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高等部二年生
044
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翌日、ドクターストップならぬ桜川くんストップにより授業を休むことになった。
ただの寝不足だよ! と訴えても、全く聞いてもらえませんでした。
「暇だ……」
しかし気を失った原因が寝不足であることに変わりはなく、たっぷり十二時間は眠った今、ぼくはすこぶる快調だった。
元気なのにベッドでゴロゴロしていると、ズル休みをしている気しかしない。
スマホも取り上げられてしまって、いつも以上に時間の経過が長く感じられた。
「勉強でもしようかな」
生徒がいなくなった寮はとても静かで、世界が変わってしまったようだ。
静寂の中、時折耳に届く物音は、清掃員さんが掃除をしている音だろう。
ベッドから起き上がり、勉強机に向かう。
けれど椅子に座ったまではいいものの、参考書に手を伸ばす気になれなかった。
参考書を開くのは、毎日、寝る前の日課になっている。
それを今やってしまうと、守ってきた進度を崩してしまうことにならないだろうか。
願掛けというほどでもないけど、ペースは乱してしまわないほうがいい気がした。
「でも他にすることも……あー、手紙の整理?」
一人でいることに馴れていないせいか、どうしても独り言が多くなる。
このままだと寂しさを感じてしまいそうなので、飾ってあるテディベアを片腕に抱えた。
中等部の修学旅行でイギリスに行ったとき、怜くんと眞宙くんの三人で一緒に買ったものだ。
みんな同じ型のテディベアで、首に巻くリボンの色だけが違っている。
ぼくのは鮮やかな赤、怜くんのはエメラルドグリーン、眞宙くんのはオレンジ色といった具合に。
肌触りがいいテディベアの頭を無意識に撫でながら、週一で家族から届く手紙を放り込んだ箱を開けた。
他にも家族からは月一で、ぼくの好きなお菓子や紅茶の詰め合わせが届く。
今ではすっかり差し入れが届くと、生徒会室で消化される流れが出来上がっていた。
手紙は、両親と二人の兄からそれぞれ送られてくるので、結構なかさになっている。
内容はぼくの生活を気遣う定型句からはじまり、当人の日常が綴られているものがほとんどだ。
底から届いた順には重ねているものの、差出人ごとには分けていないので、いい機会だし分別していこうと思う。
捨てようかとも考えたけど、気が咎めて今に至っていた。
テディベアを片腕で抱えたまま、一通一通差出人に目を通す。
そして十通ごとに細い紐で縛っていく作業を黙々とこなした。
すぐには終わらない作業に、量の多さが窺える。
愛されてるなぁ、と思う。
家族に、兄弟。
それと。
――保、好きだ。愛してる。
「ふへへへへ」
「何、一人でニヤついてるんだ? やっぱりどこか悪いのか?」
「ふぁっ!?」
突然背後からかけられた声に肩が跳ねる。
危うくテディベアを落としそうになった。
振り向くと、そこには制服姿の怜くんが一人で立っていた。
「怜くん!? あれ、授業は!?」
「もう昼休みだ。チャイム聞こえなかったのか?」
慌てて時計を確認すると、時計の針は怜くんの言葉通り、昼休みを告げていた。
「気付かなかった……」
「そんなに集中してたのか? 誰からの手紙だ……って、家族からか。凄い量だな」
「やっぱり多い?」
「今時、手紙を送り合う生徒のほうが少ないんじゃないか? 連絡はスマホで取れるだろう」
言われてみれば、その通りだった。
ぼくの家族は筆まめらしい。
「体調が回復してるなら、昼食にしよう。購買部で適当に買ってきた」
「あれ? 眞宙くんは?」
「南に押し付けて来た。たまには二人で食べるのも良いだろ」
押し付けて来たって……南くんは大喜びだろうけど。
勉強机とは別に置いてあるローテーブルに、怜くんは買ってきたパンやおにぎりを並べていく。
「あ、お茶淹れるね!」
部屋に給湯の設備はないものの、小さな冷蔵庫は各部屋に置かれていて、食堂に行けばいくらでもお茶の補充ができた。
怜くんと二人でお昼をするのは久しぶりなので、妙にソワソワしてしまう。
お茶をこぼしてしまわないよう気を付けながら、コップをテーブルに置き、怜くんの隣に腰を下ろした。
怜くんは色々と買って来てくれたようで、どれから手を付けようか悩む。
けど、そこにいつかの光景がチラついた。
七瀬くんと一緒にパンを食べる怜くんの姿が。
「保? どうした、固まって」
「ううん、何でもない」
「何でもないって顔ではないな。やっぱり本調子じゃないのか?」
「そうじゃなくて」
ずっと、ぼくは怜くんを幸せにしたかった。
「怜くんは、七瀬くんじゃなくて、ぼくといて幸せ?」
「やけに七瀬にこだわるな? そんなに不安にさせていたか」
引き寄せられるまま、怜くんの腕の中に収まる。
服越しに体温を感じて、ようやく答えを見つけた気がした。
――あぁ、違う。
怜くんが、ぼくを不安にさせてたんじゃない。
「怜くん、ごめんね……ぼく……っ」
ぼくは、知っていたのに。
この温もりを、怜くんにも血が通っていることを。
「ぼく、怜くんを信じられてなかった……っ」
信じるって言ったのに!
