死で戦っている時に、自分は、何もできずに、ただ遠くから、心配しているふりをしていることしかできない。それどころか、もしかしたら、自分の、この、中途半端で、何の力にもならない存在そのものが、彼の輝かしいキャリアや、社会的評価にとって、拭い去ることのできない汚点となり、彼の足を引っ張る「重荷」になっているのかもしれない。彼と親しいというだけで、世間から、あんな風に嘲笑される原因になっているのかもしれない。そう考えると、胸が張り裂けそうに苦しくて、息ができなくなるほどだった。 それでも、彼を信じたい、という気持ちは、まだ、か細く、しかし消えずに、心の奥底に残っていた。あの、誰もいない深夜のオフィスで見せた、彼の、普段の完璧な仮面の下からは想像もできないような、深い疲労と、孤独の影。そして、彼が思わず漏らした、あの、痛切なまでの「本音」を、自分がただ静かに受け止めた時の、彼の、驚きと、戸惑いと、そしてほんの一瞬だけ、確かに見えた、まるで迷子の子供が母親を見つけたかのような、救われたような、安堵の表情。あれは、決して幻ではなかったはずだ。彼の中には、人々が報道で見るような、冷徹で、非情な経営者の顔だけではない、もっと、傷つきやすくて、不器用で、そして、もしかしたら、誰よりも温かい心を求めている、人間らしい部分が、きっと、きっとあるはずだ。そう信じたかった。 でも、その、か細い「信じたい」という気持ちと、日々、彼女に突きつけられる、あまりにも厳しい「現実」との間で、彼女の心は、まるで振り子のように、激しく揺れ動いていた。報道されている数々の疑惑が、もし、その一部でも、本当に彼が過去に行ったことなのだとしたら? 彼女が信じている「人間らしい部分」も、実は、彼の巧妙な演技の一部だとしたら? それでも、自分は、彼を信じ続けることができるのだろうか? そして、もし、仮に信じ続けたとして、その先に、一体、何があるというのだろう? 彼が属している、あの、冷たくて、排他的で、そして人をステータスや利用価値で値踏みするような世界で、自分は、自分自身の、この、不器用で、世間知らずかもしれないけれど、大切にしてきたはずの価値観や、純粋さを、失わずに、生きていくことができるのだろうか? それとも、いつか、気づかないうちに、自分も、あの、冷たい目をした人たちのように、打算的で、冷笑的で、そして人の痛みに鈍感な人間になってしまうのだろうか? それは、彼女にとって、結城さんを失うことと同じくらい、あるいは、それ以上に、恐ろしいことのように感じられた。 彼女の持ち味であるはずの、どんな状況でも前を向こうとする明るさや、人を疑うことを知らない素直な心、そして、他人の痛みに寄り添おうとする共感性。それらが、今、まさに、巨大都市・東京が持つ、抗いがたい「毒」と、結城 創という、抗いがたい、しかし同時に危険な魅力を持つ存在によって、根底から揺さぶられ、激しく試されていた。彼を支えたい、彼の力になりたい、という切実な気持ち。でも、自分には何もできない、それどころか、彼にとって、ただの邪魔で、お荷物でしかないのではないか、という、深い、深い無力感。そして、これ以上、彼の、そして彼の属する世界の、闇や「毒」に深く関わることで、自分が、取り返しのつかないほど傷つき、自分自身という存在そのものを見失ってしまうのではないか、という、切実な恐怖。 彼女は、まるで、光と闇の狭間で、身動きが取れなくなったかのように、どうすればいいのか、自分の心が本当は何を求めているのか、全く分からず、ただ、一人、東京の片隅にある、狭いアパートの部屋で、膝を抱え、先の見えない、深い霧に包まれたような、途方に暮れる日々を送るしかなかった。時折、ニュースで流れる、さらにやつれたように見える結城さんの姿を見るたびに、胸が締め付けられるように痛んだ。