乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

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「ずっと?」
「挨拶してから、一言も話さないんだ」

 アルフレッドが相手だから?
 けれど返事ぐらいしそうなものだ。
 ソファには座らず、アルフレッドの傍で片膝をつくエリックを見る。
 僕が気にしているのが伝わったのか、アルフレッドとイアンも彼に視線を集中させた。

「ルーファスお兄様、くすぐってみたらどうでしょう?」

 イアンの提案に、エリックが肩をビクッと弾ませる。
 そこまでする必要はないよ、と言う僕の隣で、アルフレッドは首を傾げた。

「くすぐ……? って何だ?」
「体をくすぐるんですよ。もしかして、アルフレッドは知らないんですか?」
「し、知ってるぞ! 体をくすぐるんだろ!」
「それは今、ぼくが言いましたよね?」

 アルフレッドの反応を見たイアンが、指をわきわき動かす。
 どうやらアルフレッドは、くすぐられたことがないらしい。
 幼児期に経験して、記憶が残っていないだけかもしれないけど。

「な、何か嫌な予感がするぞ……」
「試してみるのが一番早いですよ。ねぇ、ルーファスお兄様?」

 そこで話を振られても。
 しかし僕が答える前に、イアンはアルフレッドへと飛びかかった。

「こちょこちょこちょー!」
「うわっ、やめっ……ひゃう!?」

 アルフレッドもイアンから逃げるため、僕から離れる。
 二人に挟まれる圧がなくなって、やっと僕は人心地がつけた。
 ソファの端では、アルフレッドがイアンの容赦ない責めに涙目になってるけど。

「やぁっ、ひっ、ひぃーっ」

 どこかのタイミングで助けようと思いつつも、二人の様子は子犬がじゃれているようで微笑ましい。
 傍にいるエリックも、今すぐ主を助け出すべきか悩んでいるようだった。

「エリック」
「はっ、ルーファス様、くすぐるのだけはご勘弁を」

 僕の呼びかけに、エリックが後ずさる。
 するつもりはなかったけど、そういう反応を見せられると嗜虐心が刺激されるからやめて欲しい。

「喋らないのは、アルフレッドの前だからか?」
「いえ、これは……父から、口は災いの元と言われたので」

 それは夜会での一件でだろうか。
 僕が問う前に、エリックが答える。

「ルーファス様にもご迷惑をおかけし、自分も反省することが多くありました。だから不用意に口を開くのはやめようと決めたのです」
「……伯爵家からも何か言われた?」
「……」

 沈黙が答えだった。
 あの場で、エリックは伯爵家の少年を否定した。僕からすれば、悪いのは少年のほうなんだけど、彼の言い分は違うだろう。
 貴族社会では、下の者は上の者に逆らえない。
 これこそ王妃様が憂いておられる上流階級の横暴なんじゃないか。
 そう思うものの、僕にできることはなくて歯がゆい。
 口を閉ざしたのは、エリックなりの処世術なんだ。
 でも。

「エリックさえ嫌じゃなければ、僕の前では話して欲しい。僕はエリックの声が好きだ」
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