ぼくは、ゲームのことしか頭になくて。
現実の残酷さにばかり気をとられて。
肝心の怜くんの気持ちを、蔑ろにしてた。
ぼくを好きだと、愛していると言ってくれた怜くんの気持ちを。
素直に受けとめられていなかったんだ。
「ごめん、ごめんね……っ」
「謝るな。お前は何も悪くない」
「違うよ、ぼくは」
「保、俺たちの関係は何だ?」
「え……?」
急に尋ねられて、思考が止まる。
ぼくと、怜くんの関係は。
「親衛隊長以外でだぞ」
「えっと、幼なじみ?」
ぼくの答えに、怜くんは後ろに倒れた。
床に大の字になる。
「怜くん……?」
「ちょっと今、自分の罪を噛みしめてる」
「罪?」
しばらく目を閉じていた怜くんは、起き上がるとぼくの両肩に手を置いて向き合う。
「俺の罪は罪として、確認だが、お前は幼なじみとだったら体を重ねるのか?」
「えっ、怜くんとだけだよ?」
「眞宙とはしてないな?」
「してないよ!?」
そもそも眞宙くんには、南くんがいるし!
「だったらどうして……いや、言葉にしなかった俺が悪い。俺はお前を、恋人だと思ってる」
「はぇ?」
ただの寝不足だよ! と訴えても、全く聞いてもらえませんでした。
「暇だ……」
しかし気を失った原因が寝不足であることに変わりはなく、たっぷり十二時間は眠った今、ぼくはすこぶる快調だった。
元気なのにベッドでゴロゴロしていると、ズル休みをしている気しかしない。
スマホも取り上げられてしまって、いつも以上に時間の経過が長く感じられた。
「勉強でもしようかな」
生徒がいなくなった寮はとても静かで、世界が変わってしまったようだ。
静寂の中、時折耳に届く物音は、清掃員さんが掃除をしている音だろう。
ベッドから起き上がり、勉強机に向かう。
けれど椅子に座ったまではいいものの、参考書に手を伸ばす気になれなかった。
参考書を開くのは、毎日、寝る前の日課になっている。
それを今やってしまうと、守ってきた進度を崩してしまうことにならないだろうか。
願掛けというほどでもないけど、ペースは乱してしまわないほうがいい気がした。
「でも他にすることも……あー、手紙の整理?」
一人でいることに馴れていないせいか、どうしても独り言が多くなる。
このままだと寂しさを感じてしまいそうなので、飾ってあるテディベアを片腕に抱えた。
中等部の修学旅行でイギリスに行ったとき、怜くんと眞宙くんの三人で一緒に買ったものだ。
みんな同じ型のテディベアで、首に巻くリボンの色だけが違っている。
ぼくのは鮮やかな赤、怜くんのはエメラルドグリーン、眞宙くんのはオレンジ色といった具合に。
肌触りがいいテディベアの頭を無意識に撫でながら、週一で家族から届く手紙を放り込んだ箱を開けた。
他にも家族からは月一で、ぼくの好きなお菓子や紅茶の詰め合わせが届く。
今ではすっかり差し入れが届くと、生徒会室で消化される流れが出来上がっていた。
手紙は、両親と二人の兄からそれぞれ送られてくるので、結構なかさになっている。
内容はぼくの生活を気遣う定型句からはじまり、当人の日常が綴られているものがほとんどだ。
底から届いた順には重ねているものの、差出人ごとには分けていないので、いい機会だし分別していこうと思う。
捨てようかとも考えたけど、気が咎めて今に至っていた。
テディベアを片腕で抱えたまま、一通一通差出人に目を通す。
そして十通ごとに細い紐で縛っていく作業を黙々とこなした。
すぐには終わらない作業に、量の多さが窺える。
愛されてるなぁ、と思う。
家族に、兄弟。