彼が、時折見せていた、彼女を意識的に突き放すような、冷たい態度(それは、今思えば、彼なりの、彼女をこの泥沼に巻き込むまいとする、あまりにも不器用で、そして残酷な優しさの表れだったのかもしれないと、彼女は、心のどこかで、そう理解し始めていたが)も、今の、自信を失いかけている彼女にとっては、自分が彼にとって、やはり不要で、取るに足らない存在であるという、冷たい証拠のように思えて、深く、深く心を傷つけた。それでも、彼のことを、完全に嫌いになることも、彼の幸せを願わずにはいられない自分を、否定することもできない。むしろ、会えない時間が長引けば長引くほど、彼への想いは、まるで堰を切ったように、募っていくような気さえした。それは、あまりにも苦しくて、切なくて、そして、どうしようもなく、矛盾に満ちた、初めて経験する感情だった。彼女は、自分がこれから、どうしたいのか、どうすべきなのか、そして、どうなってしまうのか、その答えを、全く見つけられないまま、深い、深い葛藤の霧の中を、まるで目隠しをされたまま、一人、手探りで歩いているような、そんな心細い心地だった。
(結城 視点) 「(…切り捨てるべきだ。今すぐ、この瞬間に。合理的に、冷徹に考えれば、それ以外の選択肢は、本来、存在しないはずだ)」 深夜、窓の外の、眠らない東京の灯りとは対照的に、重く、息が詰まるような静寂に支配された社長室で、山積みになった訴訟関連の忌まわしい資料と、悪化の一途を辿る、見るのも悍ましい財務レポートの数字を睨みつけながら、結城の頭の中では、冷徹で、計算高く、そして成功のためには全てを犠牲にしてきたはずの「古い自分」の声が、悪魔の囁きのように、繰り返し、繰り返し、響いていた。佐伯小春。彼女の存在そのものが、今の、この、崖っぷちに立たされた自分にとって、百害あって一利もない、致命的なアキレス腱だ。何の力も、何の資産も、何の社会的背景も持たない、世間知らずの、地方出身の、ただの小娘。彼女との、まだ名前さえつけられない、形にもなっていない、曖昧で、そしておそらくは極めて脆い関係。それは、この、会社の存亡が、文字通り風前の灯火である、一分一秒が勝敗を分ける戦いの中では、あまりにも不必要で、非生産的で、そして危険極まりないノイズでしかないのだ、と。 綾香が言ったこと、あの老獪な政治家が示唆したこと。それは、彼のプライドを深く傷つけ、激しい怒りを覚えさせたが、同時に、冷厳な事実として、ある側面では真実を突いていた。今の自分に必要なのは、この窮地を覆すための、強力な武器となるコネクションや、莫大な資金力を持つ、計算高く、そして「利用価値」のあるパートナーだ。決して、守ってやらねばならないような、か弱い、そして何の具体的なメリットももたらさない、世間から見れば取るに足らない存在などではない。彼女の存在は、ただでさえ地に落ちた世間の評判に、さらに「色恋沙汰にうつつを抜かす、脇の甘い経営者」という、格好の、そして致命的なゴシップネタを提供するリスクにしかならない。そして、何よりも、彼女のことを考え、彼女の存在に心を揺さぶられている、この時間そのものが、今の自分には、許されざる、致命的な「無駄」なのだ。彼女の顔を思い浮かべるたびに、自分の判断が、コンマ数秒、確実に鈍る。思考の切れ味が、明らかに乱れる。あの、不可解な安堵感や、温かい感情。あれは、極度のストレスと睡眠不足が見せた、脳のバグだ。ただの錯覚だ。危険な感傷だ。弱さの現れだ。そして、弱さは、この世界では、敗北と同義だ。 「(そうだ、思い出せ、結城 創。お前は、勝つために生まれてきたんだろうが! 負け犬になるために、ここまで来たわけじゃないだろう! 生き残るためには、非情になれ。昔のお前は、そうやって勝ってきたはずだ。感情など殺せ。心など捨てろ。利用できるものは、人間であろうと、なんだろうと、全て利用しろ。そして、切り捨てるべきものは、たとえそれが何であろうと、一瞬の躊躇もなく切り捨てろ。それが、成功者の条件だろうが! それが、お前、結城 創という人間の、本質だろうが!)」 彼は、過去に、成功という名の祭壇に、どれほどのものを捧げてきたことか。信じていたはずの友情も、受けたはずの恩義も、そして時には、自分自身の良心や、人間性のかけらさえも、ビジネス上の「合理的な判断」という名の下に、躊躇なく切り捨ててきた。