怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部二年生

042

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「保、何の話を、している?」
「怜くん……」

 一歩一歩、怜くんは言葉を切りながら、ぼくに近付いた。
 その迫力に気圧されるけど、後ろで眞宙くんがぼくの背中を支えていて、この位置から下がることができない。

「終わりが見えている関係と言ったか? それは誰と誰のことだ」
「怜くん、ぼくは……」

 言い淀むぼくに、怜くんが手を上げる。
 ビクリと体が弾み、咄嗟に目を瞑った。
 次の瞬間、顔に痛みが走る。
 怜くんの片手が、ぼくの顔を覆っていた。

「痛いっ! 痛いよ、怜くん!!!」
「お前は、どうしてそう、勝手に、結論を出すんだっ!」

 怒鳴られているのは分かるけど、痛みで内容が入ってこない。

「怜、昼にも言ったけど、今日の保は寝不足だからアイアンクローも程ほどにね?」
「寝不足がこの発言の原因か?」
「それについては黙秘するよ」
「どうやら保とはじっくり話し合う必要がありそうだな? 眞宙はしばらく部屋に帰るな」
「何なら話し合いに僕も同席したいんだけどね。一時間したら帰るよ」
「ちっ……保、行くぞ」

 ようやく顔を解放されて、ほっと息をつく。
 しかし間を置かず、怜くんに腕を引かれた。
 問答無用に引っ張られるけど、七瀬くんの隣までくると、怜くんは立ち止まる。

「お前の声は通るから、教室の外からでも話の内容は聞こえていた。ボールを当てたのも、毎朝の嫌がらせにも、保は関与していない。犯人は板垣先輩の親衛隊員だ。朝、上村が現行犯で捕まえるところに、俺も立ち会った。今頃上村たち風紀委員が関係者の事情聴取に向かっているだろう」

 怜くんの言葉に、なんでチャラ男先輩の親衛隊員が? とぼくは首を傾げる。
 七瀬くんは、怜くんのルートに入ってたんじゃ……?
 位置的に壁になっている怜くんから顔を出し、七瀬くんを窺うと、彼は顔を顰めていた。

「やっぱり親衛隊なんてロクなもんじゃない」
「褒められた行為ではないな」
「名法院もこれで親衛隊がどういうものか分かっただろ!? 湊川だって、人のプライベートを盗み聞きするような人間なんだぞ!」
「ガラスのコップでな」

 怜くん、そこ言及する必要ある!? どうせぼくは思いつきが小学生ですよ!
 怜くんの登場で口をつぐんでいたクラスメイトたちが、再びざわめき出す。

「ガラスのコップ?」
「なぁ、ガラスのコップで、どうやって盗み聞きするんだ?」

 あっ、やり方を知らない人もいるんだね。
 そこはスルーでお願いします!

「板垣先輩の親衛隊員の行為は、決して褒められたものじゃない。だが七瀬、俺はだからといって他の親衛隊、全てがそうだとは思わない」
「何でだよ!?」
「お前より親衛隊の事情について詳しいからだ。そういうお前は、親衛隊について何を知っている? 眞宙や上村の親衛隊について、知っていることはあるのか?」
「……各々の親衛隊については知らない。けど、親衛隊がどういう存在なのかは知ってる!」
「板垣先輩に教えられて、か?」
「そうだよ! 板垣先輩もずっと親衛隊に悩まされてきたんだ。『様』付けで呼ばれて……」
「『オレは、普通に接してもらいたいんだ。特別扱いして、オレを孤独にしないで?』か? それは板垣先輩の口説き文句だぞ」

 聞き覚えのあるフレーズを怜くんが口にする。
 ぼくも言われた覚えのあるものだ。
 え? もしかして七瀬くん、その言葉通りに信じちゃったの? どれだけ純粋なの!?