それと。
――保、好きだ。愛してる。
「ふへへへへ」
「何、一人でニヤついてるんだ? やっぱりどこか悪いのか?」
「ふぁっ!?」
突然背後からかけられた声に肩が跳ねる。
危うくテディベアを落としそうになった。
振り向くと、そこには制服姿の怜くんが一人で立っていた。
「怜くん!? あれ、授業は!?」
「もう昼休みだ。チャイム聞こえなかったのか?」
慌てて時計を確認すると、時計の針は怜くんの言葉通り、昼休みを告げていた。
「気付かなかった……」
「そんなに集中してたのか? 誰からの手紙だ……って、家族からか。凄い量だな」
「やっぱり多い?」
「今時、手紙を送り合う生徒のほうが少ないんじゃないか? 連絡はスマホで取れるだろう」
言われてみれば、その通りだった。
ぼくの家族は筆まめらしい。
「体調が回復してるなら、昼食にしよう。購買部で適当に買ってきた」
「あれ? 眞宙くんは?」
「南に押し付けて来た。たまには二人で食べるのも良いだろ」
押し付けて来たって……南くんは大喜びだろうけど。
勉強机とは別に置いてあるローテーブルに、怜くんは買ってきたパンやおにぎりを並べていく。
「あ、お茶淹れるね!」
部屋に給湯の設備はないものの、小さな冷蔵庫は各部屋に置かれていて、食堂に行けばいくらでもお茶の補充ができた。
怜くんと二人でお昼をするのは久しぶりなので、妙にソワソワしてしまう。
お茶をこぼしてしまわないよう気を付けながら、コップをテーブルに置き、怜くんの隣に腰を下ろした。
怜くんは色々と買って来てくれたようで、どれから手を付けようか悩む。
けど、そこにいつかの光景がチラついた。
七瀬くんと一緒にパンを食べる怜くんの姿が。
「保? どうした、固まって」
「ううん、何でもない」
「何でもないって顔ではないな。やっぱり本調子じゃないのか?」
「そうじゃなくて」
ずっと、ぼくは怜くんを幸せにしたかった。
「怜くんは、七瀬くんじゃなくて、ぼくといて幸せ?」
「やけに七瀬にこだわるな? そんなに不安にさせていたか」
引き寄せられるまま、怜くんの腕の中に収まる。
服越しに体温を感じて、ようやく答えを見つけた気がした。
――あぁ、違う。
怜くんが、ぼくを不安にさせてたんじゃない。
「怜くん、ごめんね……ぼく……っ」
ぼくは、知っていたのに。
この温もりを、怜くんにも血が通っていることを。
「ぼく、怜くんを信じられてなかった……っ」
信じるって言ったのに!
ぼくは、ゲームのことしか頭になくて。
現実の残酷さにばかり気をとられて。
肝心の怜くんの気持ちを、蔑ろにしてた。
ぼくを好きだと、愛していると言ってくれた怜くんの気持ちを。
素直に受けとめられていなかったんだ。
「ごめん、ごめんね……っ」
「謝るな。お前は何も悪くない」
「違うよ、ぼくは」
「保、俺たちの関係は何だ?」
「え……?」
急に尋ねられて、思考が止まる。
ぼくと、怜くんの関係は。
「親衛隊長以外でだぞ」
「えっと、幼なじみ?」
ぼくの答えに、怜くんは後ろに倒れた。
床に大の字になる。
「怜くん……?」
「ちょっと今、自分の罪を噛みしめてる」
「罪?」
しばらく目を閉じていた怜くんは、起き上がるとぼくの両肩に手を置いて向き合う。
「俺の罪は罪として、確認だが、お前は幼なじみとだったら体を重ねるのか?」
「えっ、怜くんとだけだよ?」
「眞宙とはしてないな?」
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