そうやって、この、誰もが羨むはずの地位と富を、その手で掴み取ってきたのだ。なぜ、今になって、たった一人の、社会的な物差しで測れば、何の価値もないはずの女のために、その、血と汗で築き上げてきた、成功のための鉄の原則を、いとも簡単に曲げる必要があるというのだ? 馬鹿げている。狂気の沙汰だ。彼は、自分自身を、まるで壊れかけた機械を叱咤するかのように、奮い立たせようとした。今すぐ、彼女に、何らかの形で連絡を取り(プロジェクトが中断しているため、直接的な連絡手段は限られているが)、もう二度と自分に関わらないように、と冷たく、そして決定的に言い放つべきだ。あるいは、今後、彼女から何らかのアプローチがあったとしても、完全に、鉄の意志で無視を決め込むべきだ。それが、最も合理的で、最もリスクが低く、そして最も「正しい」選択のはずだ。そうすれば、この、まるで麻薬のように、自分を蝕み、判断力を鈍らせる、不可解な感情の揺らぎからも、きっと解放されるだろう、と。
だが、何度そう決意しても、何度そう自分に命令しても、結局、彼は、それを行うことができなかった。 頭では、それが正しいと、生き残るためにはそれしかないと、分かっているのに。彼が長年かけて鍛え上げてきたはずの、冷徹な理性が、そう明確に命じているのに。彼の指は、スマートフォンの画面に表示された、彼女の(もはや暗記してしまっている)連絡先を、どうしても削除することができない。拒絶の、あるいは別れのメッセージを、何度タイプしては消し、タイプしては消し、結局、送信ボタンを押すことができないのだ。 そして、意識的に、彼女のことを考えるのを止めようとすればするほど、逆に、彼女の姿が、声が、笑顔が、そして、あの、全てを包み込むように、ただ静かに、彼の言葉を受け止めてくれた、温かい共感の眼差しが、まるで脳裏に焼き付いたフィルムのように、鮮明に、そして時には激しい痛みを伴って、彼の記憶の中に、繰り返し、繰り返し蘇ってくるのだ。 彼女が、慣れない手つきで、しかし一生懸命に淹れてくれた、あの、ぬるいインスタントコーヒーの、何とも言えない味。彼女が、週末に焼いたという、少し不格好な、しかし手作りの温もりが感じられるクッキーの、素朴で、優しい甘さ。深夜の、誰もいないオフィスで、彼が思わず漏らしてしまった、誰にも見せたことのない弱音を、ただ静かに、受け止めてくれた、あの時の、彼女の、驚くほど落ち着いた、そして深い共感に満ちた表情。それらが、まるで、彼が失ってしまった、あるいは最初から持っていなかったのかもしれない、人間としての「良心」や「温もり」を象徴するかのように、彼の、成功という名の鎧の下で、荒みきって、乾ききっていたはずの心の奥底に、いつの間にか、深く、そして決して消し去ることのできない、温かい染みのように、刻み込まれてしまっている。 そして、彼は、その度に、愕然として気づいてしまうのだ。自分が、心の底から本当に恐れているのは、もはや、ビジネスで再起不能なまでに失敗することや、築き上げてきた富や名声を全て失うことだけではないのかもしれない、と。それ以上に、いや、もしかしたら、それ以上に、佐伯小春という、たった一つの、しかし彼にとっては、もはや、どんな成功や富よりも、かけがえのないものになりつつある、特別な繋がりを、自らの手で断ち切り、そして永遠に失ってしまうこと。それこそが、今の彼にとって、想像を絶するほどの、耐え難い苦痛と、そして、生きる意味すらをも失わせかねない、深い、深い絶望をもたらすのではないか、と。 馬鹿な。ありえない。彼は、その考えが浮かぶたびに、まるで汚物でも振り払うかのように、激しく頭を振った。自分が、これほどまでに、脆く、弱く、そして、一人の人間に——それも、世間的な基準で言えば、何の取り柄もないような、ただの小娘に——感情的に依存し始めているという、信じがたい事実。それは、彼にとって、会社の存続の危機以上に、恐ろしく、そして受け入れがたい、自己矛盾であり、自己存在の崩壊の始まりを意味していた。