怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部二年生

041

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 眞宙くんに前世の記憶を打ち明けた結果、BLゲーム「ぼくきみ」のシナリオ通り、ぼくが七瀬くんに嫌がらせをするのは、しばらく見送ることになった。
 頑張ろうと気合いを入れ直したところだったんだけどね。
 食堂での対立イベントとか、こちらが意図していなくても同じ状況は発生したから、流れに身を任せるのもいいかなぁと、眞宙くんに言われて考え直したのだ。
 相談相手がいるって素敵!
 眞宙くんに余計な心配をかけないために打ち明けたのに、逆にぼくの心労を減らしてもらっている。

 とにかく今は盗み聞きの件を、七瀬くんに謝らないと。
 放課後、怜くんを迎えに行くときに、一緒に謝ろうと眞宙くんとは話し合っていた。
 そして今、正に怜くんの教室に向かうため帰り支度を整えているぼくの目の前に、七瀬くんが現れた。
 それも、いつもとは違う姿で。

 もっさりとした黒髪と、分厚い瓶底眼鏡はどこへ行ったのか。
 髪はストレートになり、パッチリとした目元が露わになっていた。
 周囲からは、あの美少年は誰だ? という声が湧く。
 ぼくが、目の前の美少年を七瀬くんだと分かったのは、画面越しに見覚えがあったからだ。
 描かれていたイラスト通りの、絶世の美少年が口を開く。

「一体、お前はどういうつもりなんだっ!」

 急に怒鳴りつけられて、思わず半歩退いてしまった。
 後ろに倒れ込んでしまわないよう、眞宙くんが腕を伸ばしてぼくの背を支えてくれる。

「いきなり罵声を浴びせるなんて、どういう了見かな?」
「佐倉は知ってるのか!? こいつは親衛隊長だからって、人のプライベートを盗み聞きしてたんだぞ!」

 ぼくに代わって口を開いた眞宙くんに投げられた、「盗み聞き」という言葉に教室の中がざわつく。
 そしてクラスのみんなも、口調で彼が七瀬くんだと分かったようだった。

「盗み聞き? そこまでするのか?」
「マジで? 盗聴器を使って?」

 真相を知らないクラスメイトの声がぼくの元に届く。
 ごめんね、使ったのは、みんなの部屋にもあるガラスのコップだよ! どうせぼくの発想は幼稚です!
 上村くんに、お前は小学生か? と言われたのは、ちょっとショックだった。
 きっと七瀬くんも、事の顛末を上村くんから聞いたんだろう。
 けど、まさか教室に乗り込んで来るとは思わなくて、ぼくはただただ目を見開いていた。

 こんなイベント、あったっけ?

 ゲームとは違い現実である分、流れが変わっているんだろうか。
 次にぼくが七瀬くんと対立するのはゲーム終盤、ぼくの断罪イベントのはずだった。
 それまでのぼくの悪事が、赤裸々に語られる場面だ。
 七瀬くんが身なりを整えて、本来の美少年の姿を晒すのもそのときで……もしかして、流れが加速してるの?

「毎朝の嫌がらせも、どうせお前の指示なんだろ!?」

 七瀬くんのこの言葉で、考えが確信に変わる。
 似たような台詞を、画面越しの断罪イベントで見ていたからだ。
 毎朝の嫌がらせについては初耳だけど、ここまで来ればぼくの行動は決まっている。

「盗み聞きの件については謝るよ、ごめんなさい! でも、そもそもきみが内部生を煽ったのがいけないんだ! きみこそ、怜様の負担を増やさないでよ!」

 何にせよ謝らないと! と、頭を下げた。
 けど、どうして七瀬くんはこうも思い込みが激しいのかと、不満を持ってしまったからか、意図していなかった言葉も口から飛び出す。
 食堂のときも、ボールを当てた犯人にされかけたし。
 全ての事柄を、直線で結び過ぎなんじゃないだろうか。

「お前は名法院の何なんだ!? たかだかファンクラブの会長ってだけだろ!? お前のせいで、あいつのプライベートがなくなってるんだぞっ!」

 ケンカ腰のぼくの言葉に、七瀬くんも止まらない。

「前に食堂で、俺が誰かを好きになったことがないようなこと言ったよな? あのときは、そうだったよ。けど今は違う。だから今、あのときの反論をさせてもらう。お前らのやり方はやっぱり間違ってる! 好きな相手の意思を無視するようなやり方はな!」
「きみの好きな相手って、怜くんのこと?」
「そうだよ。だから直接、湊川に文句を言いに来た」

 たじろぐこともなく、真っ直ぐに七瀬くんは気持ちを認めた。
 その潔さが、画面越しに見た、いつかの彼と重なる。
 七瀬くんの堂々とした姿を目の当たりにして、胸がきゅうっと痛くなった。
 ……やっぱりぼくじゃ、彼には勝てない。
 問題を先送りにして、現実から目を逸らしているぼくじゃ。

「お前も本当に名法院のことが好きなら、不毛な関係は止めて、真っ向から勝負しろよ!」
「ぼく、は……」

 七瀬くんの黒い瞳がぼくを射貫く。
 同じ色の瞳なのに、彼の瞳は輝いて見えた。
 芯が強くて、美しい人。
 曇りのない瞳に見つめられて、声が震える。

「ぼくは……ダメだ……」
「は? 何でだよ!」
「ぼくはっ、きみみたいに強くないんだ! 終わりが見えてる関係に、真っ向から挑む度胸なんてないんだよ!!!」

 心からの叫びに喉が引き攣って痛い。
 現実なんて見たくない。
 ずっとこの箱庭で夢を見ていられるなら幸せだった。
 けど、現実は、とても残酷で。
 ぼくと怜くんの関係なんて、簡単に引き裂いてしまう。

「何の、話だ」

 聞こえた声は正面からじゃなかった。
 教室にいる全員が、一斉に声の元へ顔を向ける。
 怜くんが姿を見せると、教室は静まり返った。
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