怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部二年生

045

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 聞き間違いだろうか?
 えっ? 恋人? 恋に人って書く、恋人???

「わかった。お前にそういう意識がなかったのは、今承知した」
「え、え、えっ……れ、怜くん、何か顔が怖いよ……?」

 眼前に迫る怜くんの顔に、影が下りているのは気のせいかな? 気のせいだったらいいな!
 ふうと一つ、怜くんが息を吐く。
 何か痛いこと――アイアンクロー――でもされるかな、というぼくの予想を裏切って、怜くんは改めてぼくを抱き締めた。

「愛してる、保。お前は俺のだ。俺の、恋人だ」
「れ、怜くん!?」

 えっ、夢? あれだけ寝たのに、ぼくまた寝ちゃったの???

「現実だ、バカ」
「痛いっ」

 考えが口に出ていたのか、怜くんに頬を抓られた。

「ほ、本当に? リアル? リアリティ? リアリスト?」
「落ち着け、思考がバグってるぞ」
「だ、だって……っ」

 現実が、こんな幸せでいいんだろうか。
 怜くんが、ぼくにまた、あああ愛してるって!
 昨日言ってくれたのは、嘘でも幻覚でもなかったんだ!
 しかも、こ、ここここ恋人だなんて!
 ぽわぽわと頬が熱を持つ。

「大好きっ! 怜くん、大好き!」

 怜くんの背中に腕を回す。
 溢れる思いの全てを、怜くんに届けたかった。
 ずっと抱き合っていたかったけど、怜くんがこぼした言葉に、冷静さを取り戻す。

「このままサボるか」
「あっ、ご飯もまだ食べてないよ!」

 怜くんには、まだ午後の授業が残っていた。
 折角買ってきてくれた昼食も、手付かずのままだ。

「俺は保を食べたい」
「ダメだよ! ご飯食べて!」
「何で急に真面目になるんだ……」
「だって怜くんが買ってきてくれたご飯だもん!」

 勿体ないでしょ!
 それに今は、肌を見せる勇気がなかった。
 今更だし、自分でも分からないけど、すっごく恥ずかしい!
 手近にあったクリームパンの封を開けて咀嚼する。
 先に甘いものを食べちゃったけど、正直味なんて分からなかった。
 あまり噛まずに飲み込んでしまったせいで、パンの固まりが喉を通るとき一瞬息が詰まる。……よく噛んで食べよう。

「ねぇ、怜くん」
「何だ?」

 盗み見るように怜くんに目をやると、次々に袋を開けてパンやおにぎりを胃に収めていた。
 幼い頃は病弱だったなんて、とても思えない。
 名法院の跡目は市くんに譲るって、本気だろうか?

「我が侭言っていい?」
「いいぞ」
「……即答なんだ」
「恋人の我が侭ぐらい聞けなくてどうする」
「ううう、怜くんがイケメン」
「いつもだろ」
「はい、いつもです」
「お前も即答じゃないか」

 ぺしん、と軽く頭を叩かれる。

「怜くんが格好良いのは事実ですぅー!」
「わかったわかった。お前に振った俺がバカだった。それで、お前の我が侭は?」
「えっとね、今後、ぼくもこうして怜くんに差し入れすると思うんだけど……怜くんにだけ、食べて欲しい」

 言い終えて、ぎゅっと目を瞑る。
 呆れられるのは分かってるけど、その顔を見る勇気がなかった。

「今までも、そうしてきてるだろ?」
「え、でも七瀬くんと……」
「七瀬と?」

 何の話だ? と怜くんが首を傾げる。
 ぼくは影から見ていたことを、怜くんに打ち明けた。
 怜くんの眉間に皺が寄る。

「声をかけろ」
「うう、ごめん、盗み見るつもりはなくて……」
「そういうことじゃない。お前の勘違いだ」

 声をかけていたら、勘違いをせずに済んだと怜くんは言う。

「勘違い?」
「七瀬が食べてたのは、眞宙からの差し入れだぞ」
「眞宙くんから? でもあのとき、眞宙くんは何も買ってないよ?」
「南は?」
「南くん? 南くんなら、確か夜食用に……」
「それが差し入れ用だったんだろ。ちっ、あいつは余計なことを」

 理解が追いつかないぼくの頭を、怜くんが撫でる。

「大方、眞宙がお前の勘違いを助長させたんだろ? 他には何かされなかったか?」
「何かって、眞宙くんに?」
「そうだ。手は出されてないだろうな?」

 手、というのは、言葉通りの意味じゃないよね?
 じっとりと背中に汗がにじむ。
 どうしよう……ぼく、からかわれたのも含めて、何回か眞宙くんとキスしちゃってるんだけど。
 眞宙くん的には、あやしてくれてる延長なんだろうと、今まで深く考えてこなかった。
 けど怜くんからしてみれば恋人だと思ってるぼくが、他の人とキスしてるわけで……あわわわっ。

「保、話せ」
「あの……」
「話せ」
「眞宙くんと、その……」
「眞宙と、何だ?」

 眞宙くんの名前を耳にした途端、怜くんは両手を床に着いて立ち上がった。
 既に顔が険しい……!

「き、キスし……怜くん!?」

 言い終わる前に、怜くんは部屋を出ていこうとする。

「先に眞宙を殴ってくる。あいつは俺の考えも、気持ちも知ってるはずだからな。お前は俺が戻ってくるまで、その警戒心のなさを反省してろ」

 止める間は一切なかった。
 というかドアの前に立った怜くんは無表情になっていて、その温度の無さに後を追うのを躊躇われた。
 どうしよう。
 氷の帝王様を、降臨させてしまった。
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