成功だけが、自分の価値の証明だと信じて生きてきた。孤独こそが、他者に依存しない、絶対的な強さの源だと信じてきた。その、彼が生涯をかけて築き上げてきたはずの、唯一無二の価値観が、今、佐伯小春という、たった一人の、偶然出会っただけの存在によって、根底から、そしてあまりにも無防備に、激しく揺さぶられているのだ。 彼は、この二つの、完全に相反する、しかしどちらも抗いがたいほど強力な力——全てを犠牲にしてでも、このビジネスという名の戦場で生き残り、再び頂点に立とうとする、彼の本質である、冷徹な生存本能と、彼女との繋がりだけは、何があっても失いたくない、守り抜きたいと願う、生まれて初めて感じるような、切実で、しかし非合理的な、人間的な感情——の、巨大な引力の狭間で、文字通り、激しく引き裂かれそうになりながら、出口のない、暗い葛藤の迷宮を、眠れない夜ごと、たった一人で、彷徨い続けていた。どちらを選んでも、何かを決定的に失うことになる。その、あまりにも重い現実に、彼は、押し潰されそうになっていた。
(小春 視点) プロジェクトが公式に中断され、結城さんと直接会うことも、業務上の連絡を取ることさえも、会社の指示によって禁じられてしまってから、小春の日々は、まるで色褪せた写真のように、単調で、そして出口の見えない、重苦しいものへと変わっていた。会社に行けば、以前は活気のあったフロアも、どこか沈滞した空気が漂い、同僚たちは、腫れ物に触るかのように、ネクストリーム社の話題や、ましてや結城さんの名前を口にすることを避け、彼女に対しても、どこか同情と好奇の入り混じった、しかし明確な距離を置いているように感じられた。それが、彼女をさらに孤独にした。 そして、仕事が終わって、一人、狭いアパートの部屋に帰れば、テレビやインターネットには、依然として、結城さんや彼の会社に対する、非難や憶測、時には人格攻撃に近いような、ネガティブで、扇情的な報道が、飽きることなく溢れている。その、悪意に満ちた情報を見るたびに、彼女の心は、まるで鈍い、しかし鋭い痛みを発するかのように、ずきり、ずきりと疼いた。そして、あの、ネクストリーム社の、冷たくて、豪華なロビーで耳にした、あの、忘れようとしても忘れられない、侮蔑的な言葉が、まるで悪夢のように、彼女の頭の中で、繰り返し、繰り返し、反響するのだった。「地方出身の新人OL」「場末の安っぽいメロドラマ」「今の彼にお似合い」。その言葉が、彼女の、なけなしの自尊心を、容赦なく打ち砕き、彼女を、言いようのない無力感と、深い自己嫌悪の淵へと突き落とした。 そうなのかもしれない。やっぱり、自分は、結城社長とは、住む世界が違いすぎる人間なんだ。彼が生きている、あの、華やかで、知的で、厳しくて、そして時には、信じられないほど残酷な世界には、到底、自分のような人間が、馴染むことなどできない、場違いな存在なんだ。彼が、今、あんなにも想像を絶するような困難の中で、たった一人で、必死で戦っている時に、自分は、何もできずに、ただ遠くから、心配しているふりをしていることしかできない。それどころか、もしかしたら、自分の、この、中途半端で、何の力にもならない存在そのものが、彼の輝かしいキャリアや、社会的評価にとって、拭い去ることのできない汚点となり、彼の足を引っ張る「重荷」になっているのかもしれない。彼と親しいというだけで、世間から、あんな風に嘲笑される原因になっているのかもしれない。そう考えると、胸が張り裂けそうに苦しくて、息ができなくなるほどだった。 それでも、彼を信じたい、という気持ちは、まだ、か細く、しかし消えずに、心の奥底に残っていた。あの、誰もいない深夜のオフィスで見せた、彼の、普段の完璧な仮面の下からは想像もできないような、深い疲労と、孤独の影。そして、彼が思わず漏らした、あの、痛切なまでの「本音」を、自分がただ静かに受け止めた時の、彼の、驚きと、戸惑いと、そしてほんの一瞬だけ、確かに見えた、まるで迷子の子供が母親を見つけたかのような、救われたような、安堵の表情。