「七瀬、お前にとって板垣先輩は、お前に言い寄るために親衛隊を切った誠実な人間なのかもしれんが……今まで散々弄んできた相手を、説明もなく切り捨てる人間が、本当に誠実だと言えるのか?」
「説明もなく……?」

 思わず声が漏れた。
 ぼくの声を眞宙くんが拾う。

「保は最近怜のことで頭がいっぱいだったから知らないだろうけど、板垣先輩は一方的に、親衛隊との関係を絶ったんだよ。それこそ金輪際、視界に入るなとまで言ってね」
「酷い……」

 七瀬くんという本命が現れて、体の関係を止めるのは分かる。
 でも視界に入るなって、どういうこと?
 チャラ男先輩が言えば、親衛隊の人たちは従うだろう。
 だからこそ、もっと他に言い方があったはずだ。
 次に眞宙くんは七瀬くんへ視線を向ける。

「七瀬くんもその場にいたんだよね?」
「だけどそれは、親衛隊が特権だとか言って、板垣先輩に無理矢理、体の関係を迫るから! 湊川だってそうだろ!?」
「ぼくは無理矢理に関係を迫ったことなんてないよ!?」

 矛先を向けられて、咄嗟に言い返す。
 だから誰なの!? 七瀬くんに間違った親衛隊の情報を流したのは!?
 怜くんも、すかさずぼくの言い分を認めてくれた。

「その通りだ。俺は保から迫られたことはない」
「嘘だ!」
「お前が信じてる、板垣先輩の言葉が嘘なんだよ」
「そんなことない! だって……」
「板垣先輩は、悪い親衛隊を切った誠実な人、だからか? お前は、俺のことを好きだと言うわりに、俺の言葉は信じないんだな?」
「違う! 名法院は、幼なじみだから、湊川を庇ってるんだ!」
「それで、眞宙の言葉も幼なじみだから、圭吾の言葉も同室だからと言って信じないのか? 救いがたいな」
「……」

 遂に七瀬くんは黙り込んでしまった。
 あれかな……もしかして七瀬くんて、チャラ男先輩の信者なの? 実は親衛隊寄りの人なの?
 いくらなんでも、チャラ男先輩を信用し過ぎじゃない?
 気付けば教室内のざわめきが消え、シン……とした空気の中に、眞宙くんの乾いた笑いが響く。

「恋って厄介だよね。誰もかれも、自分をよく見せようとして、自分の見たいものしか見ない」
「眞宙、それは俺に対する嫌味か?」
「怜に向けてでもあるし、七瀬くんも、板垣先輩もそう。保の場合は、変化球過ぎるから今は置いておくけど」

 前世の記憶があるからだろうか。
 眞宙くんはぼくを見ると苦笑した。

「板垣先輩は、七瀬くんに良く思われようと、親衛隊には特権があると嘘をついて、自分を被害者のように見せかけた。七瀬くんはそれを信じることで、怜と保の間に、自分が入り込める余地があると思いたかった」
「えっ、じゃあチャラ……板垣先輩が、七瀬くんに間違った親衛隊の情報を流したの!?」

 自分を良く見せるためだけに!?
 驚くぼくを、怜くんが頭を撫でて落ち着かせる。

「そうだ。しかも七瀬に話を聞く限り、それが真実だと何故か信じて疑わない。これについては眞宙の推測が正しそうだな。……そして遂には、板垣先輩の親衛隊の不満が、嫌がらせという形で顕現したんだ」
「じゃあ全部、板垣先輩の嘘からはじまったってこと?」
「板垣先輩の常套句を信じてしまった七瀬にも、一因はあるがな。その純粋さに先輩は惚れたんだろうが……迷惑な話だ」

 一つ溜息をつくと、怜くんは七瀬くんと向き合った。
 見える怜くんの背中に、わざとぼくと七瀬くんを遮っているのだと気付く。
 もしかして、七瀬くんから守ってくれてる?

「板垣先輩の嘘は、他から話を聞けばいくらでも見破ることができた。だが、お前は敢えてそうしなかった。俺はこれでもお前に期待していたんだ。俺と真っ向から言い合える人材は限られてるからな」
「……見損なった、ってこと?」

 聞こえてくる七瀬くんの声は、ぼくと言い合ってたときが嘘のように、か細かった。
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