あれは、決して幻ではなかったはずだ。彼の中には、人々が報道で見るような、冷徹で、非情な経営者の顔だけではない、もっと、傷つきやすくて、不器用で、そして、もしかしたら、誰よりも温かい心を求めている、人間らしい部分が、きっと、きっとあるはずだ。そう信じたかった。 でも、その、か細い「信じたい」という気持ちと、日々、彼女に突きつけられる、あまりにも厳しい「現実」との間で、彼女の心は、まるで振り子のように、激しく揺れ動いていた。報道されている数々の疑惑が、もし、その一部でも、本当に彼が過去に行ったことなのだとしたら? 彼女が信じている「人間らしい部分」も、実は、彼の巧妙な演技の一部だとしたら? それでも、自分は、彼を信じ続けることができるのだろうか? そして、もし、仮に信じ続けたとして、その先に、一体、何があるというのだろう? 彼が属している、あの、冷たくて、排他的で、そして人をステータスや利用価値で値踏みするような世界で、自分は、自分自身の、この、不器用で、世間知らずかもしれないけれど、大切にしてきたはずの価値観や、純粋さを、失わずに、生きていくことができるのだろうか? それとも、いつか、気づかないうちに、自分も、あの、冷たい目をした人たちのように、打算的で、冷笑的で、そして人の痛みに鈍感な人間になってしまうのだろうか? それは、彼女にとって、結城さんを失うことと同じくらい、あるいは、それ以上に、恐ろしいことのように感じられた。 彼女の持ち味であるはずの、どんな状況でも前を向こうとする明るさや、人を疑うことを知らない素直な心、そして、他人の痛みに寄り添おうとする共感性。それらが、今、まさに、巨大都市・東京が持つ、抗いがたい「毒」と、結城 創という、抗いがたい、しかし同時に危険な魅力を持つ存在によって、根底から揺さぶられ、激しく試されていた。彼を支えたい、彼の力になりたい、という切実な気持ち。でも、自分には何もできない、それどころか、彼にとって、ただの邪魔で、お荷物でしかないのではないか、という、深い、深い無力感。そして、これ以上、彼の、そして彼の属する世界の、闇や「毒」に深く関わることで、自分が、取り返しのつかないほど傷つき、自分自身という存在そのものを見失ってしまうのではないか、という、切実な恐怖。 彼女は、まるで、光と闇の狭間で、身動きが取れなくなったかのように、どうすればいいのか、自分の心が本当は何を求めているのか、全く分からず、ただ、一人、東京の片隅にある、狭いアパートの部屋で、膝を抱え、先の見えない、深い霧に包まれたような、途方に暮れる日々を送るしかなかった。時折、ニュースで流れる、さらにやつれたように見える結城さんの姿を見るたびに、胸が締め付けられるように痛んだ。彼が、時折見せていた、彼女を意識的に突き放すような、冷たい態度(それは、今思えば、彼なりの、彼女をこの泥沼に巻き込むまいとする、あまりにも不器用で、そして残酷な優しさの表れだったのかもしれないと、彼女は、心のどこかで、そう理解し始めていたが)も、今の、自信を失いかけている彼女にとっては、自分が彼にとって、やはり不要で、取るに足らない存在であるという、冷たい証拠のように思えて、深く、深く心を傷つけた。それでも、彼のことを、完全に嫌いになることも、彼の幸せを願わずにはいられない自分を、否定することもできない。むしろ、会えない時間が長引けば長引くほど、彼への想いは、まるで堰を切ったように、募っていくような気さえした。それは、あまりにも苦しくて、切なくて、そして、どうしようもなく、矛盾に満ちた、初めて経験する感情だった。彼女は、自分がこれから、どうしたいのか、どうすべきなのか、そして、どうなってしまうのか、その答えを、全く見つけられないまま、深い、深い葛藤の霧の中を、まるで目隠しをされたまま、一人、手探りで歩いているような、そんな心細い心地だった。
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